安倍政権は、2020年までに企業の指導的地位での女性の割合を30%にするという目標を掲げています。現状はどうなっているのでしょうか?
編集部では独自で緊急アンケートを行い、結果をわかりやすく整理しました。

調査概要:2014年9月~10月、主要企業185社に対して女性管理職の数、登用目標などについてアンケートを行い、そのうち129社から回答をいただいた。

▼データで見る「女性の昇進」前回の記事はこちら
http://woman.president.jp/articles/-/421

――女性を活用する会社は、そうでない会社に比べて株価が高く、業績も伸びているという調査結果もあります。それはなぜなのでしょうか?

【渥美(東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長)
女性活用による経営効果は4つあります。1つは人材確保。成績と討論で採用試験を行うと、過半数を女性が占めるという企業が90%になります。でも、男子学生に下駄を履かせて、男性を多く採用しているのが現状です。

就職活動中の女子学生は、女性が働きやすいか、女性管理職の割合が高いかどうかをチェックしていますから、女性を積極活用する企業には、優秀な人材が集まってくるようになります。

長く休むとキャリアロスになる

今は人口減で、男性だけで優秀な人材を確保できる時代ではありません。だからこそ女性にも裾野を広げるほうが企業にとってもプラスになるのです。

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業界別女性管理職比率ランキング

2つめはモチベーション。女性が働きやすい制度が充実しているということは、男性にとっても働きやすい会社です。育児や介護などでバリバリ働けなくても、評価が下がることなく働き続けられるので、仕事へのモチベーションを維持しやすくなります。

3つめは適材適所で人材を活用することによる組織の効率化。そして4つめが多様性。多様性のある視点をビジネスに生かせば、成功するチャンスが増えます。これら4つの効果が相乗的に作用することで、企業の業績が伸びるのです。

ワーキングマザーなど、さまざまな働き方をする人が増えると、企業の人事労務管理コストはかさみます。導入から数年はコストのほうが多い。でも、ここを乗り越えると5~10年で損益分岐点に達して、企業に利益をもたらし続けるというサイクルに入れます。

かつて企業は女性支援のために、育休期間の延長や、時短勤務など休ませる施策を充実させていきました。その結果、休んだ人はキャリアロスで昇進できなくなり、現場ではワーキングマザーは“お荷物”だと反発が起きました。だから、キャリアのある人を極力早く復帰させ、短い時間でもしっかり働いてもらって成果をあげさせ、それを正当に評価するほうが、企業にとっても大きなプラスになるのです。

なぜ女性は管理職になりたがらないのか

――多様な働き方を実現させるためには、マネジメントする側の意識改革も求められますね。

【渥美】労働時間の長さではなく、時間内にしっかり結果を出せる人を正当に評価できる仕組みの確立が重要です。

女性活用のマネジメントでありがちなのが、男性管理職が理解ある上司のつもりで、ワーキングマザーに「子どもが小さいんだから早く帰りなさい。仕事は引き受けるから」と、代わりにやってしまうケースです。

一時的にその女性部下に感謝されるかもしれませんが、その管理職の負担が増すだけですし、周囲の社員が「彼女だけずるい」と思うようになります。

ワーキングマザーだけでなく、管理職も含めて時間内に結果を出し、早く帰れるように業務改善することが求められているのです。

――逆に、当の女性がみんな管理職以上になりたいのかといえば、そうともいえません。女性の意識改革も必要なのでしょうか。

【渥美】たとえ残業代がなくなり、長時間労働がひどくなっても、男性なら名誉欲が強いから、管理職というポジションを引き受けます。一方、女性は目の前の仕事に愛着を持ち、その仕事をずっと続けたいと思う人が多いので、責任や労働時間が増え、給料が減る管理職に魅力を感じるはずがありません。

