サプリメントが安全とは限らない
では、市販されているサプリメントだったら食品ではありますし、薬より体にやさしくて安全なのでしょうか。子ども向けでも「身長が伸びる」「視力改善」「免疫力アップ」といった効果があるかのように誤認させる商品がとても多いですね。
サプリメントには行政上の定義がなく、「健康の保持増進に資する食品全般」と考えられています(※5)。食品だから安全性が高いだろうと誤解する人が多いですが、成分検査において医薬品ほどの厳格さはありません。2024年に小林製薬の紅麹のサプリメントを摂取したあとに健康被害が出たり、亡くなったりした人がたくさん出たことが報道されました。多数の被害者が出たのは、機能性表示食品には医薬品と違って、健康被害が出た時点で速やかに報告する義務がなかったことも一因です。
外来診療をしていて「子どもにサプリメントを飲ませているんですけど、薬との飲み合わせは大丈夫ですか?」と聞かれることがありますが、どんな成分が入っているのか説明できない保護者も少なくありません。目的や内容がわからないまま、錠剤やカプセル形状のものを与えるのは危険です。過剰症になる心配もありますし、思わぬ健康被害を起こすことがありますから、しっかり確認しましょう(※6)。
そして、例えば極端な偏食でビタミンやミネラルなどの投与が必要な場合、低身長や免疫不全などの診断がある場合は、効果と安全性の確かな医薬品を健康保険で使うことができます。ぜひ小児科医に相談してください。
※5 厚生労働省「健康食品やサプリメントの名称について」
※6 厚生労働省 eJIM「小児および10代の若者のサプリメント利用について知っておくべき10のこと」
原始人が長生きできなかったワケ
よく見る「自然療法」「自然なお手当て」のほとんどは、まったく科学的ではなく、仕組みが説明できないものばかり。まるで、おまじないのようです。何かをしたあとに病気が治ると、それが治したのだと誤解することはよくあること。例えば、子どもの患者さんが「うちの2階でお水を飲んだら目が痛いのが治ったの」と教えてくれたことがありましたが、何かしたあとに治っても因果関係があるとはいえません。
そもそも、何が「自然」なのか、何が「体にやさしい」のかは、とても恣意的なものです。SNSなどで情報を得るのは自然で、薬を飲むのは不自然でしょうか。工場で作られた包丁で調理をすることは自然で、安全性と効果が確認された医薬品や食品添加物は不自然なのでしょうか。
以前、私のブログで、あるネットミームを紹介したことがあります。洞窟にいる原始人のような二人が会話している絵の下に「何かがおかしい。空気は清浄だし、水はピュア、運動は十分しているし、食べるものはすべてオーガニックや放し飼い。なのに誰も30歳以上、生きないんだ」というコメントが付けられたものです。
ヒトは自然に抗って、よりよい生活を得て、数々の病気を克服してきました。だから、平均寿命も健康寿命も延びたのです。大切なお子さんには、ぜひ「自然」や「体にやさしい」といったイメージだけではなく、本当に効果があって科学的に安全性が確認されているものを使ってあげてください。何の病気なのかわからないとき、つらそうなときは、早めに医療機関にかかりましょう。