やりたいことを思い切りやらせてくれる環境

さらに取材では、卒業生が部活動でのエピソードを話してくれました。

「私は高校3年生のとき、多くの生徒が引退するタイミングで抜けずに、自分の納得がいくまで部活動をやり切りたいと考えていました。勉強時間は限られていたので、結局、偏差値の高い大学には行けず、受験結果から見れば失敗だったかもしれませんが、生徒の情熱を大事にし、やりたいことを思い切りやらせてくれる環境は非常にありがたかったです。社会に出て、このときに打ち込ませてくれてよかったなと感じています。今振り返ると、渋幕は自分で挽回できるような力を育てようとしてくれていたのだと思うのです」

卒業生の言葉から、渋幕的自由には短期的には失敗に見えることも、長い目で見て「自分で正解にしていく力をつける」という思いが込められていると感じます。そして、その「自由」は学校の一部分で行われているのではなく、勉強でも行事でも部活動でもあらゆる学校生活において反映されていることもわかります。「自由」を標榜する学校は少なくないですが、一貫して生徒に委ねて、「渋幕的自由」を体現させていることは同校の大きな特徴だといえるでしょう。

校則は制服着用ぐらい…「存続or廃止」も生徒が決める

中学校の教頭を務める菅野諭先生は「渋幕の基本的なルールは世の中のルールです」といいます。社会とは異なる学校独自の校則を設けることはしていない。この方針は開校当初から積極的に帰国生の入学を受け入れてきたことも影響しているといいます(詳細は151ページ)。「それぞれの生育の文化を尊重しなければ、子どもの意思に寄り添うことはできません。多様なバックグラウンドを持っている生徒たちが通う学校なので、学校特有のルールを設けることはそぐわなかったんです」と菅野先生は続けます。

卒業生の言葉からもわかる通り、校則がほとんどない渋幕ですが、制服は存在します。この経緯について菅野先生は、「実は『制服を廃止するか?』という議論はこれまで幾度もなされていますが、生徒が『ある方がいい』という結論を出しているんです。制服がないと毎朝服を考えなければいけないので手間がかかりますからね。生徒たちは着崩すのが好きなんでしょう」と笑います。

あるとき、高校の生徒総会で「制服存続or廃止」でどちらに転ぶかわからないところまで議論が白熱したことがあったそう。現学園長で、当時の校長の田村哲夫先生に菅野先生が意向を確認すると、「どっちでもいいよ」というあっけらかんとした言葉が返ってきた。そこで、「では、完全に生徒と決めますからね」と念を押すと、「うん、それでいこう」という返事。

最終的に、制服存続派が勝利し、今に至っています。

日本の学生
写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA
※写真はイメージです