最近、若手は女性だけでなく男性も管理職になりたがらない傾向があります。だからこそ、年齢や性別を問わず、管理職に憧れたくなる環境を整えることが大切なのです。

また、女性も独身の頃から120%の力で仕事をするのではなく、70%の力で90点を取るような仕事のやり方を身につけておくといいでしょう。

子どもが生まれてから定時で帰るべく、慌てて働き方を見直そうとしても、なかなか変えられないもの。独身時代のように仕事に全力投球できず、子育ても不十分となると、中途半端な自分が許せなくなり、辞めることを選んでしまう女性も多いのです。

男性にも多様な働き方があっていいのでは

――女性の活用は、本当に社会全体を変えることにつながるのでしょうか。

【渥美】女性ってマイノリティーの中でも最大多数派なんです。障害者や外国人、LGBTの人はもっとマイノリティーですから。女性でさえ活躍できない社会は、他のマイノリティーはもっと活躍できない。だから、女性の活躍が進めば、いろんな方向に波及していくので、絶対に進めていかなくてはならないんです。多様な価値観や働き方が当たり前になる、これがダイバーシティの考え方なんです。

多様性って実は男性にこそ必要なもの。女性は結婚、出産など仕事を続けるかどうかと選択肢がすごく多いので、その過程で多様性が培われ、心の中に何本もの支柱を持てるようになります。これは心の健全性にもつながります。

いろいろな価値観や多様性があればあるほど面白い視点が持てますし、新たなビジネスにも結びつく。そうなれば、日本はもっと強くなれると思うんです。


【アンケートにご協力いただいた企業】
旭化成/アサヒビール/旭硝子/味の素/アステラス製薬/IHI/アストラゼネカ/出光興産/伊藤ハム宇部興産/SGホールディングスグループ/SMBC日興証券/NEC/NTTドコモ/MSD/大林組オリンパス/大阪ガス/大塚製薬/花王/カルビー鹿島建設/カゴメ/川崎重工業/関西電力/かんぽ生命保険/キユーピー/JR九州/キリン/近畿日本鉄道/キッコーマン/キヤノン/グラクソスミスクライン/KDDI/コーセー/コスモ石油/コニカミノルタ/小松製作所/サークルKサンクス/サントリーホールディングス/新日鐵住金/JFEスチール/新生銀行/JR東海/JR四国/JR北海道/資生堂/昭和電工/ジョンソン&ジョンソン/JX日鉱日石エネルギー/シャープ/信越化学工業/住友電気工業/住友林業/住友商事/住友化学/西武鉄道/積水ハウス/セブン&アイ・ホールディングス/ソニー/損保ジャパン日本興亜/大和ハウス/大丸松坂屋百貨店/竹中工務店/大和証券グループ本社/高島屋/武田薬品工業/第一生命/大成建設/中部電力/帝人/東急電鉄/東レ/東京海上日動/東京電力/東芝/豊田自動織機/トヨタ自動車/西日本電信電話/日本生命保険/日本たばこ産業/日本郵船/ニコン/日産/日本イーライリリー/西日本旅客鉄道/日本マイクロソフト/日本航空/ノバルティスファーマ/パナソニック/東日本電信電話/JR東日本/日立製作所/日立造船/P&G/富士フイルムホールディングス/富士重工/富士通/本田技研工業/日本マクドナルド/マツダ/丸紅/マルハニチロ/三菱化学/三菱UFJモルガン・スタンレー証券/三越伊勢丹ホールディングス/みずほフィナンシャルグループ/三井化学/三菱東京UFJ銀行/三井造船/三井物産/三井住友海上火災/明治安田生命/三菱地所/三菱電機/三井住友銀行/三菱重工/ヤマト運輸/ユニリーバ/ユニチャーム/ライオン/楽天/りそなグループ/リコー/LIXIL/リクルートHD/ローソン/JTB/順不同


渥美由喜(あつみ・なおき)
東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長。1992年東京大学法学部卒業。国内のワークライフバランス・ダイバーシティ先進企業700社、海外100社を訪問ヒアリングし、3000社の財務データを分析。現在、内閣府『共同参画』に「地域戦略としてのダイバーシティ」を連載中。2児の父として育児休業を取得し、現在は介護も実践している。