持続可能な社会の実現。今やこれは、企業経営において不可欠な視点の一つだ。ただ、具体的に取り組みをスタートさせ、成果を出していくのは簡単ではない。
そうした中、東京都は電力を「H(へらす)」「T(つくる)」「T(ためる)」をキーワードに電力逼迫ひっぱくへの対応や脱炭素社会の実現を目指す「HTT」の取り組みを進めている。昨年夏には「HTT取組推進宣言企業」への登録制度をスタートし、都内事業者の活動を後押しすることにも注力。「節電や創エネなど、HTTに向けた取り組みを行う宣言企業には登録証の発行、ウェブサイトへの社名や活動内容の掲載などを行います」と東京都産業労働局産業・エネルギー政策部産業政策連携促進担当課長の黒川純氏は説明する。
「都内の企業がHTTに向けた行動を起こしたり、取り組みを充実させたりするきっかけを提供したい。これが事業の狙いであり、東京都としての思いです。多くの企業に参加いただくことで、脱炭素社会の実現を後押ししたいと考えています」
実際、登録企業は2024年8月現在で350社を超え、着実な広がりを見せている。そこで今回、登録企業の中から昨年度に「優良取組表彰」を受けた首都圏環境美化センターとアクサ・ホールディングス・ジャパンの2社へインタビュー。それぞれの取り組み内容やその成果、またHTT取組推進宣言企業に登録した思いなどを聞いた。

●首都圏環境美化センター 斉京由勝代表
環境経営が“選ばれる企業の条件”となる中取引先に自信を持って活動内容を伝えられる

斉京由勝氏
斉京由勝(さいきょう・よしかつ)
株式会社首都圏環境美化センター
代表取締役

首都圏環境美化センターの主要事業は廃棄物の中間処理。プラスチック類・ペットボトル・缶・瓶をはじめ多様な廃棄物を回収し、選別、圧縮、破砕などを行うことで再資源化の一翼を担っています。ISO14001の認証を取得するなど、以前から環境経営には力を入れていましたから、「HTT取組推進宣言企業」については、“自社の活動を広く発信するいい機会”と考え、すぐに登録を決めました。

当社の取り組みの一つは工場の屋根への太陽光発電パネルの設置です。現在、二つの工場に合計112枚のパネルを取り付け、それぞれで使用電力量の2~3割程度を賄っています。廃棄物を価値あるものに生まれ変わらせるに当たって、環境への負荷もできる限り小さくする必要がある。これは私たちの強い思いであり、同時に今、取引先が中間処理事業者を選ぶ際の一つの条件にもなってきています。循環型社会を構築する上で、サプライチェーン全体に脱炭素や省エネの推進が求められているのです。

工場の屋根に取り付けられた太陽光発電パネル。
工場の屋根に取り付けられた太陽光発電パネル。

「HTT」を実践する場面をさらに増やしていく

その他、当社ではオフィスでフリーアドレス制を採用して使用していないエリアの照明を消したり、節電委員会を設けて消費電力の削減方法を検討したりしています。ただ、節電が働きやすさを損なってはいけない。取り組みと働きやすさのバランスは重視しています。

地道な活動が評価され、HTT取組推進宣言企業の優良取組企業として表彰されたことは私たちの大きな励みになっています。加えてそれは、取引先とのコミュニケーションにおいても大きな意味を持っていると感じています。お話ししたとおり、今、脱炭素などとどう向き合っているかは事業者選定における重要なポイントです。そうした中で、当社は具体的な取り組み内容を説明し、自信を持って「うちにお任せください」と伝えることができる。そして実際、多くの廃棄物排出事業者から選ばれれば、従業員の中には“さらに環境経営、脱炭素経営を頑張ろう”という気持ちが生まれてきます。

新たに立ち上げた工場には太陽光発電パネルと併せて蓄電池も設置し、休憩時間などに発電した電力も有効活用していく計画です。事業活動の中には「HTT」を実践する余地がまだ多くあるはず。今後も環境保全活動を推進し、自社の強みにしていきたいと考えています。

一方、リサイクルの分野では廃棄物の100%再資源化が首都圏環境美化センターとしての大きな目標。すでにリサイクルが難しい廃棄物を燃料化する事業も検討を進めています。引き続き他社とも連携して目標の達成を目指し、業界をリードしていければと思います。

●アクサ・ホールディングス・ジャパン 谷川由記氏
取り組みを多くのステークホルダーと共有し意識の輪、行動の輪を広げていきたい

谷川由記氏
谷川由記(たにかわ・ゆき)
アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社
コミュニケーション&サステナビリティ
サステナビリティエキスパート

「すべての人々のより良い未来のために。私たちはみなさんの大切なものを守ります。」をパーパスとするアクサグループにとって、脱炭素や気候変動対策も重要な経営課題です。「HTT取組推進宣言企業」となることは、従業員がエネルギー問題や環境保全を自分ごととして捉える、またステークホルダーの皆さんに私たちの企業姿勢を知っていただく一つの契機になると考えました。

当社では夏と冬の年2回、消費電力を減らす取り組みとして各拠点が電気使用量の削減率を競い合う「節電キャンペーン」を実施しています。2012年に東日本大震災に伴う電力供給の逼迫に対処する取り組みとして始まり、現在は従業員の環境意識の向上などを目的に継続中です。例えば24年冬のキャンペーンでは高知センターが前年比34%減で第1位に。空調温度の設定変更など地道な活動を行い、同時に事務所の電気使用量を従業員に定期配信するといった施策が実を結びました。

取り組みの中で私たちが大事にしているのは、身近なアクションを積み重ね、大きな成果につなげていくという考え方です。まさにその観点から、「アクササステナブルハンドブック」もデジタルブックとして発行しました。買い物や食事、旅行などの場面で実践できるエコな活動をまとめたこのハンドブックは、従業員の実体験も豊富に盛り込んでいるのが特徴。読んだ人からは「何ができるか分からなかったが、最初の一歩が踏み出せた」「何がエコなのかを判断しやすくなった」などの声が聞かれます。

私たちはこのツールを社内だけでなく、SNSやイベントを通じて社外にも紹介しており、一人でも多くの人の行動変容のきっかけになることを願っています。

オンライン上で誰でも閲覧できる「アクササステナブルハンドブック」。
オンライン上で誰でも閲覧できる「アクササステナブルハンドブック」。

「なぜ取り組むのか」も重視している

今回、HTT取組推進宣言企業となり、優良取組企業の表彰を受けたことは、さらなる活動推進のモチベーションとなります。私たちはこれまで、活動において「なぜ取り組むのか」も重視してきました。脱炭素や気候変動対策がなぜ必要なのか、一つ一つの取り組みがどんな意味を持つのか――。リスクの専門家である保険会社として、物事の背景や意義にも目を向けながら、活動をいっそう充実させていくことが今後の目標です。

繰り返しになりますが、地球環境を守るには小さな力を結集して大きな力とすることが欠かせません。そこでアクサグループとしては、今後もステークホルダーや地域の皆さんとできるだけ取り組みを共有していきたい。そうして意識の輪、行動の輪を広げていくことに貢献していきたいと考えています。

「HTT」ロゴ