日本の長時間労働に絶句する海外有識者

8月28、29の両日、外務省による「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(略称:WAW!2015)」に参加させていただきました。登壇した2日目のハイレベル・ラウンドテーブルのテーマは「ワークライフ・マネジメント」です。

「ワークライフ・マネジメント」のラウンドテーブル。安倍総理も出席。左奥から3番目の白いスーツが筆者。

午前、午後のセッションの中、小室淑恵さん(株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長)が「日本では労働時間の上限がないに等しい」と発言しました。労働時間の延長や休日労働を認める「労働基準法」36条にちなんで「36協定(サブロク協定)」と呼ばれますが、小室さんが「労使が合意すれば月200時間もの労働時間を課すことができる。その合意をして協定を結んでいる企業が7割なんです」と訴えたのです。すると私の隣にいた米国のメラニー・バービアーさん(ジョージタウン大学女性・平和・安全保障研究所所長(米))が驚いて、「200時間?」と通訳の間違いではないかと確かめる場面がありました。間違いではないとわかると、ひとこと「Costly!」と。

日本の長時間労働の実態がまだまだ海外に知られていない、日本の労働をめぐる環境は世界の女性活躍先進国とは全くかけ離れた状況にあることが、このセッションを通じてよくわかりました。

セッションの登壇メンバーはキャシー松井さん、内永ゆか子さんなどキャリアウーマンを代表する女性たち。男性は小林喜光(経済同友会代表幹事、三菱ケミカルホールディングス取締役会長)がリーディングスピーカーを務め、海外からはミカエリア・キャッシュさん(オーストラリア移民・国境警備担当閣外大臣兼首相補佐大臣)など、外国から8名、日本人から10名というメンバーでした。海外からのゲストは米、豪、タイ、韓国、中国からで、大臣など政治分野の方が多かったのですが、政界の前は民間企業というバックグラウンドで、経営者としての視点も持っています。

各国とも、男性の家事参加に不満

WAW!は、昨年から始まったイベントで、世界各国の有識者が集まります。「女性であることが、レイプや命の危険につながるような過酷な環境」の女性から、ガラスの天井を破ろうと努力する先進国の女性までいるのですから、問題を共有することだけでも大変です。日本の特徴は、女性に関しては、先進国とも発展途上国とも共有できる問題があるということです。

この「ワークライフ・マネジメント」というテーマについても、さまざまな環境の違いを感じました。例えばミカエリア・キャッシュ氏(豪)が「男性の家事、育児への参画については、豪州においても満足できる状況ではない」と発言しましたが、豪の男性は日本の男性の約3倍の育児、家事時間があります。男性が家事育児に参画する豪、米と、メイド、ベビーシッターが当たり前のアジア……全く日本の環境は違うのです。おもしろいことに、このような問題を海外の女性と論じると、日本よりもはるかに男女共同参画が進んでいる国でも、自国の男性たちの家事・育児への参加度には満足していないことがよくわかります。

各国の男女ともに「ワークライフマネジメントはnever endingの課題」という共通の認識がありました。その上で、特に日本の「長時間労働」や「硬直的な働き方」が課題としてとりあげられました。

日本はITの技術がありながら、「管理職の無知や意識」の問題で「柔軟な働き方が実現できていない」のです。「トップがITオンチなのがいけない。全員に研修をしたほうがいい!」という意見も出たぐらいです。

国が労働時間を規制すべきか?

長時間労働に関しては、私はドイツのように国が労働時間規制を強く入れるほうがいいと発言しました。なぜならドイツと日本は非常に環境が似ている。「ほうっておくと働き過ぎてしまう気質」だからです。またドイツにも「カラスの母親」ということばがあり、「仕事ばかりで育児をしない母親はカラスの母親といわれ、批判される」そうです。良妻賢母の縛りがあるところも日本と似ています。

「やる気のある女子大生にアンケートすると、早く結婚して、早く出産してバリバリ仕事もしたいと思っているんです」。筆者の発言に面白い反応が……!!

