未来の自分の幸せのために、今できること、すべきこととは? 連載「働き続けると決めたあなたへ ─マインド編」、第3回は前回から引き続き“管理職”について考えます。
マネジメント経験があれば、転職に有利になる
第一線で働く女性は、もしかすると男性以上に、転職ということをもっと積極的に捉えて、活用していいのではないか。それを思うきっかけになったのは、『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(株式会社コンコードエグゼクティブグループ代表取締役 CEO 渡辺秀和氏著)という本でした。「女性はブランクを見据えて慎重に分野を選ぶべきではあるが、転職を活用して働き続けることができる」という内容に新しい可能性を感じ、ぜひお会いしたい、とインタビューを申し込みました。その中で最も印象に残った言葉が、「女性はマネジメント経験を怖がらないでほしい。転職に有利になるから」というものでした。
たとえば子育てが一段落して、30代後半で再就職しようとした場合、会社側はある程度部下を任せられる「上司」として採用したいことが多いものです。なぜならば日本企業の多くは、いまだに「年下が年上の部下を持つ」という役職と年齢の逆転に対する抵抗感が強いため、転職希望者の年齢が上がるにつれ、上司としてのほうが採用される枠が広がります。したがって、管理職の経験があれば、会社側もその実績を買っての採用がしやすくなります。
それでも「私には管理職なんてムリ」と思っているあなたに、あるいは管理職になったばかりで不安の塊になっているあなたに次のメッセージを送ります。
管理職に対する心のハードルを下げる3つのメッセージ
【1.仕事の手応えが増す】
マネジメントとは、仕事を分担し、部下が実行できるように差配することです。その結果、プレーヤーとして1人で仕事をするよりも、導き出す結果が大きくなるのです。大手企業で管理職をしている友人はそれを「自分の色が出せる」と言いました。
ちょっと分かりづらいかもしれませんが、中学・高校時代に、クラスやチームのリーダーとして、スポーツ大会などに取り組んだことがあれば、それを思い出してみてください。あるいは大学のサークル活動でも構いません。試合などに勝ったときの感覚、まさにあの達成感や喜びに近いもの、と言えば伝わるでしょうか。
1人で取り組む仕事の結果と、自分が率いるチームメンバー全員でする仕事の結果とでは、後者のほうが大きなものになるはずです。さらに、その中で責任者というプレッシャーを感じながら、自分で立てた方針に基づき、チームを率いて業務を推し進めるからこそ、成果を出せたときには、メンバー全員でやりがいを分かち合うことができる。この醍醐味を味わえるのは管理職ならではです。
【2.完璧なリーダーはいない】
管理職を目前にした女性を対象とする研修でよく聞かれるのが、「私にはリーダーシップがないので、管理職となる自信がない」というものです。確かに、管理職にはリーダーシップをはじめとして、求められる力がいろいろあります。しかし、特別な条件を必要とするわけでも、カリスマ性がなければリーダーになれないわけでもありません。
管理職になることは、男性でも不安だらけになることが多いもの。管理職になったから絶対にミスが許されない、完璧な管理職にならなくては、というプレッシャーにおびえるよりも、ミスも踏まえて成長しながら、組織の利益に貢献することのほうが重要です。
管理職の声がかかった場合には、期待してくれた人を信じて、まずはチャレンジしてみましょう。
【3.仕事のやり方を変えるチャンスと捉える】
「管理職は長時間働かなくてはならないから、プライベート重視派の自分にはムリ」「子育てと両立できないかも」。そのような不安や妄想から、管理職を断念するケースが多くあります。
これは非常にもったいないことです。管理職といっても、まずはプレーヤーとして実務を行いつつ、少人数の部下のマネジメントを行うプレーイングマネージャー的な役割を求められるケースが多いのではないでしょうか。そういった場合は特に、プレーヤーとしてだけではなく、マネージャーとしての業務が発生することとなり、仕事量が増えることもあります。しかし一方で、これは部下にどのように仕事を任せていくか智恵をしぼると同時に、「今、チームで取り組んでいる仕事が、本当に全部必要か」を見直すきっかけにもなるはずです。
そのときは自分のチームで抱えている仕事を洗い出してみましょう。本当にすべてがあなたのチームでやらなくてはいけない仕事でしょうか? 無駄なものはありませんか? ほかのチームに頼めるものは? 後述しますが、「人に仕事がついて」いて効率が悪くなったり、チーム内で二度手間になっているような業務はありませんか?
まずは業務の整理、「不要なものを捨てること」から。これは女性に限らず、管理職になったら誰もがやるべきことです。そして、次にやるべきは整頓。整理したそれぞれの仕事を誰がやるかを決めることです。
コツは、「人に仕事をつけず、仕事に人をつけること」。これから先、産休・育休に限らず、介護などの理由で長時間働けなくなる人が増えていくと見込まれています。そんな状況で、担当者がいつも社内にいるとは限りません。だからといって、「担当者がいないから対応できません」では信頼を失いかねません。たとえば、顧客から納品問い合わせの電話が入ったときに、営業担当者が病欠だったとします。その人がでてこなければ分からない状況では、至急のオーダーに応えることができません。そんなとき、社内ネットなどで納品日や内容についてあらかじめ共有化されていれば、ほかの担当者が確認して、回答することができます。そのような仕組みを作ることも、管理職の仕事のうちです。
まだまだ続く「仕事人生」、その経験値を分厚くするために
これから管理職になる人、また現在管理職として苦労している人もいると思います。冒頭の渡辺氏のメッセージにあるように、たとえ今の会社を辞めるとしても、マネジメントを経験したということで、あなたの市場価値は上がります。連載第1回「『働き方年表』で今こそ未来を考える ─仕事、結婚、出産」(http://woman.president.jp/articles/-/370)で紹介した小紫式「働き方年表」を見れば分かる通り、30代後半で仕事復帰したとしても、そのあと30年も(!)、働く期間があるのです。
管理職になることは自分自身のためになります。仕事が楽しくなり、会社や社会にインパクトを与えられるチャンスが広がります。また、出産育児の時期と重なったとしても、管理職を経験しておけば、数年してから仕事に復帰する場合に、あなたの市場価値を押し上げてくれるのです。
デキる仕事が増える、仕事での成果がより大きくなる、さまざまな分野で世の中を動かしている魅力的な人たちと会える……、これら以外にも管理職という役割と仕事を通じ、見える世界が広がります。長い人生のうち、まだまだ続く社会人としての期間。生き生きと成長しながら働き続けていくためにぜひ、頑張ってほしいと思います。
中小企業診断士。 経営コンサルタント事務所Office COM代表。二児の母。東京大学経済学部卒業後、大手通信会社にて主に法人営業に従事。1998年中小企業診断士取得後、のちに退職。10年間の“ブランク”を経て、独立開業。
現在は企業研修講師や中小企業への経営支援、執筆活動を行う。企業研修では会計、ロジカルシンキング等ビジネススキルを伝えるとともに、女性経営者を中心に数値とロジックに基づいた経営の重要性を伝える自主セミナーを展開。
最近は、これまでの実績と、自身の大企業勤務→専業主婦→子育てしながら独立開業、という経験を踏まえ、女性の働き方についての執筆や講演に力を入れている。「活き活きと働くオトナが増える社会」を目指して日々活動中。