個人投資家向けサービスのAI投資「ROBOPRO(ロボプロ)」、金融機関向け運用基盤「4RAP(フォーラップ)」の提供など過去に存在しなかった金融ソリューションを開発提供し、その取扱残高を半年に500億円ずつ積み上げている企業グループがある。持株会社である株式会社FOLIOホールディングスとその事業子会社の株式会社FOLIO、AlpacaTech株式会社だ。同グループはどのような強みを持ち、躍進を続けているのだろうか。FOLIO創業者で、FOLIOホールディングス代表取締役社長 兼 CEOを務める甲斐真一郎氏がその全容を語る。

試行錯誤の創業初期を乗り越え、FOLIOとAlpacaTechの出会いが成長の起点に

――2015年創業で10年目を迎えたFOLIOですが、甲斐社長はどういったきっかけで創業されたのですか?

【甲斐】私は新卒で外資系証券会社に就職し、トレーダーとして2社に10年近く勤務していました。その間、海外での様々なフィンテック企業の勃興を目の当たりにして、「これまで保守的だった日本の個人資産運用の世界も、新しい技術によって変えていける」と考え、起業したのです。創業後2年間で累計の資金調達額は約91億円に達し、大手企業との業務提携も行いましたが、当時開発した個人向けの資産運用サービスではなかなか結果が出せず、最初の数年は試行錯誤の連続でした。

当時のFOLIOでは、複数の大きなプロダクト開発が同時並行で進み、大きな予算規模でのマーケティング活動が行われていました。金融サービスは結果が出るまでに時間がかかることが多く、結果的に事業進捗は鈍く、赤字は大きくなり、徐々に組織も疲弊し、離職率が高まるといった悪循環に陥ってしまいました。全員が非常に苦しい時間を過ごす中で、私は停滞感を突破する糸口を見つけようと、社員一人一人と話をする機会をつくってもらいました。互いに本音で語り合うことで、会社や事業に対する想いやFOLIOの強みについて目線を合わせ、あらためて進んでいくべき方向性を確認することができました。また、対話を通じて、新たな事業アイデアが生まれてきたことで、再生に向けた第一歩を踏み出すきっかけにもなりました。このようなハードな時期を乗り越えたことで、組織としても一層、強くなることができたと思っています。

――どのような出来事が現在の成長につながる起点になったのでしょうか?

【甲斐】「ROBOPRO」の開発です。お客さまにとっての本当に価値があるサービスを追求していく中で、「AI予測を取り入れれば、ハイパフォーマンスのロボアドバイザーが作れるのではないか」という発想を得て、人的なつながりもあったAlpacaTechとの共同開発がスタートしました。当時はまだFOLIOとAlpacaTechはグループ会社ではありませんでしたが、両社の技術やノウハウによって生まれたサービスが「ROBOPRO」であり、現在のグループシナジーを象徴するサービスになりました。

――FOLIOとAlpacaTechはそれぞれどのような強みを持って、どうグループシナジーを生み出しているのでしょうか?

【甲斐】FOLIOは第一種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業のライセンスを持って、BtoCとBtoBの両面で資産運用サービスを展開しています。このビジネスモデルを支えているのが、FOLIOがお客さまに直接提供している「ROBOPRO」と、金融機関向けに提供しているSaaS型の“投資一任”プラットフォーム「4RAP」です。

近年、資産運用の世界では、ロボアドバイザーやファンドラップといった投資一任運用サービスが増えてきていますが、銀行や証券会社などの金融機関が、自社でサービスを開始するには、システム開発コストがネックとなるケースが多いようです。そこでFOLIOはSaaS型の投資一任基盤として「4RAP」を開発しました。金融機関は「4RAP」を導入することで、より低コストで投資一任運用サービスを実現することができます。「ROBOPRO」と「4RAP」があることで、より多くのお客さまに投資一任運用サービスをお届けすることができています。

一方、AlpacaTechはAIによる金融市場予測ソリューションを提供するフィンテック企業として、様々なAI技術に加えて、ビッグデータ解析や金融向けデータ・ストレージなどの技術にも強みを持っています。現在は、マーケットデータと生成AIを活用した金融機関向けのマーケティング業務効率化支援にも取り組んでいます。

FOLIOとAlpacaTechがそれぞれの得意領域における優れた技術を補完し合うことで、お客さまの様々なニーズに応える新たなソリューションを生み出していくことが可能になりました。2023年にAlpacaTechがFOLIOホールディングスの子会社となり、現在のグループ体制になってから、さらに強力な事業シナジーのもと、高い技術力を駆使した金融ソリューションを急速に拡充しています。

甲斐真一郎(かい・しんいちろう) 株式会社FOLIOホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO
甲斐真一郎(かい・しんいちろう)
株式会社FOLIOホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO
2006年、京都大学を卒業後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社し、日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券株式会社に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。2015年12月、株式会社FOLIOを創業。

新たな投資の王道として活用が広がるAI投資「ROBOPRO」の裏側

――「ROBOPRO」では、どのような形でAIが活用されているのですか?

