「夫婦」というステイタスには愛情表現は不要?
「告白」という儀式の有無が、日本では愛情表現を言葉で表さなくてもよい、欧米では言葉で表さなければならない、という違いを生んだ一つの理由と言えるでしょう。
恋人関係は、日本では一種の地位、「ステイタス」なのです。一度ステイタスを確立すれば、愛情を言葉で表現しなくても、さらに言えば性的関係がなくても「恋人」であり続けられます。もちろん、別れるか結婚に至るかまでですが、結婚には、「プロポーズ」が必要ですし、別れるのも「振る」「振られる」という儀式が必要とされます。
そして、恋人が結婚すれば、2人の関係が「夫婦」というアップグレードしたステイタスとして、さらに強化されます。そうなればもう、「愛」があるのは当然とみなされるので、愛情表現は、恋人以上に言葉でも行為でも必要とされない。「黙っていても愛情があるからわかり合える」ということが成り立ってしまうのです。
しかし、欧米(全ての欧米社会に当てはまるとは限りませんが)では、少なくとも恋愛は、ステイタスとは考えられていない。あくまで「2人の間に愛情がある」という状態なのです。つまり、相手を求め続けなければ、関係は維持できない。だから、相手とコミュニケーションを続け、「I love you.」と言い続けるのです。
告白以前の関係は何と呼ばれているか
もちろん、欧米でも結婚には、プロポーズが必要とされます。しかし近年は、離婚が一般的になったために、夫婦になっても二人で愛を表現し合わなければ、離婚する可能性が高くなる。だから、結婚は面倒なので、あえて結婚せずに同棲するカップルが増えるのです。その結果、多くの欧米諸国では、半数の子どもは、結婚していない母親から生まれるようになったのです。
では、日本において恋人関係に「告白」が必要ならば、告白以前の関係は何と呼ばれているでしょう。
それは、「異性の友人」というよりほかないでしょう。冒頭に述べた、「赤いスイートピー」に描かれた関係です。『友だち以上恋人未満』という漫画もあるくらいです(留意しておきますが、同性愛、両性愛でも、日本では同型の議論がなりたちそうですが、ここでは触れません)。
次回は、この「異性の友人」という限りなくグレーな領域について、おおやけの調査結果「出生動向基本調査」(国立社会保障人口問題研究所)をもとに考察していきましょう。
1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主著に『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『「家族」難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社)、『結婚不要社会』『新型格差社会』『パラサイト難婚社会』(すべて朝日新書)など。