やる気いっぱいで入社してきた新入社員。ところが日を追うごとに表情が曇っていったり、中には不満顔を見せたりする人も……。入社前のイメージと実際の仕事とのギャップが原因として挙げられますが、「そんなのは甘え」と切り捨てていいものでしょうか。先輩社員、上司として“良い対応”とは?

あなたの元へも新入社員がやってきましたよね、きっと

毎年のことなのですが、新入社員を見ているといろいろな気持ちがこみ上げてくるのは私だけでしょうか。

例えば「私にもあんな頃があったな」というごく平凡な感想から、「お肌のハリがやばすぎる」という若さへの嫉妬、「どうしてみんな似たような印象なのだろう」という、アイドルの顔と名前が一致しなくなるのと同じ現象が起き、ふとつぶやいてしまうなど。まあ、とにかく、今年もまた、新入社員がやってきたわけです。

ある程度の規模の企業だと、まず新人全員で集合研修を実施し、6月をめどにして仮配属を行い、その後本配属を決定するという手順を踏むところが多かったのですが、最近はこの手の慣習はかなり薄れており、新人でも簡単な研修が済んだら即、現場に配属というケースも多いよう。

となると、新人がつい口にしてしまう代表的なあのセリフは、昔以上によく聞かれるようになっているかもしれません。皆さんにも経験があると思います。

「こんなはずじゃなかった」

さて、ここで問題です。このシンプルかつ、ポピュラーなセリフに対して、職場の先輩もしくは上司は、どのように答えればいいのでしょうか。

会社がどうやって彼らを入社させたのか、あなたはご存知?

なぜ彼らはそうした発言をするのか。そのセリフを口にした新入社員自身についてもよく知る必要がありますが、それ以上に先輩社員、上司である皆さんが知っておくべき情報があります。それは、皆さんの会社が新入社員を入社させるために、どのような話をして説得したかということです。

新入社員の多くが、「御社に入りたいです」と、自ら志望して入社していることは事実です(ま、あくまで建前ですが)。しかし実際は、採用担当者たちが、企業の代表として志望者を選抜すると同時に、彼らに対して「ウチに入社してくれれば、こういう仕事ができるよ」とか「キミのその能力を生かすことによって、うちのこういう事業に貢献してくれ」という未来予想図のようなもの、つまりは“こんなはず”を振りかざして、入社を決意させているのです。選んでいる企業もまた、学生から選ばれているのです。

新入社員がぶつかる「そんなはずじゃなかった」の壁。入社前のイメージと実際の仕事にギャップが生まれるのは、会社側の採用活動にも原因がありました。では、その上で、現場の社員としては、どうすればよいのでしょうか。

その彼らが「こんなはずじゃなかった」と口にする理由の多くに「話が違いすぎる」というものがあります。ただ、配属先である現場としては、いま目の前にいて軽い絶望を覚えている新人に対して、採用時点でどんな約束が成されたのか、よく分かっていないというのが正直なところです。そこが分からないと、彼らの絶望のきっかけも真意もつかめません。

そこで、まずは自社のWebサイトのリクルーティングページをじっくりと読んでみてください。先輩の声と称して、同僚たちが格好良い写真とともに、キラキラとした仕事ぶりをこれ見よがしにアピールしているはずです。当然、そんなものをうのみにする学生はイマドキ少なくなってきてはいますが、それでも自らが所属している企業が、新戦力に対する“そういう期待”を喧伝している事実を、しっかりと承知しておくべきなのです。

「そういうものだ」というセリフだけは言ってはならない

さて。新入社員の「こんなはずじゃなかった」というセリフへの答え。最悪なのが「仕事とはそういうものだ」という回答。「私たちの若い時もそうだった」という経験を理由としてセットにした話だとしたら、これはもう絶対に避けなければならないパターンです。

考えたら分かると思うのですが、入社前にアレヤコレヤの約束をして、いろいろと夢を見せた後で「いやー、それはまあ、言葉のあやというものですから」という、ある種の詐欺まがいなことが通用する時代ではありません。

当然のことですが、自分の置かれている環境に絶望して、こんなはずじゃなかった、と言ってしかるべき高い能力が備わった新入社員は、ごく稀にしか存在しません。しかし「社会とはそういうものだ」とか「そういう理不尽さを乗り越えてこそ仕事だ」という話は、もはや時代錯誤でしょう。まずは、皆さんが新入社員だった時代とは違うのだという認識を、持つ必要があります。その上で、皆さんが先輩として格の違いを見せつけつつ、彼らを納得させる方法が一つあります。それは“仕事の面白さを説明する”ことです。

理不尽さを経験させるよりも、仕事の面白さを教えよ

現在、新入社員に与えられている仕事が、単調でとてもつまらないものだったとします。バリバリと活躍することをイメージしていた彼らにとっては、こんなはずじゃなかったのに、と言いたくなる代表例でしょう。

しかし、同時にその仕事も誰かがやらなければならない仕事であり、かつ、最初にその仕事に取り組んでもらうというからには、それなりの理由があるはず。その説明をするところから始めると、彼らを絶望の淵から救い出せるかもしれません。

「そんなことは自分で考えろ」と言いたくなる気持ちは分かりますが、ビジネス社会での経験が少ない彼らにとって、そのセリフがいかにナンセンスなものであるか、ピンと来る人は多いと思います。経験がないということは、考えるためのキッカケのようなものがゼロに等しく、いくら考えても分からない、というループにはまってしまいがちなのです。

仕事の仕組みを教える、そして、その先にある面白さを理解させる。簡単なようで骨が折れる作業です。しかし、少し時間を割いてでも、この説明をすることに意識的に取り組んでみてください。そうすることで、あなた自身も日々の業務の矛盾や改善点がうっすらと見えてくるはずです。そう、彼らを育てること、そして、こんなはずじゃなかったと言わせないことは、実は自らの仕事にもプラスになってくるのです。あなたが感じている仕事の面白さを言語化することで、新入社員だけではなく、自分自身の日々のモチベーションもアップするはずですから。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。