高まる資産運用への関心その背景にあるもの

新NISAがスタートするなど投資環境の整備が進む中、個人の資産運用への関心は着実に高まっている。例えば、個人の証券口座数は2023年9月時点で約3400万口座。20年9月の数字が約2600万口座だから3年間でおよそ30%も増加したことになる(※)

なぜ多くの人が資産運用の必要性を感じているのか――。やはり背景には、経済や社会の先行きの不透明感が増していることがあるだろう。物価の上昇は一つ気になるところだ。超低金利が続く状況で、物価上昇は現預金の購買力を低下させていく。仮に3%の物価上昇が10年間続けば、手元の現金の購買力はおよそ26%低下することになる。

また、税金や社会保険料の負担増も見逃せない。最近、“国民負担率”という言葉をよく耳にするようになった。これは、「税負担と社会保障負担の合計」を「国民所得」で割った数字だ。財務省が発表した23年度の国民負担率(実績見込み)は46.1%となっている。

財務省発表資料を基に作成。

20%台で推移してきた国民負担率が30%を超えたのは1979年度だ。そして今から10年前の2013年度に40%を超え、現在に至っている。グラフのとおり、長期的に見ればこの割合は徐々に上昇してきている。

今後もきっと個人の負担は増していくだろう――。そうした不安が「自ら資産を増やす行動を取らなければならない」という気持ちを後押ししている側面があるに違いない。

※日本証券業協会「全国証券会社主要勘定及び顧客口座数等」より。

不合理な判断の原因になる「認知バイアス」の存在

実際に資産運用を始めれば、リスクもある。当然ながら、相場というものは上昇もすれば下落もする。それに翻弄ほんろうされない心構えをしておくことも必要だ。そこで助けになるのが認知心理学や行動経済学の知見である。

アンカリング効果を知っているだろうか。これは簡単に言えば、先に与えられた情報が基準(アンカー=いかり)となり、無意識のうちに判断がゆがめられてしまう傾向のことだ。かつて1万円だった株式が5000円になっていると、記憶にある1万円が基準となり「安い」と感じてしまう。しかし現在5000円であるのには何らかの訳があり、必ずしも安いとは限らない。

ハーディング現象というものもある。周囲の人と同じ行動や選択をすることで安心感を得たいと考える心理現象のことだ。語源の「herd」は動物の群れなどを意味する。投資においては、単に多くの人が購入、売却しているとの理由から、自分も追随してしまうことがあるわけだ。

つまり押さえておきたいのは、人間は直感や先入観、これまでの経験などで物事を判断する「認知バイアス」を抱えているということ。認知バイアス自体は、効率的で迅速な意思決定の役に立つこともあるが、一方で合理的な判断を妨げてしまうこともある。不合理な判断は、利益を取りこぼしたり、損失を膨らませたりすることにもつながりかねない。

人は常に冷静、論理的でいられるとは限らない――。そうした中で中長期的に投資を行うに当たっては、自分自身の行動を客観的に見つめる、また確かな根拠に基づいて合理的な判断をするための仕組みをあらかじめつくっておくことも重要になるだろう。