Q 2015年、私たちの雇用、昇進、人事、給与をめぐる環境はどう変わるのでしょうか?

2014年、人事マンたちの間でホットな話題となったのが、日立製作所が国内310社強、海外650社程度、合計960社以上に及ぶ32万人以上の従業員の人材データを一本化したことだ。ただ、巨大人材データベースをこしらえたことなど、目ではない。終身雇用、年功序列、新卒一括採用など「日本型雇用システム」の「本丸」に踏み込んだことが「ニッポンの人事」に衝撃を与えたのだった。

日立は、全世界共通の人材データベース作成に伴い、国内外のマネージャー以上の従業員のジョブディスクリプション(職務記述書)を作成。職務格付基準を7段階に統一。給与は、それぞれのグレードと、本人のパフォーマンス(評価)、グループ会社の給与水準や各国の労働市場水準に基づいて決定する、とした。

これは何を意味するのか? 年功序列の基本である、「定期昇給」を否定したことに他ならない。元来、日本企業は「人は毎年スキルが上がるもの」という前提で定期昇給による年功序列を維持してきた。しかし、「日立型」の新しい給料体系は、この考え方を真っ向から否定。給料とは、各業務に紐づくものという考え方がベースだ。

例えば、この機器の開発リーダー職の給料は、入社何年目の誰がやろうが(もちろん国籍、性別不問)基本は固定、そこに評価的要素が加わり前後する。欧米では当たり前の、給料が業務内容で決まる賃金体系だ。これにより、毎年、自身の業務内容の難易度を上げて行けない人は、いくら年を重ねても給料がビタ一文上がらない時代に突入したと言える。

さらに、優秀な人材は本社採用だろうが子会社採用だろうが現地採用だろうが差別しないで優遇するとし、実際に、海外現地法人採用の社員も将来の日立の経営を担う人材としてトレーニングを受けさせている。

この動きにソニー、富士通、NECなども追随する。今後はこうした大胆な「日本型雇用システムの否定」および崩壊がますます進むだろう。とりわけ筆者は以下の動きが加速すると予測する。

経団連の「2013年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」によると、すでに17.6%の企業が定期昇給を実施していない。しかも、「賃金制度の見直しを既に実施済み」という企業が84.0%、見直す方向で検討している企業が7.4%にも及ぶ。日本の企業は、「働かないオジサン」にただ高給を払って遊ばせる余裕はもうない。今後、多くの日本企業で“日立ショック”的賃金体系の大幅見直しが行われると予測する。

現状、日本の大手企業は、部付き部長など部下なし管理職が数多く存在し、彼ら彼女らの「賃金貰い過ぎ」が経営を圧迫する課題となっている。そこで各社は真剣に、ポストを減らし、管理職のスリム化をはかっているが、その手法として注目されるのが、いっそ管理職ポストへの就任は、全部公募制にしてしまえというやり方だ。

イントラネットで全社員に「空きポスト」が公開され、それに立候補したい人が自ら手を挙げ、経営の判断で適任と認められれば、承認される。海外企業では当たり前のこの手法がいよいよ日本にも上陸、常識となる日も近いと推察する。

安倍政権の雇用政策で優先課題の一つとされているのが「限定正社員」の普及・促進だ。現状すでに、「地域限定」「職種限定」「時間限定」など多様な限定正社員が見受けられるが、新卒入社時に「旧一般職的」な働き方としてチョイスするケースが多く、「女性限定の働き方」としか認識されていない。

しかし、安倍内閣が限定正社員を本格的に普及させたい目的は女性の雇用創出ではないだろう。ズバリ、本丸は「給料が高過ぎる、中年以上男性社員の限定正社員化」と睨む。ある一定の年齢に達した時、ある一定のランクにまで達していない社員は全員限定正社員にし、給料の大幅見直しを行う。もちろん抵抗勢力の猛反発が予想されるが、そんな時代がもうすぐそこに来ている気がしてならない。