会計ソフト「会計王」シリーズで知られるソリマチグループ。そのグループ内ベンチャーである会計バンクが、フリーランス向け請求書発行・受取アプリ「スマホインボイスFinFin」をリリースし、好評を博している。アプリの使用料は、毎月の請求書の発行数が10枚以下なら無料。その真意とは――。「フリーランスに社会的信用基盤を提供していく」と語る同社代表取締役社長CEO反町秀樹氏に、同社が目指す「日本の未来」について聞いた。

「フリーランスなのに不自由」、そんな日本社会に自由を!

――働き方改革や副業の自由の拡大により、フリーランスへの注目が高まっています。

反町秀樹(そりまち・ひでき)
会計バンク株式会社 代表取締役社長CEO
1965年生まれ。新潟県長岡市出身。ソリマチグループ各社 代表。税理士、ITコーディネータ。監査法人KPMGピートマーウィック国際税務部を経て、1994年ソリマチ情報センター(現・ソリマチ)取締役就任。2003年代表取締役社長就任。2009年ソリマチグループ代表に就任。

各種の調査によれば、フリーランス人口はコロナ禍を通じて60万人も増加、全国で1500万人を超え、その総売上高は23.8兆円にもなります。

日本の国際競争力が低下する中、トップ企業も「もう終身雇用は続けられない」と言う時代になっています。これからの日本経済の主役はフリーランスになると、私は確信しています。

――フリーランスにとっての日本の現状について、どうお考えですか。

残念ながら、フリーランスを支える日本の社会的基盤は非常に脆弱ぜいじゃくです。

フリーランスは「企業や組織に所属せず、自由に仕事をする人」とされますが、フリーランスとして働く人の90%以上は収入が不安定であることに悩み、50%以上は社会保障について不安を抱いているという調査結果があります。社会的信用という面でも、会社員を辞めたとたん、銀行ローンが組みづらい、クレジットカードさえ作れない人もいる。「フリーランスなのに不自由」というのが今の日本の現実です。

加えて2023年10月からは、インボイス制度が導入されました。フリーランスを含む中小の事業者は消費税納税により実質的な収入が減って、さらに苦しくなることが予想されます。

美容師、一人親方、ブロガーなど、多様な仕事に就くフリーランス。その悩みもまた多様だが、圧倒的に不安なのは「収入の不安定さ」である。中小企業庁委託「小規模事業者の事業活動の実態把握調査~フリーランス事業者調査編」(2015年2月実施)によると、「フリーランス形態で事業を営む中での不安や悩み(複数回答)」の総合1位は「収入の不安定さ」で、調査対象の94.1%(1位の回答、2位の回答、3位の回答の合計)が回答に挙げた。続く総合2位は「社会保障(医療保険、年金等)」で、54.4%(同)。こちらも広い意味でのお金の悩みといえる。

フリーランスの悩みの種を解消したい! だからスマホ会計アプリを開発

――そのような現状の中で、どのような想いから会計バンクを設立されたのでしょうか?

私たちは「会計はみんなを幸せにするためにある」と考えています。

ソリマチグループは1954年、新潟県長岡市で会計事務所として創業しました。早くから会計業務のコンピュータ化に着手し、今では5分野14社の企業グループとなっています。近年は知の探索と深化を同時に目指す「両利きの経営」を志し、その流れの中で2021年、スマホ会計アプリを開発する新会社「会計バンク」を設立しました。

会計の世界では今、パッケージ会計ソフトからクラウド会計への移行が進んでいます。いずれもPC利用が前提で、スマホ会計はあまり広がっていません。その理由として現金の出入りを記録するとき、スマホでは数字の入力が面倒だという問題があります。

そこでインターネットバンキングと連動し、さらにレシートの画像から金額を読み取ることで、数字の手入力が不要な「スマホ版のスーパー会計アプリを作ろう」と考えました。企業の会計が必ずしもスマホ利用に適しているわけではありませんが、フリーランスの人たちには強い味方になるはずです。私たちは全国1500万人のフリーランスを応援すべく、フリーランス向けスマホ会計アプリ「スマホ会計FinFin(フィンフィン)」とフリーランス向け請求書発行・受取アプリ「スマホインボイスFinFin」を開発したのです。

――フリーランスの人にとって、これらのアプリの強みはどこにあるのでしょうか?

