食の調査レポートVol.5
食の総合メディア「dancyu」の読者組織「dancyu食いしん坊倶楽部」を対象に、牛肉に対する嗜好を調査したレポート第三弾。今回は、和牛ブランドの認知度を調査。見えてきたのは、収入による地域ブランドへの関心の違いと、赤身肉主体の短角牛・あか牛への関心の高さでした。

dancyu総合研究所は、dancyu食いしん坊倶楽部(以下、倶楽部)メンバーを対象に、牛肉に対する嗜好を調査しました。回答数は931人(男性457人、女性471人、どちらでもない3人)。調査は2024年4月26日~5月6日にかけて、インターネットを通じて実施しました。

松阪牛・米沢牛といった和牛の産地ブランドは、牛肉を購入する際にどれくらい重視されているでしょうか。産地ブランドを重視する(重視する上位5項目の中に入る)と答えた人は22.5%でした。これは様々な項目中8番目で、赤身の多さ(36.4%)や赤身肉の色合い(36.3%)、サシの多さ(24.4%)といった見た目での評価を下回っています。ブランド名よりも自分の目を信じるという倶楽部メンバーの志向がうかがえます。

牛肉を購入する際に重視している項目

世帯年収1,500万円以上ではブランド重視層が32.7%に

産地ブランドを重視するかどうかは、年齢によってかなりの差がありました。20代・30代の若い世代は産地ブランドをさほど重視しておらず、70代以上は重視する人の割合が3割近くまで上昇します。牛肉調査②「赤身肉派vs霜降り肉派」で、70代は霜降り牛肉を好む層が30%に上り、他の世代と比べて高率であることを紹介しました。柔らかい霜降りは黒毛和種の特徴です。黒毛和種を選ぶ人の多い70代は、その分、和牛ブランドに敏感になるのかもしれません。

松阪牛・米沢牛などの国内の産地ブランドを重視しますか?

さらにはっきりと産地ブランド重視の傾向が表れているのは高収入層です。産地ブランド重視は世帯年収400万円未満の層では15.6%にとどまりますが、1,500万円以上の層では、32.7%に上りました。高年収層ほど価格の高い有名ブランド和牛を食べる機会が多く、自分の嗜好に合ったブランドを選んでいると言えそうです。

松阪牛・米沢牛などの国内の産地ブランドを重視しますか?

松阪、米沢、神戸、近江の四大ブランドが

では、どのような産地ブランドが倶楽部メンバーに認知されているでしょうか。全国のほぼすべての都道府県はブランド和牛を有しています(最も和牛の飼育頭数の少ない東京都にも秋川牛や東京ビーフといったブランドがあります)。各産地ブランドの認知度を紹介する前に、都道府県別の和牛飼育頭数を見ると下の円グラフのようになります。鹿児島県が他県を圧倒する18.6%を占め、それに続く宮崎県(12.5%)と北海道(11.1%)がビッグスリーを形成しています。

県別の黒毛和牛の飼育頭数割合

しかしながら、飼育頭数の多さはブランド認知とは別物のようです。倶楽部メンバーの認知が最も高かったのは松阪牛。回答者の99.9%が知っていて、食べたことがある人は93.6%に上りました。次いで米沢牛(認知度99.1%、喫食経験者83.5%)、神戸牛(認知度98.9%、喫食経験者82.6%)、近江牛(認知度97.3%、喫食経験者75.6%)でした。松阪牛、米沢牛、神戸牛(神戸ビーフ)、近江牛は四大ブランドとして以前から他の地域ブランドとは一線を画する人気があり、倶楽部メンバーの認知もそれに沿ったものでした。

以下の「和牛」ブランドを知っていますか?

希少な短角牛とあか牛を食べた人・食べたい人が多数

調査結果の中で興味深いのは、「いわて短角牛」「くまもとあか牛」「土佐あかうし」の認知度の高さと喫食経験者の多さです。「いわて短角牛」の飼育頭数は3000頭ほど。和牛全体に占める割合はわずか0.15%の超希少種です。それを37.6%の人が食べたことがあり、認知度は74.5%に上るというのは倶楽部メンバーならではの数字と言えそうです。同様に、「くまもとあか牛」の飼育頭数は1万7000頭ほどにもかかわらず、食べたことがある人は36.6%、認知度は66.9%に上ります。「土佐あかうし」の飼育頭数は2400頭ほどながら、食べたことがある人は26.8%、認知度は63.6%に上ります。「今後食べたいと思っている」和牛ブランドを聞いた質問でも、多くの人が「いわて短角牛」と「くまもとあか牛」、「土佐あかうし」を挙げました。

この3つの和牛は黒毛和種ではありません。「いわて短角牛」は日本短角種という和牛品種のひとつで、冬の間に生まれた子牛は夏の間、母牛とともに放牧され、冬になると肥育農家のもとで育ちます。夏山冬里方式と言われるこの飼育方式は、褐毛和種である「くまもとあか牛」にも共通しています。「土佐あかうし」も褐毛和種で放牧によって育てる農家が多くいます。これら3種の和牛はいずれも黒毛和種ほどサシの入らない赤身主体の肉質です。

いまや黒毛和種は和牛全体の98%を占めています。そんな中、この調査では霜降りになりやすい黒毛和種とは逆の赤身主体の日本短角種と褐毛和種に対する関心の強さが見て取れます。これは、牛肉調査②「赤身肉派vs霜降り肉派」にも表れていた霜降り肉から赤身肉への嗜好変化とぴったり重なっています。

【牛肉調査①】国内産牛肉への高い支持。海外で外国産牛のおいしさに目覚める人も!
【牛肉調査②】強まる牛肉の赤身志向。20歳以上の全ての世代で赤身肉派が霜降り肉派を上回る

dancyu総合研究所では、dancyu食いしん坊倶楽部と共同した企業さま・自治体さま向けのイベント開催や調査、調査結果を基にしたコンサルティング、商品開発などの実施ができます。まずはお気軽にお問い合わせください。

【調査概要】
調査名:dancyu総合研究所「牛肉調査(2024年4-5月版)」
調査主体:dancyu総合研究所(株式会社プレジデント社)
調査方法:WEBアンケート方式
調査期間:2024年4月26日~5月6日
調査対象:「dancyu食いしん坊倶楽部」の10代〜70代以上の男女 931人(全国)