【甲斐】既存のロボアドに対して「ROBOPRO」は、AIを活用し、多くのデータを分析して金融市場を先読みする点が特徴です。「ROBOPRO」のAIは、40種類以上の先行性の高いマーケットデータを使い、約1000種の特徴量を組み合わせて多角的に分析します。「ROBOPRO」は米国株式、先進国株式、新興国株式、米国債券、新興国債券、ハイイールド債券、不動産、金という8つのグローバル資産を対象に分散投資を行っていますが、AIを用いて各資産の1カ月後のリターンを予測しています。

このようにユニークな運用を行う「ROBOPRO」ですが、パフォーマンス実績も好調です。2020年1月15日のサービス開始から2024年10月17日までの約4年9カ月間で、運用実績はおよそプラス100%となりました(※1)。また、金融庁が公表したロボアドバイザーの2022年末までの過去3年のパフォーマンスでも第1位(※2)となるなどの実績を残しています。

※過去の実績は将来の運用成果等を示唆または保証するものではありません。

――「ROBOPRO」リリース以降のFOLIOグループの成長は目覚ましいですね。

【甲斐】おかげさまでFOLIOは投資一任契約増加件数で2022年度、2023年度と連続で国内No.1(※3)となっています。取扱残高では2023年11月に1000億円を突破し、その後6カ月で1500億円を突破、さらにその5カ月後に2000億円突破と、成長スピードが加速しています。「ROBOPRO」や「4RAP」などグループの主要事業の収益については、2020年1月に「ROBOPRO」をリリースしてから5年間、20四半期連続で増収が続いています。

――急成長の要因はどこにあるとお考えですか?

【甲斐】「ROBOPRO」がしっかりと結果を出してきたことや、「4RAP」の導入金融機関が増えてきたことに加えて、「ROBOPRO」がAI運用エンジンとして、様々な形で金融商品に採用され、お客さまに受け入れられてきたことがあげられます。

2021年8月にFOLIOホールディングスはSBIグループの連結子会社となり、事業連携を進める中で、「4RAP」を株式会社SBI証券に初めて導入することができました。これにより生まれてきた「SBIラップ」では、「ROBOPRO」のAI投資のノウハウを活用した「SBIラップ AI投資コース」をはじめとし、複数の投資一任運用サービスの展開が可能となっています。また、「4RAP」導入2社目となった株式会社愛媛銀行が提供する「ひめぎんラップ/ROBO PRO AIラップ」でも、私たちのAI投資のノウハウが活用されています。

――2023年末にリリースされた「ROBOPROファンド」についても教えてください。

【甲斐】AIの予測精度が高くパフォーマンスがよかったこともあり、FOLIOは投資助言・代理業の登録を行い、投資助言サービスを開始したのです。「ROBOPROファンド」では、FOLIOが「ROBOPRO」の運用戦略に基づく投資助言を行っています。

「4RAP」も「ROBOPROファンド」も、導入する金融機関が1社増えるだけで、取扱残高が大きく伸びます。お客さまの側から見ても、いつも使っている銀行や証券会社の口座にお金を置いたまま資産運用できるのは便利ですから。

お客さまに直接販売する「ROBOPRO」と基盤としての「4RAP」に加えて、AI運用エンジンとしての「ROBOPRO」が複数の金融商品に形を変えてお客さまに受け入れられていることで、加速度的に取扱残高が増えているのです。

――新たに策定したグループミッション「明日の金融をデザインする。」に込めた想いは?

【甲斐】弊社の金融ソリューションは、FOLIOとAlpacaTechが互いに技術やノウハウを補完し合うことで生まれる事業シナジーにより成立しています。今後も持続的に成長を続けていくうえで、あらためてFOLIOグループとして、私たちの存在意義や未来への意志を示すために、グループミッションを策定しました。「明日の金融をデザインする。」には、これからの社会に求められる金融ソリューションの創出を通じて、豊かな未来の実現に向けて挑戦していく決意を込めています。

「金融が変われば、人々はもっと幸せになれる」というFOLIO創業時の想いは今も変わりありません。引き続き現在提供している各事業の成長を追求しながら、お客さまや社会の課題に真摯に向き合い、その先も時代に即した新しいソリューションを設計していきます。FOLIOグループの強みである技術力と創造力をもって、日本に資産形成という文化を根付かせたいと考えています。

※1 (2024年10月17日時点の円建て価格/2020年1月15日時点の円建て価格)-1で計算した騰落率を%表示しています。
※2 「国内運用会社の運用パフォーマンスを示す代表的な指標(KPI)の測定と国内公募投信についての諸論点に関する分析」の公表について (別添)「2022年末(4)ファンドラップ関連」(2023年4月21日)。
※3 一般社団法人日本投資顧問業協会統計資料「契約資産状況『ラップ業務』」(2022年3月末、2023年3月末、2024年3月末)に掲載の「投資運用」契約件数(個人及び法人の合計数)を用いてのFOLIO調べ。