2011年に発生した東日本大震災や、21年の千葉県北西部地震などを受け、東京都では事業所防災リーダーを推進している。災害時に備えた防災のヒントや災害情報などを専用のウェブページで閲覧できるシステムの運用も始まっており、登録のメリットを都の担当者に聞いた。

震災時、帰宅困難な場合はむやみに移動しないこと

地震や風・水・雪害などが多発する日本は“災害大国”であると言っても過言ではない。近年頻発している地震だけでなく、台風や局地的豪雨などの発生する頻度や激しさが増しており、災害への備えの重要性も高まっている。

「皆さんが体感されているように、ひと昔前とは気候が大きく変化しています。『災害は忘れた頃にやって来る』と言われていた時代から、災害がいつ起きてもおかしくない『災害と常に隣り合わせ』の時代に突入していると言えます」と事業所防災リーダーの推進元である東京都の総合防災部西平倫治事業調整担当課長は言う。

西平倫治(にしひら・ともはる)
東京都
総務局総合防災部事業調整担当課長
1993年東京都庁入都。2011~13年、国と都の首都直下地震帰宅困難者等対策協議会の事務局や東京都帰宅困難者対策条例など、東日本大震災後の帰宅困難者対策の制度構築に携わる。

東日本大震災では鉄道が運行を停止し、都内では多くの帰宅困難者が徒歩で帰宅を開始したため、道路上に人があふれるなどして混乱が生じた。そして今後、発生が危惧されているのが、首都直下地震だ。東日本大震災で都内は最大震度5強を観測したが、首都直下地震では最大震度7が想定されている。その場合にまた帰宅困難者が一斉に動き出すと、道路が混雑して人命救助の緊急車両が通行不能になったり、群集雪崩や大きな余震に巻き込まれて二次災害に遭ったりと、非常に危険だ。

このため東京都では東日本大震災後に「東京都帰宅困難者対策条例」を制定。災害時には「むやみに移動しない」という基本原則を定めた。

「災害が発生した場合、まずは慌てず落ち着いて行動してもらえればと思います。そして二次災害を防ぐためにも、安全が確保できる職場や学校にいる場合は、そこから72時間は帰らず、待機することをお願いしています。そこで重要なのが、正しい情報の収集です。これまで発災時の情報収集はテレビやラジオなどのメディアやSNSに頼るところが大きかった。しかし、広範囲にわたる情報が次々と流れる中で自分たちが本当に欲しい情報を見逃したり、埋もれてしまう可能性が高く、混乱を招いてしまいます。都市機能が集積し、人口が最も多い東京都だからこそ、自然災害に対するリスクも極めて高いので、自治体や事業所単位でも対策していくことが非常に重要になるのです」

その実効性を高めるため、東京都では企業単位や事業所ごとに、防災対策の旗振り役として「事業所防災リーダー」を置くことを推奨している。東京都の専用システムにウェブ登録するとメールやLINE、さらにはリーダーごとに設けられた専用ページで、東京都から直接、防災に関する様々な情報を受け取ることが可能になる。また、事前に防災リーダー専用ページでエリア登録しておくと、新宿区の事業者なら新宿区に発表されている警報等が自動的に流れてくる。滞在エリアの状況を正確に把握し、迅速に行動することで、社員やお客さまなどの大切な命を守ることにもつながるだろう。

災害時も平時も活用しやすいコンテンツ

災害時には、正しい情報に基づいた行動が要だ。自ら都や国のホームページなどにアクセスして情報を得ることも可能だが、いざという時にどこに情報が掲載されているか探すことが困難な場合も想定される。そんな時、事業所防災リーダーに登録していれば、東京都から確度の高い情報が直接、防災リーダーに配信されるので、従業員やお客さまに適切な行動を促すことができ、かなり有益だと考えられる。「もちろん災害時だけでなく、平時にも防災に関する情報を発信しています。月に2、3回程度『事業所防災リーダー通信』を通じ、災害に関する知識や防災のヒントとして、オフィスでの家具転倒防止対策や簡単な防災訓練の工夫など、様々な情報を提供しています。これによって、いざという時でも事業を途切れずに継続させる、もしくは途切れたとしても早期に復旧を図ることができるような事業継続計画(BCP)の策定の参考にもできるでしょう。実際に登録・活用している利用者からは、『事業所防災リーダー通信』を社員みんなで供覧することで、社員全体の防災に対する意識の向上が見られたという、日頃からの活用に関する声も聞いています」

事業所防災リーダーキャラクターのリーダックさんとオキルカモ隊。

中小規模の事業所の防災対策にも対応

様々なメリットがある事業所防災リーダーの登録は無料。西平課長も大企業から中小企業、個人経営の飲食店・物販店まで、気軽に登録して欲しいと呼びかける。

調査によると、防災マニュアルを作成している都内の企業は約半数に留まり、作成していない残り約半数に対して、どのように対策を取ってもらうかという課題がある。とはいえ、大企業と中小企業では、見合った防災対策はそれぞれ変わる。例えば、災害用の備蓄品を準備する場合、大きなオフィスのある企業であれば、備蓄倉庫の確保や配置場所などが問題になる。一方で小規模で備蓄のスペースが少ない場合は、社員それぞれの机の周りに各人の使用を想定した備蓄品を置くなどの工夫が必要だ。このように事業所防災リーダー向けのコンテンツでは、大企業を想定した防災に留まらず、中小企業から個人経営の店舗まで、幅広く使える内容や情報を揃えているので、小規模な事業所であっても参考となる対策を見つけることが可能となっている。

いざという時に落ち着いて、適切な行動ができるかは、平時からの準備や心構えによって大きく左右される。リーダー向けコンテンツを参考に、日頃から備蓄や訓練などを心がければ、災害時の行動は自ずと変わってくるだろう。

「事業所防災リーダーは東京都が運営しているので、災害時に信頼のおける情報が手に入るチャンネルを確保できているというのは、それだけで安心感にもつながるでしょう。『事業所防災リーダー通信』はリーダーが読むほか、プリントアウトして事業所内で目につく場所に貼っておくだけでも事業所内の防災意識を醸成できると思います。また年に2回程度配信している漫画形式の通信は『わかりやすい』『事業所全体に見せたい』と好評です。ぜひ事業所防災リーダーに登録してみてください」と多くの事業者への参加を呼びかけている。

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充実の防災情報のコンテンツ

●地震や台風、気象警報などをひと目で確認
●緊急情報をリアルタイムで配信
●大地震発生時には、都内の混雑状況や一時滞在施設など、帰宅困難者に関わる情報を発信
●災害時の最新情報をLINEでも受信可能
●平時には事業所防災のタメになるコンテンツを配信
……そのほかコンテンツは随時追加予定

事業所防災リーダー登録フロー

①オフィスページにアクセスして、「はじめて登録する方はこちら」をクリック
②仮登録画面でメールアドレスを登録
③登録メールアドレスに届いたメールから登録フォームにアクセス。企業情報、情報管理者を登録
④「事業所防災リーダー」を登録
企業・事業所内で事業所防災リーダーを複数人登録できます。