女性にとっての「ホワイト企業」とは?

就活生の皆さん、および就活生の親御さん、就活順調でしょうか?

本日は「産む」×「働く」の就活バージョンのお話です。東大、早稲田、慶応など各大学で実施している「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング授業」では「産める就活」「産める働き方」というコンテンツがあります。これは女子学生のための「ホワイト企業」を見つけるための試みです。

企業や業界を選ぶとき、キャリアデザイン教育では、「自己分析」をし、「過去を振り返り」、得意なこと、好きなことなどを軸に絞り込んでいく。そんな教育がなされていると思いますが、「何も見つからない」という人も多いのですよね。

その場合、こんな企業選びの軸も考えてもいいと思います。

まず本当に女性にとって良い企業とはどこか……ということです。

A.女性が出産、子育てをしながら長く働ける
B.男女ともまったく差別なく活躍できる

AとB、どちらの企業が女性にとって良い企業でしょうか?

かつてはBの企業が良いとされていたのですが、今「どちらがいい?」と大学生に聞くと、ほとんどの手がAのほうに上がります。

「両立しやすさ×公平性」で切る企業の4タイプ

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企業の「両立しやすさ×公平性」4象限

図のように、企業を4象限に分けて考えてみましょう。

一番良いのは右上のAもBも両方あるタイプ。例えば「女性が働きやすい企業ランキング」などで上位に入る人気企業です。女性活用の歴史も長く、すでに「子どもを産んでも活躍できる」というモデルが構築されています。

次にAだけの「働きやすい」タイプ。こちらの企業は「女性に優しい」企業です。優しいあまりに、子育て中の女性を「時間制限がある人のポスト」つまり「マミートラック」に入れてくれる。育休も法定で決まっている以上とれたりします。居心地は良いのですが、こういった企業の特徴は「昇進する女性」がいないこと。デパート業界など、女性比率も高く、長く働けますが、出世する女性が現れたのは最近です。

Bの「男女差別なく活躍しやすい」のはITベンチャーやマスコミ業界など。「男化できる女性」なら全く差別なく活躍できます。ただし、出産・子育てをしようとすると、大きな壁に阻まれます。

そしてAもBもないのが「活躍もできず、長くもいられない」企業。一見若い女性社員が多く楽しそうな企業は、よく見極めないとこちらに入ります。「友達感覚で働けて楽しそう」と思えるのですが、若い結婚前の女性社員(時間制限なく働ける)だけがどんどん入れ替わっていく。若い女性社員しか居場所がないということです。地方の銀行の一般職などは「結婚したら辞めること」を前提に、コネなどで就職しているので、このカテゴリーに入るでしょう。

大手企業の一般職は絶滅危惧種

多くの女子大生たちが希望する「女性が長く働ける女性に優しい企業」、例えば大手企業の一般職などの募集は狭き門であり、総合職よりも遅くに始まる一般職の選考で決まらず、大学に泣きついてくる生徒も結構います。

大手企業の一般職(大学生の母親世代が良しとした仕事)は絶滅危惧種ともいうべき職種です。生徒のお母さんはバブル世代で、一般職から寿退社した人が多いのですが、今その仕事がその会社にあるでしょうか?また募集人数は多いでしょうか?

私はバブル時に大手商社の一般職として社会に出ましたが、当時の募集は200人でした。(短大卒100大卒100)しかし今同じ会社の一般職の募集は30名ほどです。また、その狭き門に早稲田や慶応の学生まで殺到するのですから、本来そういった職種に強かった女子大などがかなり割をくってしまいます。

また「長く働ける」はずの企業が今一番問題にしているのが、「子育て女性のローパフォーマー化」です。Aの企業に入社すれば安泰という考え方も、そろそろ厳しくなってきています。

一方、Bのような「男女ともに活躍できる企業」は捨てたものではありません。確かにそういった企業を見ても「結婚も出産も子育ても無理そう……」と尻込みしてしまうのもわかります。しかし、そこでは「自分が鍛えられる」という良い側面もあります。

非常に忙しいし、残業も多いのですが、ぬるま湯の10年よりも、3年ぐらいでかなり鍛えられます。その企業で培った「武器」を持って、ライフイベントに合わせて、転職するなり、転部するなり、または独立するという人もいます。

IT企業出身の女性は子育てを機に会社を離れ、個人で仕事をしていることも少なくありません。一時期自分を鍛えてくれる場としてハードな仕事を選ぶ、しかしずっとフルスロットルで働くのではなく、結婚や子育てにあわせて、働く場所や働き方を選んでいく。それも「産める働き方」のひとつです。

「差し出された椅子」にはとにかく座ろう

この講義は、大学生が「就活前に知りたかった」「就活に入ると、目の前のことだけでいっぱいいっぱいになっちゃうので、20歳ぐらいで聞きたい」という講義です。

くわしくはぜひ『女子と就活』(中公新書ラクレ)をご覧いただきたいのですが、今は就活で「先のことなんか考えられない」という人も、子どもがほしいというライフプランがある人は、20代の前半に一度考えてみてください。「この会社で、この働き方で、どうやったら産めるのか」ということを。逆立ちしても難しいと判断した場合は、第二の就活時に「産める就活」を考えても遅くないと思います。

環境はどんどんよくなっています。以前は「大卒時に働く覚悟がある女性」だけが、出産を超えて残ってきましたが、ここ数年は全く違います。「両立なんか考えてもいなかったけれど、周りの人が当たり前に産んで働いているので、なんとなくそういうものかなと思って……」そんなことを言うワーキングマザーが確実に増えています。環境も重要です。

今は「就活で精いっぱい。そんな先のことまで考えられない」という人は、とにかく「産んでいる女性がたくさんいる」ところを選んでくださいね。そういう企業では、産む環境ができているからです。

今は、ただ「続ける」だけでなく、「産んで活躍する女性」が求められています。皆さんの世代ですと、望んでいなくても「昇進するポストがきてしまう」こともあるかもしれません。その時は、「無理」と言わず、「ありがとうございます」とニッコリ笑って、差し出された椅子にまず座ってみてください。

大事なのは自分で自分の壁をつくらないこと。「女子大だから、無理」「両立できないから無理」「あの人みたいにスーパーウーマンじゃないから無理」……。「無理の壁」がみなさんの中にはたくさんあります。でもちょっと先を行く先輩の話を聞くと「意外と壁はなかった」と気づくのです。

賢く、したたかに、働き続けてください。もう、1人の男性に人生をかけるのはリスクが大きすぎる時代なのですから。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、昭和女子大女性文化研究所特別研究員、大学講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)