セルビア共和国の首都ベオグラード。およそ45年間、大量のGHG排出やドナウ川の汚染といった問題を引き起こしてきた廃棄物埋立場が「環境・社会課題解決の中心地」に生まれ変わった。セルビア初の「廃棄物処理・発電PPPプロジェクト」は、どんな変化をもたらすのか。伊藤忠商事都市環境・電力インフラ部の牛山智尋さん、久野泰盛さん、辻春希さんが答えてくれた。

国レベルの問題を総合的に解決するスキームを構築

――ベオグラードでのプロジェクトについて、概要を教えてください。

牛山智尋さん 伊藤忠商事株式会社 都市環境・電力インフラ部 プロジェクト開発第三課 課長代行
牛山智尋さん
伊藤忠商事株式会社
都市環境・電力インフラ部
プロジェクト開発第三課
課長代行

【牛山】私たちの部署ではさまざまなインフラ事業を扱っており、特に注力している分野が水、環境、そして再エネです。弊社として廃棄物処理分野については1980年代からプラント納入等に携わってきた歴史があり、2011年に初めてイギリスで廃棄物処理・発電PFI事業投資・運営に参画しました。先進的なPPP(官民連携)の手法を学び、蓄積した事業経験・ノウハウを各国へ展開していこうという動きの中で2017年に始まったのが、セルビア共和国における「ベオグラード廃棄物処理・発電PPP事業」です。

人口約170万人を擁する首都ベオグラードは急速な都市化が進む一方で、長年、廃棄物・環境問題に悩まされてきました。ヴィンチャ廃棄物埋立場では適切な廃棄物の処理がなされず、GHG排出は約45年間で9000万トン(CO2換算)に上り、漏れ出た汚染水はドナウ川を広範囲に汚染していたのです。国としても喫緊の課題であり、早急な解決が求められていたところ、当社の知見を生かしたプロジェクト実施に至ったというわけです。

(左)商業運転を開始した廃棄物処理・発電施設(右)施設内:ベオグラード市総世帯数の10%相当にクリーンな電気・熱を供給する
(左)商業運転を開始した廃棄物処理・発電施設(右)施設内:ベオグラード市総世帯数の10%相当にクリーンな電気・熱を供給する

【久野】紆余曲折を経て2024年に完成、商業運転を開始した廃棄物処理・発電施設は、ベオグラード市で排出される一般廃棄物の約7割に相当する年間34万トンの焼却処理能力を有しています。焼却予熱を活用して発電したクリーンな電力を約3万世帯に、また冬には熱暖房を約6万世帯に供給し、さらに旧埋立場から発生するメタンガスを使った発電施設、建設廃材のリサイクル施設なども稼働させることで、複雑に重なり合った環境問題を総合的に解決するプロジェクトです。

SDGsに貢献する付加価値の高いカーボンクレジットとして認証

――現地の反応などはいかがでしょうか。

久野泰盛さん 伊藤忠商事株式会社 都市環境・電力インフラ部 プロジェクト開発第三課
久野泰盛さん
伊藤忠商事株式会社
都市環境・電力インフラ部
プロジェクト開発第三課

【久野】東京ドーム8個分に相当する旧埋立場では、廃棄物が放置されていたことによって自然火災が生じたり、ゴミを餌にする鳥が無数にいたりと、劣悪な環境があったのです。それらの問題を旧埋立場の閉鎖だけでなく、セルビア初の廃棄物焼却・発電施設を導入することによって抜本的な解決を図り、かつ市民へクリーンエネルギーを供給し、GHG削減による環境負荷低減を促進するスキームは、当社が企業理念とする「三方よし」を体現するものだと思います。セルビアへ何度か足を運びましたが「伊藤忠商事」という名前がかなり浸透していると感じましたし、現地の事業会社で働くセルビア人の従業員は「貢献できることを誇りに思う」と思いを伝えてくれました。

【牛山】人間が豊かさを感じるのは、例えばほしいモノを手にした時でしょう。では、それを捨てた後の世界はどうするのか。そこに環境問題の解決に大きく寄与できる可能性があり、当社としても注力すべき領域の一つだと捉えています。今回のセルビアでのプロジェクトは、スイスの国際認証機関であるGold Standardより、EfW(廃棄物処理発電)を含む事業として初めて、またセルビア国内の事業においても初の「SDGsに貢献する付加価値の高いカーボンクレジット」として認証されました。国内外の伊藤忠商事のメンバーが一丸となって取り組んできた結果ですから、誇らしく感じています。

【辻】私は「ITOCHU SDGs STUDIO」の展示準備でベオグラードのプロジェクトに携わりました。実は入社前に旅行でセルビアを訪れたことがあるのですが、伊藤忠商事で働き始めてから、当社がセルビアでも事業を展開していることを知りました。自分が行ったことのある国で、制度づくりにも携われるような、社会に大きく貢献する事業を行っている、それを広く発信していくことに、とてもやりがいを感じました。施設が完成して終わりではなく、ここで培ったものをさらに別の国で展開し、これから私自身も新規プロジェクトを実現していけたらと思っています。

人間だからこその着眼点が作品に反映されている

――「環境フォト・コンテスト」の作品から、どのようなことを感じましたか。

辻 春希さん 伊藤忠商事株式会社 都市環境・電力インフラ部 プロジェクト開発第三課
辻 春希さん
伊藤忠商事株式会社
都市環境・電力インフラ部
プロジェクト開発第三課

【牛山】自然の素晴らしさを伝えるもの、人類に警鐘を鳴らすものなど、当社の募集テーマ「地球のめぐみ」に寄せられた作品からは、一人一人の異なる思いが伝わってきました。生成AIの進化などもありますが、やはり人間だからこその着眼点による「地球のめぐみの見つけ方」を皆さんから教えてもらった気がします。

【辻】大学生部門ではスマホで撮影した写真が入賞するなど、写真が身近なものになっていることも感じました。コンテストが環境問題に思いを寄せるきっかけになり、その積み重ねが環境問題解決の一助となることを期待しています。

【久野】当社のさまざまな取り組みや環境と向き合う姿勢を知っていただけたらうれしいですね。グローバルにビジネスを行っている企業として、国内はもとより海外で起こっている環境問題への関心も高まることを願っています。

●「環境フォト・コンテスト2025」入賞作品

●募集テーマ:地球のめぐみ

2025優秀賞「華やぐ収穫期」廣瀬靖之さん
2025優秀賞「華やぐ収穫期」廣瀬靖之さん
2025佳作「朝明けの恵」坂井 誠さん
2025佳作「朝明けの恵」坂井 誠さん
2025佳作「森の子鹿」岡本隆雄さん
2025佳作「森の子鹿」岡本隆雄さん