フリーランスのみなさんにとって、会計は面倒な業務だと考えます。インボイス発行事業者登録もさることながら、毎年の確定申告はとりわけ悩みの種でしょう。

今日、金融機関はどこもインターネットバンキングを行っていますが、「スマホ会計FinFin」は全国約99%の金融機関と連携しており、各行のネットバンキング上の入出金データを自動で取り込むことができます。サービス業の場合、それだけで8割方の入出金の記録が終わります。あとは手書きの領収書やレシートをスマホのカメラで写せば、その内容をアプリが読み取って、会計仕訳の形で記録してくれます。確定申告も、スマホ操作だけで行えます。

また、「スマホインボイスFinFin」を使えば、質問に答えるだけで簡単にインボイス登録申請書が作れる(インボイス申請登録FinFin)だけでなく、請求書、領収書、納品書等もスマホだけで簡単に発行できます。

「スマホインボイスFinFin」では、毎月の請求書の作成が10枚までは無料としています。フリーランスの場合、ひと月に作成する請求書は2、3枚という方が多いので、実質無料と言っていいでしょう。

――フリーランスにほぼ無料で会計アプリを提供する狙いはどこにあるのですか?

時に誤解されることもあるのですが、私たちはこれらのアプリで儲けたいと思っているわけではありません。会計バンク設立の目的は、「全てのスモールビジネスに新しい出会いを創造し、産業別社会基盤を提供すること」です。

アプリの販売で利益を上げるのではなく、多くの人に使っていただくことで、長期的にお互いが繁栄する道があるのではないか。「アプリを通じて得られる会計データを用いて、フリーランスの信用保証の基盤を作れないか」と考えました。

アプリ自体はできる限り無償に近い形で提供し、フリーランスのみなさんの業務を助けていく。さらにそこから得られるデータによって、フリーランスの信用基盤を確立、それによってみなさんが仕事の範囲を拡大する助力をしていこうと考えたのです。

Go FinTech! 「フリーランス・FinTech応援団」とともに日本の未来を変える

――フリーランスの応援のため、多くの組織や企業との提携を進めていると聞きました。

フリーランスが主役となる時代に、それを支える信用基盤が存在しないというのは、日本という国の大きな問題だと私たちは考えています。

企業目線からしても、現在23.8兆円のフリーランスの売り上げが今後さらに増えるとなれば、そこからさまざまなビジネスが生まれてくるでしょう。しかしそうした包括的信用基盤の確立は、会計バンク1社で補いきれるものではありません。そこで私たちは、フリーランスとの共創を希望する企業の方々と、信用基盤づくりで連携していきたいと考えたのです。

――具体的にどんな企業と提携しているのですか?

ソリマチでは、小規模事業者向けのFinTechおよび会計データ活用の包括的提携契約を、全国商工会連合会と結びました。全国商工会連合会は全国に会員が80万人もいる大組織で、その6割が個人事業主なのです。また会計バンクは東京都や新潟県の信用金庫協会とお話しし、信用金庫・信用組合合わせて全国で50に迫る金融機関と提携しています。

「私たちと一緒に、フリーランスの人たちの将来の信用基盤を作りませんか」と呼びかけると、その考えに共鳴し、提携してくれる組織や企業が次々に現れました。私たちは、こうした提携先を「フリーランス・FinTech応援団」と呼んでいます。

設立3年のベンチャー企業に次々と提携先が決まっていくのは、やはり「困っている人を助けよう」という日本に息づく「互助の精神」によるものだと感じます。

――フリーランスが主役の日本社会について、今後の展望をお聞かせください。

高齢化が進む日本では今後、個人が自由な時間に、自由な場所で仕事をする方向に向かうでしょう。ただ企業がフリーランスと一緒に新たな事業を行うといっても、そのベースには信用が必要です。

ソフトやサービスではなくデータで信用保証を行い、一生懸命仕事をしていればクレジットカードも作れ、ローンを組みやすくなる社会。「肩書」ではなく「人」を信じる社会。私たちは「フリーランス・FinTech応援団」とともに、FinFinの利用拡大を通じて、そうした社会の信用基盤を共創していきます。

ソリマチグループが立ち上げた「フレ!フレ!インボイス部」は、インボイス制度に対して、不安な人や困っている人の力になりたいという想いで創設した応援部。決して、インボイス制度を応援しているのではなく、インボイス対応で「お困りの方々を応援」したい、という趣旨によるものだ。インボイス制度に対する悩みを解消できるように300個のQ&Aを用意した「インボイス制度お悩み解決サイト」の公開や、インボイス制度についてオンラインで税理士が徹底的に解説する「インボイス初心者応援セミナー」の実施、税理士に直接悩みを相談できる「インボイス相談カフェ」の開設など、さまざまな角度からインボイス初心者を応援する。