働く女性たちは、言いたいことをためている――。9月のある土曜日、30代女性の座談会。話したいことがありすぎて止まらない様子の5人でした。彼女たちの現状を踏まえて、内閣に提案したいことがあります。

佐藤さん/外資系メーカー勤務。日系大企業での経験も。前の職場にいたときに出産し、フルタイムで復帰。1児の母。
白井さん/建築士の資格をもち、不動産業界で活躍。女性総合職は少なく、長時間労働が評価される職場に疑問を感じる。
佐久間さん/IT企業でSEとして活躍。同業界で4社経験があるが、労働環境は厳しかった。現在は働きやすい職場に転職。
大谷さん/大手コンサルでのあまりの激務に、「これは長く続けられない」と感じ、製薬会社に転職、マーケティングを担当。
金谷さん/情報会社で報道を担当してきたが、深夜出勤も当たり前。結婚後、ワークダウンに挑戦するもできず、フリーに。
キャリア女性のための転職サイト「ビズリーチ・ウーマン」の協力を得て5人の方にご参加いただきました。

【金谷】少子化の軽減と女性の労働参加……。この両立は難しいと思います。私の前の職場は、長時間労働が当たり前だったため、女性で出世する人は何かを犠牲にした人ばかりでした。つまり、シングルか、結婚していても子どもがいないか、あるいは旦那さんが主夫化している人ばかり。

【佐久間】エンジニアの世界もそうですよ。2徹、3徹は当然の労働環境だし、女性は結婚すると……。

【白井】「総務に行くよね?」とか言われちゃう?

【佐久間】そうなの。白井さんも?

【白井】ええ。私は建築士の資格を持ち、男性同様に会社の中枢部署で働いているのに、結婚した瞬間、上司や先輩のオジサマ方から「早く帰って旦那さんに夕飯作ってあげなくていいの?」なんて言われましたよ。

【佐藤】私は結婚して2歳の子どもがいるのですが、前職の老舗日本企業のオジサンたちがまさにそうでした。彼らはみんな専業主婦の奥さんがガッチリ家庭を守っているから、女は子を育て、家事をし、家を守るものと思い込んでいる。だから、悪気なく「よくやるよね。女の子なのに」なんて言えちゃうんです。

【白井】でも、日本の大企業は制度は充実していますよね?

【佐藤】ええ。制度だけはバッチリ。短時間勤務(時短)で復帰した女性なんか、腫れ物にさわるような特別扱いでした。

【白井】わかります。会社は時短の女性に気を使う一方で、責任ある仕事は絶対に任せませんもんね。

【大谷】「責任ある仕事」でも単純に量を少なくすれば、時短の人にもできるのに。

【白井】つまり、ワークシェアですよね。でも、その方式だと管理する側が、面倒くさがる。

【佐久間】そもそも男性管理職は、女性を管理したがらない。何を考えているかわからず、面倒くさいから。だから、私は女性社員ばかり管理させられていました。

【金谷】佐藤さん、子育てしながらのフルタイム復帰は大変じゃないですか?

【佐藤】私は昔から、子どもを産むと、なぜ女性だけがキャリアを犠牲にしなければいけないの? と思っていたので、フルタイムでの復帰にこだわりました。でもやっぱり大変で。延長保育を利用しても、夜7時半までがお迎えのデッドラインです。だから、仕事は超効率的にやるしかない。そんなこんなでクタクタになっているとき、夫が遅くまで残業したり、飲み会に行ったりすると、腹が立って。夫は「家族のために残業している」と大威張りだけど、残業できる自由を与えているのは私でしょって。

【白井】そもそも、日本ではイクメンの評価が低すぎますよね。育休を取った男性は「終わった」なんて思われがちですし。

【佐久間】年配の上司から「女房の尻に敷かれてる」なんて言われちゃう。だから、長時間労働するしかない。

【佐藤】私たちだって、できれば残業なんてしたくありませんよね。会社の情報から取り残されたり、評価されないのが嫌なだけで。

【白井】でも日本の会社の評価っていまだに、「長時間会社にいる奴がエライ」が基本だから。ウチの部長なんて接待先から「今、誰がいる?」って電話してきますもん。

【一同】いやだー、それ。

【大谷】私が許せないのは、自分の仕事を早く終わらせても、終わらない人の仕事を手伝わされること。生産性を上げると、かえって損するなんてひどい。

【金谷】私も会社を辞めてフリーになったのはそれが理由です。

【佐久間】入閣した女性を見ても、やっぱり普通の女性じゃない。このままだと、長時間労働する女性ばかりを管理職に上げて、はい「2020年、30%」の目標を達成しました、なんてことになったりして。

【金谷】そんな社会、誰も幸せじゃないですよね!

Dear Prime Minister
法律に定められた労働時間を守るだけでも女性の就業率は高まるに違いありません

■ジャーナリスト 佐藤留美さんから

「安倍さんへ」

アベノミクス効果なのでしょうか。2013年の日本の女性の労働力人口は2804万人と、前年より38万人増加しました。

しかし、その内訳を見ると、少しがくぜんとしてしまいます。女性の多くはパートなどいわゆる非正規雇用者で、その割合は男性の21.1%に対して55.8%に及び、2012年より1.3ポイントも上昇しています。

正社員の女性も、他のOECD諸国と比べて活躍しているとは言いがたい。女性管理職比率の差がそれを物語っています。

なぜ、日本では女性が活躍しにくいのか? 座談会に出席してくれた女性たちが言う通り、多くの女性が子どもを産み、育てる段階で両立の壁を乗り越えられないからです。その最大の壁が、日本の組織に根強く残る「長時間労働信仰」です。

日本の組織では、各人の職務範囲も評価基準も明確ではないため、長時間働く人間を評価する傾向にあります。この習慣が続く限り、子育てのために早く帰る女性は、たとえ短時間で成果を上げたとしても、永遠に評価を勝ち取れないままです。

最近では、短時間勤務制度や託児所を完備する会社も増えています。しかし、総理は時短を選択した女性が、実際には全然「時短」になっていないケースが多いことをご存じですか?

時短を選択する人の多くが、「労働基準法に定められた、1日8時間」くらい働いています。では、なぜ彼女らは給料が大幅に減る「時短勤務」をわざわざ選択しているかというと、それは「残業はできません」というメッセージを送るためです。

逆に、フルタイムの女性は残業を受け入れるしかありません。悲しいかなここ日本では、労働時間規制はあってないがごとし。法律に定められた1日8時間、1週間40時間の労働時間を守るだけでも、女性の就業率は高まるに違いありません。

また、あらゆる雇用者が短時間でも成果を出せばきちんと評価されるように、評価や査定の仕組みを変えること。その前提として、欧米並みに業務内容とミッションを明確にすることが大事だと思います。