安倍政権が「女性活躍推進」を成長戦略の中核としてから、多くの企業が表向きは「女性活躍」に力を入れるようになりました。経営者のトレンドとしては、「女性の味方をしない」のはカッコ悪いことになっているそうです。そして、議論は「産む」×「働く」から、「産む」×「働く」×「活躍」にシフトしてきました。
これまでは「どうしたら、仕事と子育てを両立できるか」という議論でした。女性が「キャリアプランに合わせて産みどきを考える」というものが中心です。
しかし、「出産適齢期」は医学的に見た厳然たる事実。多少の個人差はあっても、動かし難いものです。一方、仕事の都合は人がつくったもの。動かすことが可能なはずです。
「産む」×「働く」だけでなく、重要な仕事を任されて「活躍すること」が求められるなか、「出産に合わせてキャリアを柔軟に変化させられるように」するべきではないでしょうか。「いつ産もうが働くことには支障がない」ようにしなければ、本当の女性活躍などありえません。
フランスで働く友人が「今年は仕事は60%に抑える選択をしている」というのを聞いて驚きました。お給料も6割、そして稼働も6割。自分で働き方を選べるのです。欧米では転職や学校に戻っての学び直しで、キャリアアップを図ることもできる。一方、雇用の流動性が低く、正規と非正規の待遇の違いも大きく、まだまだメンバーシップ制のつよい日本の正社員の場合、いかに1つの企業に「居続けるか」が、収入や活躍を大きく左右します。この柔軟性のなさは、女性の活躍を阻む1つの壁です。
もう1つの壁は、年齢に関することです。今、女性活躍支援の一環として「女性の早期育成」が企業の課題になっています。これまで10年かけていた育成期間を早回しにして5年にする。幹部候補と目される女性を出産する前に育てようということです。その後「出産・育休」などのブランクがあっても、スムーズに復帰できるというわけです。しかし、これも「出産を仕事の都合に合わせている」ことに変わりありません。この方法では、どんなに優秀でも25歳で妊娠したら「育成コース」からはずれてしまう。わずか25歳でその後が決まってしまうのです。
これは会社にとっても損失ではないでしょうか。仮に若くして出産しても、育児が一段落してから働ける期間は長い。現に20代で出産した40代の管理職の女性は、「子どもが大学生になった今が、一番仕事ができる」と言います。40代、50代に働き盛りを迎える女性たちの力を生かさないのは、それこそもったいない。
つまり「年齢と仕事」をセットにして考える慣習が、日本女性の活躍を阻んでいるのです。私は外資系にいた経験から「年齢と仕事をリンクさせること」には何の根拠もないと思っています。「何歳の仕事はこれ」と思いこんでいるだけです。
学生出産も1つの選択肢に
2014年6月、霞が関で働く女性有志から「霞が関の働き方改革」のための提案がなされました。「残業前提型ポスト」が多い霞が関では、今後3割を超える女性官僚が子育て期に入ると「人手不足」は必至。今のうちに「残業前提」の働き方などの改革に手をつけようとしています。
その提案の中に「年次管理の柔軟化」というものがありました。キャリアアップのために経験していかなければならないステップを育児休業等で、いわば「適齢期」を過ぎた場合であっても、特定の年次にとらわれずに踏んでいけるようにすべきだというものです。
まさに「年齢と仕事のリンクを断ち切る」提案です。長時間労働を減らすことに加え、これが実現されて初めて「産む」×「働く」×「活躍」が多くの女性にとって可能になるでしょう。
これからの世代にとって「大学在学中に産んでから就活」という道もあってしかるべきです。現に「内定中に妊娠したら、30歳まで就業猶予」という措置をとる企業もあります。
なぜこんなにまでして変えなければいけないのか? その答えははっきりしています。人口減少社会では、「日本人の人手不足」が目に見えています。有能な経営者ほど、性別に関係なく優秀な人材は優秀であり、彼女らの力を活用しないことには経営がうまくいかないことを知っています。
そして今の学生にアンケートをとってみると、「バリバリ一生働きたい」という一番やる気のある学生でも、半数以上が「早く結婚して出産したい」と答えています。これがかなえられない企業にはもう優秀な女性は集まらないということです。
均等法第1世代へのアンケートでは、子どものいない女性(未婚も含め)は7割にも上りました(男女共同参画白書平成16年版)。彼女たちが就業継続できた要因も「子どもがいなかった」「独身だった」ことがかなりの割合となっています。
キャリアが新鮮に見えた第1世代と比べ、これからの世代にとって、キャリアはそれほど新鮮なものではない。結婚、子育てよりキャリアが先という考えは今後の世代には通用しません。今こそ「働き方の改革」が必要です。ゲームのメンバーが変われば、ルールも変える必要がある。その時期が今、きています。
女性たちにはぜひこのチャンスを生かしてほしいと思います。我慢するだけでなく「提案」をしてください。働き方の改革は、ワーキングマザーが増えてくることで一気に進んでいくでしょう。そしてそれは、女性だけではなく、男女とも働きやすい社会につながっていくはずです。
女性活躍を「産め、育てろ、働け」という強制ととらえれば物事は何も先に進みません。ぜひ「女性活躍」を活用してほしい。「産む自由」を取り戻すために。ウーマノミクスは女性たちがしなやかに、そして賢く活用してこそ、価値があるのです。
少子化ジャーナリスト。東京都生まれ、慶應義塾大学文学部卒。女性のライフプラン、キャリア、男女共同参画、不妊治療、ダイバーシティなどがテーマ。『妊活バイブル』『「婚活」症候群』『「産む」と「働く」の教科書』など著書多数。相模女子大学客員教授、経済産業省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。