個人事業主やミニ法人を選ぶメリット

年金で暮らしていけないとなると、どうすればいいか。

答えは二択。「仕事をする」か、「運用する」かになるでしょう。

先述のように、自分の健康状態に問題がなければまずは、「仕事をする」のがベストです。ただし気をつけるべきは、月収を50万円以下に抑えることです。

つまり60歳以降も厚生年金に加入して再雇用されると、毎月の賃金と老齢厚生年金の合計額が50万円を超える場合があります。すると、超えた分の2分の1が年金月額から減額される「在職老齢年金」になるからです。

とはいえ今後、この50万円という上限は20万円、30万円と変更される可能性もあるでしょう。ですからその対策として、個人事業主になったり、ミニ法人をつくるのも手です。厚生年金に加入していなければ、いくら稼いでもOK。自分で月収を決めることができるからです。

年金運用の3つのルール

一方、健康状態が不安であれば、年金を「運用する」ことを考えましょう。ただし、高齢者の運用には3つのルールがあります。

退職コンセプトとサバイバーの年金
写真=iStock.com/RomoloTavani
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ルール①余裕資金で行う

老後は自分が病気をしたり、親に介護が必要になったりと、不測の事態がいつ起きるかわかりません。とっさにお金が必要になったときのために、ある程度の額を手元に置いておくのは大切です。ですから運用するなら、この先5年は“使うあてのない”資金を回しましょう。余裕資金がないのであれば、運用はやめたほうがよいでしょう。

ルール②NISA口座は使わない

今、新NISAが大流行ですが、高齢者はNISA口座ではなく、一般口座や特定口座で行うのがおすすめです。なぜならNISA口座は、「損益通算」ができないからです。

損益通算とは、運用で損失が出たら、他の利益から差し引いて税金を減らせるしくみ。たとえば、その年の利益が10万円、損失が6万円なら、10万円-6万円=4万円が課税の対象になります。それでもマイナスになったら、確定申告で最長3年間損失を繰り越して控除できます。

そもそも運用によって譲渡益や配当益など利益が出ると20%の税金がかかりますが、NISA口座は、この税金がかからない代わりに、損益通算ができず、損失の繰り越し控除もできないのです。私の経験上、いくら頑張って運用しても、そう簡単に利益が出るものではありません。絶対に資産を目減りさせたくない高齢者だからこそ、損益通算できる特定口座または一般口座を選ぶほうが得策でしょう。

ルール③資産を分散化する

今は、日経平均が最高値を更新したり、戦争で世界的に物価が上がったり、あり得ないことが起こる時代。そんなときに個人のできる防衛策は、分散投資しかありません。地政学リスクや景気リスクに対して、株式や債券、コモディティ、金、不動産など感応度の異なるものを持っておく。これが肝心です。とにかく分散させて、リスクに備えていきましょう。

「仕事をする」か「運用する」か。老後は、どちらにも対応できるように、40代、50代のうちから意識して準備しておくのがもっとも賢い選択です。

構成=池田純子

崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト

2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。