立命館大学スポーツ健康科学部は米国の大学であるESU(East Stroudsburg University of Pennsylvania)と連携し、米国公認アスレティックトレーナー(ATC:Certified Athletic Trainer)の受験資格が日本国内で得られる新たなプログラムを新設。同大学が従来から力を注ぐグローバルな視点での人材育成を強化するこの取り組みは、世界でも画期的なものである。スタジオを経営しながら、プログラムの一部の科目を受け持つ桑原匠司先生に、その意義などを聞いた。

米国で準医療従事者の
ATCが果たす役割とは

まず始めに、ATCとはどんな職業なのか教えてください。
桑原匠司●くわばら・しょうじ
株式会社CODE7代表取締役。
米国・南イリノイ大学卒業。2003年、ATC認定取得。シカゴ・ホワイトソックスのトレーナーなどを歴任。現在、大阪で会員限定のスタジオも運営。関西電力病院糖尿病・栄養・内分泌内科客員研究員なども務める。

桑原 アスリートのケガの予防を第一に、ケガをしたときの応急処置からリハビリテーション、日常生活や競技生活への復帰支援までを行うのがATCの役割です。1990年には米国で公的に準医療従事者として認められました。アメリカンフットボール、野球などのプロチームはもちろん、大学の運動部などに所属する場合もありますね。資格を得るためには、所定の大学で実習を含めた定められた単位を取得し、認定試験に合格する必要があります。

例えばATCが「この選手は試合に出られる状態ではない」と判断すれば、原則としてコーチはそれに従います。ATCとコーチの立場は対等で、責任の所在も明確。そのため、ケガから回復途上の選手をATCの判断で出場させ、状態が万一悪化した場合、ATCは責任を問われることになります。日本のアスリートがケガは自分の責任だとか、自分の実力不足ととらえてしまいがちな状況とは対照的ですね。トレーナーとは本来、選手の競技人生を共に背負う存在なのです。

桑原先生ご自身は、かつて米国に留学してATCを取得されました。その経緯とこれまでの活動について聞かせてください。

桑原 高校時代、陸上で全国大会を目指していたのですが、1年間に5回も同じ部位を負傷し、夢は破れてしまいました。でも治療中に訪ねた薬局の方が世界陸上の日本チームにも帯同したトレーナー経験者で、ATCのことを教えてくれたのです。おかげで「私のような思いをする選手を減らそう」という新たな夢を見つけられました。

留学して2003年に認定を取得し、メジャーリーグなどで経験を積みました。帰国後はトレーナーの仕事やその育成に携わり、今回、立命館大学でATCを目指す学生を指導する機会にも恵まれたのです。