政府が「活躍支援」に本気モード
「産む」×「働く」を阻害する要因としては、「復帰の壁」「いやいや期の壁」「小1の壁」などがありますが、私は最近「出世の壁」について取材をしています。また、経産省の「女性が輝く社会のあり方委員会」の委員をしているのですが、すでに国の女性支援のトレンドは「両立支援」から「活躍支援」に移っています。これも2030(安倍総理が2020年までに責任ある地位につく女性を30%にすると発言した)効果です。
確かに時短制度の導入で、子どもを持つ女性が正規労働市場にとどまりやすくなったことは事実です。しかし、「制度があるゆえに、女性がローパフォーマー化する」という問題を誰もが指摘します。つまり「ぶら下がりママ問題」です。私は今まで「出世せず仕事をしない男性」をずっと養ってきた会社が、なぜ「女性のローパフォーマー」だけを言及して問題にするのか、かなり疑問なのですが、まあ、そこは今回は語りません。
政府が推進したいのは「いかに女性管理職を増やすか」「女性に出世してもらうか」ということです。
かなり本気で取り組んでいるなあと思う材料として、内閣府の「女性の活躍見える化サイト」※(http://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/mierukasite.html)の設置があります。
※[公表している企業数(2014.2.14現在)]上場企業3,552社中1,150社(32.4%)が公表
本データは、株式会社東洋経済新報社が発行する「2014CSR企業総覧(2013年11月18日発行)」の「雇用・人材活用」に掲載されている情報に、内閣府が2013年10月~12月に実施した調査の結果を追加したものです。
どこの会社も子持ち管理職が欲しい
以前にも厚労省によるサイトはあったのですが、「自分で申請した企業のみ」で「更新も企業が希望したとき」ということで、実質「公開したくない企業」にはプレッシャーとはならなかった。こちらは民間データとはいえ、ライバル企業などがデータを開示していたら、何らかの開示プレッシャーにはなるはずです。「見える化」すると、「ライバル企業に負けないように」「横並びでうちもやらないとやばい」という動きが必ず出てきます。
こういった試みが少しずつ、「女性の管理職率を上げないとやばい」というプレッシャーにつながってくるのでしょう。
それも、かつてのように「独身」または「子どもなし」の女性管理職ばかりでは、「いかにも女性に優しくない会社にみえてしまう」ので、どこの企業も「できれば子どものいる女性の管理職」がほしいのが本音です。
さまざまな専門家の話やセミナーに行くと、「産む」×「働く」×「出世する」ためには「キャリアの前倒し」戦略しかないという結論に達します。
男性中心の人事育成モデルでは、速度の遅い日本の会社は一人前に育てるまで10年かけます。しかし育成が10年ですと、ちょうど女性が30代にかかる「産み時」に「昇進試験」などが来てしまう。これも女性の活躍へのモチベーションを下げる大きな要因です。
「前倒し育成」が注目されている
そこで「前倒し育成」で、幹部候補の女性を育てようという動きがあります。
ある小売業の大手を取材したときに、同じことを言っていました。「ちょうど店長になるぐらいで、女性はみな出産で辞めてしまう。前倒しで店長に昇進させるようにすると、欲が出て辞めないで復帰してきてくれる」ということです。
産んで活躍するワーキングマザーの先輩たちも「出産前までは欲張って経験を積め」と言います。例えば小さなグループのリーダーなどを「私には無理かな」と思っても躊躇わず引き受ける。そうすると、出産して復帰した後「リーダーに」と言われても、経験があるので、初めてリーダーになるよりもハードルが下がるのです。
例えば「早期」を5年とします。22歳(大卒)で入社したとして、5年たてば27歳。ここまでいろいろな経験を積んで、28歳から30代前半に産む。育児休業の1年も「マイナス」ではなく、「経験として+」にとらえる。
28歳に産んで、1年後に復帰しても、まだ29歳です。
すでに様々な経験を積め込んでいるので、復帰後なるべく早くに「幹部養成コース」にのせる。「前倒し育成」とはこのようなイメージでしょう。
しかし、この「早期育成」を考えると、逆に「28歳までに産んだらもうコースから脱落する」ということになります。真面目な女性は「絶対に28歳までは産めない」とプレッシャーに感じるでしょうし、28歳までに産んだ女性は「もうコースを外れた」と20代にして期待されなくなってしまう。幹部候補とまで目された優秀な女性がそれではもったいない。
そして、妊娠の完璧なコントロールは不可能です。どんなに気をつけても「できちゃう」ときはある。さらに、人間がそれほど妊娠しやすい生き物ではないということは、このシリーズの最初で説明しています。まだ若いからと安易に中絶して「あれが最後のチャンスだったのだ」と後悔する女性もいます。
「いつか子どもがほしい」と思っている人はそのチャンスを逃さない方がいい。
いつ産んでも大丈夫という社会にならなくては、大勢の女性が活躍して出世するなんて、夢のまた夢です。
早婚願望の女性に「晩期育成」の選択肢を
そこで「晩期育成」もぜひ取り入れていただきたいのです。
特に最近の女子大生は「バリバリ働きたい」と思っている人ほど、「早く結婚、出産したい」という人が多い。先にやるべきことを済ませておきたいということです。
「管理職コースになったら晩産になる」と思ったら、そのコースには乗らないでしょう。
早く産んで30代からバリバリ……それって不可能でしょうか?
徐々にではありますが、20代後半で産んで、しばらく子育てで仕事をセーブしても、30代後半に管理職になる女性も出てきています。
先日ワーキングマザーの会で「女性は50代が一番働きたいとき」と聞きました。
子どもがある程度手を離れ、今まで仕事をセーブしてきた人は力が余っている。
ある管理職女性は子どもが大学生になった途端「高校生までと違って時間をもてあますようになる。思いっきり仕事ができる」と言っていました。
20代の理想の出産年齢で産むことができれば、10年子育てしてもまだ30代です。40代、50代といくらでもまだ働ける。
「あまり年長の人は、どういう仕事をさせていいか困る。使いにくい」という話も聞きますが、日本のように「年齢と仕事」ががっちりリンクしているほうが珍しいのです。新入社員が一度に入ってきて、一律に仕事の段階を踏んでいくほうが世界ではレアケースです。
外資系では普通に若い上司が年配を使っています。私も日系企業から外資金融に移ったときは驚きましたが、最初からそれが当たり前と思えば、すぐに当たり前の光景となるのです。年齢と仕事はまったく関係ありません。
年齢と仕事のリンクをはずせば、「産む」×「働く」×「出世する」ことが、もっと自由にできるようになる。「早期育成」もいいけれど、「晩期育成」もおススメです。
少子化ジャーナリスト、作家、昭和女子大女性文化研究所特別研究員、大学講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)。