「喜びを分かち合う力」を育てる方法
私が非常に尊敬するふたりの研究者がいます。ひとりはアンリ・ワロン(1879~1962年)です。この人は、フランスの発達心理学者、精神科医で、教育者でもありました。20世紀を代表する心理学者のひとり、スイスのジャン・ピアジェ(1896~1980年)とほぼ同じ時期に活躍した人です。
ワロンはこんなふうに言っています。
「喜びを分かち合う力を育てるということは、子どもが喜ぶことをしてあげる、ということだ」
私がずっと言い続けている「赤ちゃんが喜ぶことをしてあげなさい」というのは、こういうことなのです。
親が子どもをあやし、喜ばせること。しかもそれを親自身が喜びとしているということ。これが「喜びを分かち合う力を育てる」ことにつながるのだということです。
子どもが親にくすぐられたり、いないいないばあをしてもらったり、抱っこしてもらったりして、キャッキャと声を上げて喜び、親は子どもが喜ぶ姿を見て喜ぶ。この状態こそが、子どもにとって最大の喜びなのだと。
子どもは、自分をあやしてくれる親が心からそれを楽しみ、笑う自分を見て笑ってくれると、さらに喜びます。
子どもはこうした喜びを知ることで、人と交わることの喜びを知るようになっていくのです。
大人の様子を赤ちゃんはちゃんと見ている
この感覚は乳児期の後期から少しずつ育っていきます。
ワロンは非常に詳細に赤ちゃんが発育していくプロセスを研究しつづけました。その結果、人間は乳児期の前半に「気持ちがいいこと、楽しいことを与えられるとうれしい」という感覚を持つようになりますが、乳児期後半になると「喜びを与えてくれる大人も喜んでいないと、楽しくない」という感覚を持つようになってくることがわかったのです。
大人がいやいや抱っこしたり、あやしたりしても、赤ちゃんはあまり喜びを感じないのです。逆にいえば、大人がうれしそうにあやしてくれると、大喜びするようになる。乳児期後半になると「自分が笑うと、お母さんも喜んでくれる」ということがわかるようになるんですね。
それが「いっしょに喜び合いたい」「いっしょに喜ぶともっと楽しい」という気持ちにつながる。これが「喜びを分かち合う」ということの出発点になるのです。
ワロンが、長年にわたる観察と研究の末に行き着いたのが「お互いに喜び合うことが、人間の最大の喜びであり、これが人間的なコミュニケーションの根源である」ということで、「この力は乳児期後半から育ち始める」という結論でした。
私もワロンの考える通りだと思います。