再就職、転職……、働く女性にチャンス到来!
今言われている「女性活躍」施策の恩恵を受けるのは、大企業で正社員として働くキャリア女性だけではありません。さまざまな理由で仕事から離れている女性、派遣社員や契約社員などの非正規雇用の女性にとっても、正社員として再就職や転職するチャンスが増えることになります。
正社員として就業継続し、活躍する女性たちが増えれば、子どもを持ちながら企業で働く環境も整い、時間の制約がある中で働く女性への評価も上がってきます。そうなれば、中途採用においても、子どものいる女性に対するハードルが下がることになります。これまでは、子育てのために時間制約のある人が活躍できる環境がなかったから、子どものいる女性の再就職も難しかったといえます。
実際に、女性の再就職や再雇用に、企業が前向きになってきています。これには、採用を絞っていた就職氷河期入社組が極端に少なく、今後、管理職層が不足することを懸念する企業が、一度退職してしまった女性やキャリア採用に目を向けていることもあります。景気が上向いてきて、若者の人数は減っていますので、すでに採用が困難になっている中小企業などでは、子育てなどで仕事をしばらく離れている女性たちへの期待があり、インターンシップ期間を経て採用を行う仕組みなどで国も企業と女性とをつなぐ支援を行っています。こうした状況に加えて、女性管理職にスポットが当たり始め、今後は、女性管理職や管理職候補となる女性を中途で採用しようと考える企業も増えてくるはずです。
「子どもがいる女性」を成長させる企業が生き残る
私は日ごろ、コンサルタントとして企業の管理職のみなさんの研修をさせていただくことも多いのですが、管理職からは「『早く帰らせて』と言いながら『やりがいのある仕事もほしい』と言う女性はわがまま」という声を耳にすることがあります。しかし、経営の立場から見れば、「早く帰れるよう支援しているのだから、勤務時間内にはしっかり成果を上げて欲しい」と考えるはずです。ですので、それは逆に管理職のみなさんの問題なのです。これからの時代は、いろいろな働き方をする人に、能力を発揮して職場の戦力になってもらうことを考えるのが、経営者、管理職の役目です。短時間勤務だから仕事を任せないというのは、短時間勤務利用者の希望というより、管理職にとってその方がむしろ楽だからそうしている場合が少なくありません。
昔は、「女性は辞めるから採らない」だったのが、最近は「短時間勤務の女性は使えない」からこれ以上女性は欲しくない、という職場の声も出てきています。短時間勤務の女性から、仕事の責任や負荷を外してしまうことが、このような現象につながっています。状況をそのままにしておくのは非常に危険で、女性の採用を絞ろうというような影響を与えかねません。
これから、家族の介護に関わる人も増えますし、高齢者の雇用延長も広がります。長時間働けない人はますます増えるでしょう。こうした人たちの能力を活用し、伸ばせない企業は、いずれ立ち行かなくなってしまうのではないでしょうか。
企業経営者は管理職に対し、短時間勤務であってもきちんと仕事を任せ、成長させるよう、強いメッセージを伝える必要があります。確かに簡単なことではありませんが、新人を育てるのと同じです。チャレンジさせて、できなかったらフォローするのは上司として当たり前なはずです。
「短時間勤務の先」に認識のギャップが!
現状、企業の取り組みが「両立支援」にとどまっている理由の1つには、企業側と女性側の認識のギャップがあると思います。企業側は、育児休業から復帰して短時間勤務をしている女性たちに対して、「さあ、次はフルタイムで働いて」と、従来通りの働き方や男性型のキャリアコースに乗ることを期待しています。その一方で、当社で行った調査によると、育児休業から復帰した女性の中で、今後も長くこの会社で働いていくことを決意できている人は半分程度。多くは、「今は短時間だから仕事が続けられているけれど、短時間勤務の期間が終わってフルタイムになったら、続けられないのでは?」と不安を持っています。人事担当者は、このことを認識する必要があります。
以前は結婚や妊娠で退職し、専業主婦になっていた女性たちが、今は短時間勤務の制度があるからこそ仕事に戻れている。従来のような長時間勤務には戻れないと考える女性を責めることはできません。
一方、短時間勤務で働く女性たちにも伝えたいことがあります。短時間勤務であっても、会社で過ごす時間は結構長いものです。短時間勤務で働く女性たちの特徴として、子育てについては、専業主婦家庭とできるだけ近い形で手をかけたいと考える人が少なくありません。ですので、短時間勤務でうまくバランスが取れているようで、実は子育てにかける時間が少ないことを悩んでいたりします。日々の時間のやりくりも本当にハードです。それだけに、仕事の内容が、充実し、成長が感じられるものでないと、長く続けたいとは思えないのではないでしょうか。よく、「短時間で働かせてもらっているので、『やります』と手を挙げて挑戦しても、もしできなかったら周りに迷惑をかけることになり申し訳ない」と、遠慮してしまうという話を聞きます。
「スーツ姿でお迎え」は最先端の働き方
でも女性も、仕事でもっと欲を出していい。積極的に手を挙げてチャレンジしてほしいですね。仕事に意欲がある、ということと、残業ができない、のは別のことです。残業ができないとやる気がないと思われるのではないか、などと心配せず、堂々と仕事への意欲を示して欲しいと思います。そして子育てでも、同じように欲を出してよいと思います。「周りがみんな、子どもを延長保育に預けて遅くまで仕事をしているから、自分もそうしなくてはいけない」というものではありません。自分は早く子どもを迎えに行って、7時にご飯を食べさせたいと思うなら、そこはちゃんと欲を出して貫いてもいいんです。
遠慮し無理をして、「本当はこうしたかったのに」と後悔したり、子どもに罪悪感を抱いたりするのは、良いことだと思えません。短時間でも正社員として働く、それは、これまで多くの日本女性が夢に見てきた働き方です。それがようやく選択できるようになったのです。これから、みんながそれぞれ、少しずつ欲を出して、短時間でも質の良い働き方や子どもとの関わり方を目指していくことが、日本の社会全体のワーク・ライフ・バランスを形づくっていくように思います。
仕事を早く切り上げ、夕方にスーツ姿で一生懸命自転車をこいで子どもを迎えに行く女性たちの姿は、日本企業における最先端の働き方を表していると思います。彼女たちがはつらつと働くことが、日本社会全体にとって、とても大切なことなのです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 経済・社会政策部 主席研究員 兼 女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室 室長。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。2004年~2007年内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。少子高齢化対策、男女共同参画の視点から、ワーク・ライフ・バランスや女性活躍関連の調査・研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』(ミネルヴァ書房/共著)、『介護離職から社員を守る』(労働調査会/共著)等。