「めんどう」より「楽しい」が強くなる
何人ものお母さんたちが、私にこう言いました。いずれも妊婦さんのころ私の話を聞き、赤ちゃんが生まれてもう10年たっている方です。
「この子がおなかにいるとき、“お母さんは赤ちゃんの喜ぶことだけしてあげればいいんですよ”と言ってもらえたことで、子育てがとても楽しくラクになったようです」
「どうしてでしょうね?」
ときいてみると、
「あれこれ忙しくて、赤ちゃんが泣くと煩わしい気持ちになりかけることもあったけれど、“子どもが喜ぶことをしてあげるのが一番いいんだ”と思っていると、めんどうだ、と思う気持ちよりも楽しい気持ちのほうが強くなって、子どもが泣いても、あれこれ要求してきても、ほとんどイライラしなかったのです」
と言っていました。
出産後よりも、妊娠中にこうした話をきいたお母さんほど、育児にストレスをあまり感じず、スムーズに赤ちゃんと接することができていたように思います。
記憶から消えても、心には刻まれている
「赤ちゃんが喜ぶこと」はなんでしょう?
あげればきりがありませんね。抱っこしてもらう、高い高いをしてもらう、もっと小さいころならおっぱいをもらう、おむつを換えてもらう、お風呂に入れてもらう、いないいないばあをしてもらう、お母さんやお父さんが面白い声を出して笑わせてくれる。赤ちゃんはどれも大好きで、してもらえばうんと喜びます。
でも赤ちゃんには「いまなにをしてほしい」と話すことができません。泣くだけです。新米のお母さんやお父さんはなにをしてほしいのかわからなくて、ときにはとんちんかんなことをしたり、オロオロしてしまうかもしれないけれど、それでもかまわないのです。
あれこれお母さんにしてもらったことを、赤ちゃんがずっと覚えているわけではありません。自分が何を求め、何をしてもらったのか、何をしてもらえなかったのか、なんていうことは普通、子どもの記憶には残りません。
けれど、お母さんが「子どもを喜ばせよう」と、一途に考えて育てた子は、乳児期をすぎ、幼児期から少年期になっていっても、非常に気持ちが安定し、思いやりのある子に育っていくようです。これは保育士さんたちも、「その通りだ」と口をそろえます。