モデレーターである仲條亮子さん(Google執行役員)が、その場で「国が労働時間の規制をいれることに賛成、反対」で手を挙げるよう促すと、経営サイドの有識者は「労働時間を国がコントロールすることには反対」という人が多い。小室淑恵さんから「経営者からは労働時間について国が規制をすることに抵抗が多い。決められた労働時間を守って業績をあげる企業には法人税を下げるなどのインセンティブを」という発言もありました。

私は「最近の一番仕事にやる気のある女子大生にアンケートをとると、早く結婚して早く出産して、バリバリ仕事もしたいと思っている。若い育成期は仕事のことだけを考えなければいけないという風潮は違うのではないか?」と発言しました。

するとおもしろいことが起きました。隣のメラニー・バービアさんが私の手をとって「あなたの言う通り。最近の若い世代、ミレニアム世代の価値観は違う。それに対処していかなければいけない」と言ってくれたのです。

それを皮切りに韓国、タイ、オーストラリア、それぞれのトップクラスの女性たちから「変化が起きている。人生における優先順位の大きな変化を見るべき」「面接時にまず『何日休暇があるか?』と聞く。お金だけではない。若い世代はWLBを求めている」という発言が相次ぎました。

米国では今若い女性たちは「セクハラへの対処や年間の休暇について雇用条件を自分からオファーしている。柔軟な働き方を提案したり、オファー競争が企業間で起きている」状態ということです。

ミレニアム世代の希望にどう応えていくか

感心したのは、各国のトップクラスの女性たちは「若い人たちは甘っちょろいことを言ってけしからん」ととらえるのではなく、「ミレニアム世代にとってアトラクティブな企業にならなければいけない」と柔軟に変化しようとしていることです。

それはなぜか? どこの企業も苦労しているのは「人材獲得」競争だから。

「スーパーウーマンになりたいわけじゃない。みんな個人の人生を生きたい」という多様化にミレニアム世代を雇用したい企業は対応しなければいけないということです。

人材獲得競争という事情と、かつてのように女性が途中で辞めるのではなく、女性の働く期間が長寿化しているということもあります。

「ミレニアム世代に対応して、変化していかなければいけない」

女性活躍の先進国から来た、女性活躍のトップを走る女性たちが口をそろえて言う。

それがこの2日間を通じて一番印象に残った出来事でした。

私が若い女性たちと話すとみな悩んでいる。望む働き方がないからです。バリキャリでもなく、ゆるキャリでもなく、その間はないのか? という声もありました。

この2日間と若い友人たちの声をヒントに、20代の男女と「ミレニアム世代の働き方を経営者とともに考えるPJ」をやることにしました。

彼らの声に耳を傾けることが必要です。海外では、特に米国では「ミレニアム世代のマーケティング」などの記事が毎日掲載され、彼らにとってなにが魅力なのか? どんなアプローチをすればいいのか? と非常に注目されているそうです。しかし残念ながら、日本のミレニアム世代は、少子高齢化で数が少ない。日本のミレニアム世代は数が少ない分、2倍も3倍も発信してほしいと思っています。

安倍総理のコミットメント

最後にWAW!2015での安倍総理の基調講演から引用しておきます。

「最大の壁は、男性中心の長時間労働を是とする働き方文化です。男性が自ら、気づき、行動を起こさなければ、この悪習を断ち切ることはできません。まずは、限られた時間で効率的に働くことを評価する企業文化を広げ、夫も積極的に育休を取得し、家事や育児を夫婦で共に担う。それを日本で当たり前にしていきます。そうなれば、男性も女性も、生産性の高い仕事と豊かな生活を無理なく両立できるようになり、個人としても、家庭においても、地域においても、より充実した人生を送れるようになるでしょう。女性活躍は男性の人生をも豊かにしてくれるのです。そういう社会を実現するためには、企業も、社員が育休を取得しやすい職場環境を提供しなければなりません。政府の調達でも、ワーク・ライフ・バランスに取り組む企業を、より積極的に評価し、後押ししていきます」

このように国のトップが強くコミットメントしています。男性も女性も、充実した人生のために、男性が企業が気づき変わらなければいけないと。

日本はことさら「女性の主張」を嫌う傾向があります。女性自身が女性の権利主張になりすぎてはいけないと気を使いますが、「女性活躍は男性の人生をも豊かにしてくれる」のですから、自信を持って、どんどん発信していきましょう。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)