メタボリック・シンドロームの改善といえば、たっぷりのおなかの脂肪に意識がいきがちだ。しかし脂肪を蓄えるメカニズムには、脳が大きく関わっていることをご存じだろうか。秋葉原駅クリニック院長の大和田潔先生に、脳の働きを生かしたメタボ克服法を聞いた。

むしろチャンス!
「メタボの人こそ幸いなれ」

大和田 潔●おおわだ・きよし
医療法人社団 碧桜 秋葉原駅クリニック
1965年、東京生まれ。武蔵野赤十字病院、東京医科歯科大学を経て2007年より現職。医療コラムニストとしてメタボリック症候群や頭痛などの記事を数多く執筆するなど、その解消に向けて積極的に情報発信する。

「健康診断が憂鬱だ」──。こんなふうに感じているビジネスパーソンも多いのではないか。厚生労働省の調査によると、生活習慣病を未然に防ぐための特定健康診断(メタボ健診)の受診率は45%(2011年度)にとどまり、政府目標の70%を大幅に下回っている。

食事の改善や運動、規則正しい生活リズム。メタボ対策が重要と分かっていても、日々の忙しさにまぎれて運動や食事の見直しはおざなりになってしまいがちだ。そして健康診断で血糖値や体重などの数値が悪化していくにつれ、いつしか診断そのものにネガティブなイメージがわき、いっそう病院への足が遠のく。こんな悪循環ができてしまう。

しかし健康診断ぎらいに陥ったメタボ予備軍のビジネスパーソンに対して、大和田先生は「工夫次第で、前向きにメタボを脱出できます」とアドバイスを送る。

「メタボ改善は、理想のセルフイメージをつくるチャンスでもあるわけです。まずはメタボに対する悲観的な見方を変えてほしいですね。むしろ、『メタボの人こそ幸いなれ』ですよ」

もちろん、メタボなのだから好きに飲み食いしていい、というわけではない。大和田先生によると、肥満気味の人ほど、標準体形に近い人に比べてやせやすく、自分が変わったという実感や喜びを手に入れやすい。「たとえ300gでも、体重が落ちた、やせたという実感は意識の変化をもたらします。メタボの人には、人生を楽しめるマージンがたくさんあると考えれば、毎日の楽しみとしてとらえることができるでしょう」。メタボ体形の人は、これから成長していく伸びしろがある、というわけだ。 

しかし健康診断のたびに血糖値や肝臓の数値が悪化しているのを指摘されていては、メタボな自分を積極的にはとらえにくい。大和田先生は「減点方式の健診では、前向きにやろうという気持ちになれっこなくて当然です。そこで、少し考え方を変えてみてはどうでしょうか。例えば経営者の方であれば、体の仕組みをビジネスの現場に置き換えてみるとイメージしやすいですよ」と提案する。

経営者が脳、会社組織が筋肉や臓器だとすれば、悪性ホルモンを分泌する余計な脂肪は、本業を圧迫するまでに肥大化した不採算部門、といったところか。

「健康診断は『いつまでに体重を何%落とす』など、目指すべき目標とその手段を考えるための材料にすぎません。この点でも、企業マネジメントと似ているかもしれませんね。メタボ改善は、いわば『命のマネジメント』なのです」