豊かな自然が持つさまざまな機能は、世界の機関投資家らから注目され「資本」と捉えられるようになってきた。国内外を合わせて約63.5万haもの広大な森林を保有する王子ホールディングスでも、国内の社有林の価値を試算するなど、新たなアクションを起こしている。森林を適切に管理することで地球環境保全を推進すると同時に、企業価値も引き上げる。そんなこれからの成長を見据えている。

社有林の価値を「経済の観点から見える化」

――社有林の経済的価値を数値で表す、そこにはどのような目的があるのでしょうか。

豊島悠哉さん 王子マネジメントオフィス株式会社 グループ事業開発本部 王子の森活性化推進部 マネージャー
豊島悠哉さん
王子マネジメントオフィス株式会社
グループ事業開発本部
王子の森活性化推進部
マネージャー

【豊島】当社グループは「木を使うものは木を植える義務がある」という考えのもと、100年超の長きにわたり、植林による持続可能な森林経営を実践してきました。日本の民間企業で最大級となる、国内外を合わせて約63.5万haの社有林「王子の森」を維持管理しています。この規模を例えると、東京都の面積のおよそ3倍に相当する広さです。

近年、森林、土壌、水、大気、生物資源などの自然資本を経済価値として捉える「自然資本会計」を制度化する動きが進んでいます。森林は木材を生産するだけでなく、生物多様性保全や土砂流出防止、水源涵養、CO2の吸収といった、地球環境保全に貢献する多様な価値を持っています。そこで当社は2024年9月、林野庁「森林の公益的機能の評価額について」の手法をもとに、国内の「王子の森」(約18.8万ha)について経済価値の試算を行いました。現時点の試算では、価値総額は「年間約5,500億円」でした。

王子の森の経済価値(国内)
王子の森の経済価値(国内)

【山本】人間の経済活動が拡大していくにつれて、気候変動や生物多様性の損失などを引き起こしてきたという側面があります。これからの企業には、経済活動と自然とのバランスをとりながら成長することが一段と求められ、その責任を果たし続けていく必要があるでしょう。すでに多くの投資家たちが、「自然に対する取り組み」を考慮した企業評価を行うようになってきました。一方で自然資本会計のグローバルスタンダードは、まだ確立していません。当社は広大な森という自然資本を持つ企業として、積極的に基準をつくるプロセスにも関与していきたいと考えています。

森林が豊かになれば地域が元気になる、その理由とは?

――森林の調査などがもっと進めば、新たな価値の発見も期待できるのでしょうか。

【豊島】北海道大学と連携して、森の重要な要素であるCO2、生物多様性、土壌、栄養、水の価値を見える化するプロジェクトを、道北のオホーツク沿岸に位置する猿払村で始めています。例えば、「猿払のホタテはおいしい」といわれているのですが、実はおいしさの形成に「王子の森」が関わっている可能性があるのです。王子の森の中の湿地から海に流入する鉄分、それが大切な栄養分として、ホタテの餌となるプランクトンを育んでいる。そのような仮説が立てられていますので、検証を本格化させようと考えているところです。

王子の森 猿払山林(北海道)
王子の森 猿払山林(北海道)

【山本】自然資本の調査・解析に当たり、スタートアップとも連携しています。ドローンやセンサー、環境DNAなどを用いた森の調査を実施し、AIを用いた総合的な解析を行うスタートアップのノウハウを活かしています。いまや、自然資本をベースとした技術開発は非常に盛んです。当社はそうした企業とも積極的なコラボレーションを展開しています。他にも、森林資源を原料としたバイオマスプラスチックや航空燃料(SAF)、医薬品などの新素材開発にも力を入れています。

実は世界的にも豊富な日本の森林資源

――王子ホールディングス賞に寄せられた作品について、どのようなことを感じますか。

【豊島】当社の募集テーマは「森と仲間たち」。優秀賞の「青い森白い鳥」や佳作「邂逅〜鎮守の森の物語」は、動物も撮影者の方も自然の一部なのだと改めて感じさせます。私たちとしても、さまざまな「仲間たち」と一緒に貴重な自然の価値を分かち合いながら、持続可能な森林経営に取り組んでいきたいと思っています。

山本宏美さん 王子マネジメントオフィス株式会社 グループ事業開発本部 王子の森活性化推進部 マネージャー
山本宏美さん
王子マネジメントオフィス株式会社
グループ事業開発本部
王子の森活性化推進部
マネージャー

「猿払のホタテ」の例で考えているとおり、自然が豊かになることが地域産業の活性化などにもつながっていく、そんなストーリーはまだほかにも描けると思います。森林の管理を適切に行っていくことは、地球レベルで重要な取り組みであるとの認識をさらに深めていきたいと考えています。猿払村の方々は「環境教育は将来への投資」だとおっしゃっていました。皆さんと一緒に自然を守っていくことで、未来を担う子供たちもハッピーになる、そんな成果を目指したいと思います。

【山本】豊かな自然環境に囲まれた地で生まれ育った私にとって、ホタルが舞う光景は子供の頃の原風景です。佳作「森の躍動」を見て、ふとそんな記憶がよみがえりました。だんだん宅地化が進んでホタルを見かけることはなくなり、かつての風景は失われていきました。特に都会で暮らしているとなかなか想像しにくいのですが、実は日本の森林率は約67%に上り、世界でも上位5ヵ国以内に入るほどの豊かな森林資源を持っているのです。本当はすぐそばにある森林の存在を、環境フォト・コンテストの作品で気づいていただけたらと思います。

●「環境フォト・コンテスト2025」入賞作品

●募集テーマ:森と仲間たち

2025優秀賞「青い森白い鳥」見崎智子さん
2025優秀賞「青い森白い鳥」見崎智子さん
2025佳作「邂逅〜鎮守の森の物語」佐々木康人さん
2025佳作「邂逅〜鎮守の森の物語」佐々木康人さん
2025佳作「森の躍動」田中賢吉さん
2025佳作「森の躍動」田中賢吉さん