長くゆっくりした運動で
“脳”力を上げる
食事と並ぶメタボ対策の柱が、運動だ。大和田先生は「筋肉を制するものがメタボを制する、といっても過言ではありません」と、その重要性を強調する。
「人間の生命活動を維持するために使われるエネルギーを基礎代謝と呼びます。基礎代謝は、40歳を超えると急激に減少します。その減少を補い、健康な体をつくるためにも、長く続けられる運動習慣が重要なのです」
肥満解消を目指すなら、Long Slow Distance(LSD、長距離をゆっくり、時間をかける運動)のジョギングが有効。1つ先の駅まで歩いてみるといった日常生活の延長でも十分効果が見られる。ここで重要なのは、自分に合った方法で実践することだ。
「駅でエレベーターを使わず階段を上るなど、自分のペースで取り組みを繰り返すうちに、自然と体力がついていきます」
運動にはさらなる利点もある。「運動は、脳を鍛え、判断力を冴えさせる効果ももたらしてくれます。朝のウオーキングは、ビジネスパーソンにうってつけなのです」と大和田先生。
仕組みはこうだ。体を動かすと、脳と筋肉の間のやりとりが活発化し、神経細胞ネットワークの速度が増していく。その結果、体を動かしやすくなるだけでなく、脳の処理速度も向上していくという。使えば使うほど処理速度が上がるコンピューター、といったイメージだろうか。
さらに「運動が認知症を予防し、ビジネスに必要なひらめきや判断力を向上させる可能性があることも、最新の研究によって分かってきました」と大和田先生は説明する。運動を補助するだけと考えられていた小脳が、大脳の前頭前野に積極的に働きかけているという新しい脳科学の報告に、大和田先生は注目している。大脳の前頭前野といえば、記憶や学習、論理などをつかさどるビジネスに不可欠な領域。メタボ改善によって、健康づくりのみならず、脳力アップも図れるというわけだ。
現状維持でも上出来
メタボ改善に失敗なし!
飲酒やストレスなどのリスクにさらされるビジネスパーソンの健康状態は深刻だ。大和田先生は近年クリニックに訪れる患者の傾向として、
「30歳~40歳という若い世代で、糖尿病や高血圧を発症している人が増えているように感じます。ストレスによる不眠に陥る人や、親子でメタボ、という方なども、最近は目立つようです」
と分析する。そのうえで「加齢によって動脈硬化や糖尿病のリスクはさらに高まります。基礎代謝の活発な若いうちから、メタボ改善のための手を打っておくべきです」と警告する。
食事の見直しや運動に取り組んだ結果、うまく体重が減らなかったとしても、気に病むことはない。大和田先生は「脳は生命維持を最優先に考えているため、人体のエネルギー収支は常にプラス収支になるようにコントロールされています。本来なら太ってしまうところを現状維持にとどめていることですら、実は上出来なのです」と話す。
「体重が減らなかったとしても、きっとよい生活習慣を実現するためのヒントは得られているのではないでしょうか。メタボ改善に失敗はありません。トライ&エラーを楽しんで、自分に合った最適な方法を見つけだしていきましょう。必ず実現できます」とエールを送る。
生活習慣の見直しは、実は難しいものではない。 脳を味方に付けて、メタボに打ち勝つ第一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。