――ゴーンさんは成長の原動力としてジェンダー・ダイバーシティの推進をあげていますが、なぜでしょうか。

日産自動車取締役社長・最高経営責任者 カルロス・ゴーンさん

【ゴーン】ジェンダーを含めた、さまざまなダイバーシティが日産自動車の成長の柱になっていくと思います。

世界銀行が発表している調査結果によると世界中の支出の65%に女性が関与しています。クルマも世界で売れる3台のうち2台は購入決定に女性が関わっているわけです。商品やサービス、技術、広報宣伝が女性に受け入れられるものでなくてはならないということです。

ところが日本の統計では学卒の半分は女性なのに、役員の割合はたったの1%にすぎません。もちろん5割は無理でしょう。多くの女性が仕事を辞めて家庭に入る事情はわかります。しかし50対1というのはあまりにも差が開きすぎです。日産自動車がもっと女性を登用して女性が意思決定の職に就けば、商品やサービス、技術、コミュニケーション活動、マーケティング活動、いずれもが女性にとって魅力あるものになり、競争で優位に立てるのです。

女性は男性とはものの見方が少し違います。同じクルマを見ても、男性のようにエンジンや性能、加速性能などにはほとんど関心がありません。女性は内装デザインや座り心地、取り回しや安全性はどうかといった面を見ます。もし男性だけが商品を決定するのであれば、最高のエンジン、最高のトランスミッションをつくり、内装や取り回しに気がいきません。

サービスも同じです。興味深い統計があって、女性客の場合、9割が女性のセールスマンからクルマを買いたいと言います。自分と同じようにシートの座り心地や素材が大事だと思う人から買いたいのです。そして男性客の5割も女性から買いたいと答えています。販売スタッフの大半は女性が望ましいとわかります。

――企業内託児所を作って女性を支援していますが、そうした環境を整えるには大変なコストもかかります。

【ゴーン】ノーノー。それは私にとってコストではありません。投資です。生産台数を増やすために工場に投資するのと同じです。投資しなければ何の成果も得られません。多くの人が「女性の登用を推進すべきだ」と言うでしょう。しかし必要な環境を整えなければ絵空事に終わってしまいます。

託児所は若い女性にとって極めて重要です。いつか結婚し子どもが生まれても「託児所があるから仕事が続けられる」と確信できます。託児所がなければ「育児のために仕事を辞めなければならない」と思うかもしれません。私は、女性が個人的な選択で離職することは尊重しますが、環境が理由で仕事を辞めてほしいとは思いません。

競争に勝つために女性を登用しなければならない

――日産自動車の女性管理職比率の目標は2016年度末で10%です。日本政府は2020年までに女性管理職比率を30%に引き上げると言っています。ゴーンさんはどう思いますか。

【ゴーン】数値目標を掲げること自体はいいことだと思います。ただ30%というのはとても意欲的で、かなり高い数字には間違いありません。もちろん日産自動車も貢献したいと考えますが、2020年までに当社の女性管理職比率を30%にするのは難しい。

もちろん役員も含めマネジャーをもっと早く増やしたいと思いますが、現実には時間がかかります。教育研修も必要ですし、経験も積まなければなりません。それなしに女性を昇進させ失敗しては意味がありません。数年前、女性の管理職は2%くらいでしたが、今は7%になりました。それに何年もかかりました。次は10%に向けて進めていますが、また時間がかかります。

カルロス・ゴーン
日産自動車取締役社長・最高経営責任者。1954年、ブラジル生まれ。78年、仏・国立高等学校卒業後、ミシュラン入社。ブラジルミシュラン社長、北米ミシュランの会長、CEOなどを経て96年ルノー入社。99年日産COO、2000年より社長に就任、01年より会長兼CEO。