日本生命保険相互会社(以下、日本生命)は、2022年4月より「みんなで子どもを育てる社会」の実現を目指す「NISSAYペンギンプロジェクト」を始動した。当プロジェクトを立ち上げた笠原有子氏と、取り組みの一つである「子育てみらいコンシェルジュ」を運営するライフケアパートナーズ藤井美千子社長に、思い描く未来について、話を聞いた。

子育てしやすい社会を“みんな”で作る

日本生命は希望に満ちた未来世代を育むことに貢献すべく、子どもたちの未来を応援する活動に力を入れている。近年の子育てを取り巻く環境変化を受け、「時代に即した次世代育成のメッセージをあらためて発信しようという機運が社内で高まった」と笠原氏は話す。

「核家族化の進行や女性の社会進出を背景に、身近に頼れる人もなく、孤立した状況下での育児を余儀なくされるケースが増えています。私自身も子育て中の母親として、不安や悩みに直面する場面が何度もありました。今こそ子育て支援に対するメッセージを、分かりやすい形で社会へ発信する必要があると考えました」

こうして立ち上がった「NISSAYペンギンプロジェクト」のコンセプトは、「子育てしやすい社会を、みんなで。」。群れ全体で子育てするペンギンをアイコンに、育児中の当事者だけでなく、共に支え合える“子育ての壁や不安がない社会”の実現を目指す。出産や特定不妊治療をサポートする保険商品の提供から、次世代育成を目的とした中学・高校への出前授業やスポーツ教室の開催、日本生命が10年連続で達成中の男性育休取得率100%を継続・強化する社内向けの取り組みまで、幅広いメニューを包括している。取り組みの基盤となっているテーマは、“社内外の風土醸成”と“社会全体で支える仕組み作り”だ。

未来を作っていく子どもたちを、みんなで手を取り合って育てていこうとの思いを込めた、「NISSAYペンギンプロジェクト」のステートメント。

「“社内外の風土醸成”で重視しているのが、若い世代にポジティブなメッセージを届けること。理念を共有する企業や自治体などを増やし、『みんなで子育てしやすい社会をつくろう』と一緒に発信すれば、メッセージの広がりは大きくなります。世間にある子育てに対するネガティブなイメージの払拭にもつながるはずです」と笠原氏。

例えば、みんなで子育てをする大切な仕組みである「保育」の素晴らしさを発信することにも注力。保育所の魅力を感じたエピソードや、保護者から保育者へ感謝の言葉を募集する企画を実施し、大きな反響があったという。

「保育所は地域の子育てを支えるインフラとして期待される一方、保育者の労働環境や待遇が改善せず、人手不足が加速するなどの課題に直面しているのが現状です。保育所の魅力を発信することで、保育者の意欲向上に貢献すると同時に、保護者へ『一人で抱え込まず、周囲に頼っていい』というメッセージを伝える効果もあると考えています」

企業主導型保育所と保活中の従業員をつなぐ

二つ目の柱である「社会全体で支える仕組み作り」についても、行政や保育施設、育児中の社員を抱える企業などとの連携が欠かせない。すでに日本生命では、子育てと仕事の両立が可能な仕組み作りとして、子会社のライフケアパートナーズが「子育てみらいコンシェルジュ」というサービスを提供しており、「この事業を通じてさらなるネットワーキングの拡大を図りたい」と社長の藤井氏は語る。

「『子育てみらいコンシェルジュ』は、全国の企業主導型保育所と保育所を探している企業の従業員をつなぐウェブサービスです。2020年にスタートし、提携する企業主導型保育所は約800カ所、サービス導入企業は約160社に上り、約1万名の従業員の方に利用していただいております」

企業と保活中の従業員、企業主導型保育所をつなぐウェブマッチングサービス。株式会社ライフケアパートナーズが提供。企業主導型保育所を検索、申込みができる。

導入企業の従業員は、登録された企業主導型保育所の空き状況を検索し、オンラインで見学や入所の申込みができる。さらには保育所探しの基本を学べる「保活セミナー」や、親子の健康について電話相談できる窓口を設けるなどのサービスも充実。企業が人的資本の情報開示を求められる中、従業員が働きやすい環境を整備し、エンゲージメントを高める施策として「子育てみらいコンシェルジュ」のニーズは高まりを見せている。

「このサービスを自社の福利厚生制度として導入することで、企業側は『人を大切にする会社』『両立支援に前向き』と発信できることや、『社内の男性従業員の育児参画の機運醸成へつながる』ということをメリットに感じていただけているようです」と藤井氏。従業員には、保育所を探す際の選択肢を増やせるのが何よりの利点となる。

「働く人たちは保育所を比較検討する手段も時間的余裕もないため、自宅に近い認可保育所だけを選択肢にしがちですが、年度途中に復帰したい場合などは認可保育所の空きがないことも多いはずです。そんな時に各地の企業主導型保育所が選択肢に加われば、復帰の時期も復帰後の働き方も、より柔軟な対応が可能になります」

右=笠原有子(かさはら・ゆうこ)
日本生命保険相互会社
事業企画室 ライフサポート事業 企画課長
2003年、日本生命保険相互会社に入社。管理職として商品開発部、総合企画部を経て、2022年より現職。
左=藤井美千子(ふじい・みちこ)
株式会社ライフケアパートナーズ
代表取締役社長
1997年、日本生命保険相互会社に入社。管理職として宇都宮支社、監査部、健康経営推進部などを経て2023年より現職。

上司世代の応援する姿勢が若い世代を勇気づける

日本生命では「子育てみらいコンシェルジュ」で培った事業ノウハウを基に、新たな保育所支援事業を構想中だ。「これまでに蓄積された知見を活用し、保育所の業務効率や付加価値向上に貢献するサービスを提供したい」と笠原氏は今後の展望を語る。

「将来的にはプロジェクトで確立した保育所支援のメソッドを“ペンギンモデル”として社会に広めていきたい。『この保育所はペンギンマークがついているから、安心して利用できるね』と思っていただけるのが理想です」

また笠原氏は、40代や50代のビジネスパーソンにも、「ぜひ“みんなで子どもを育てる社会”への共感を示してもらえたら」と期待する。

「企業で意思決定を担う立場の方が、『自分も子育て世代を応援している』という姿勢を見せれば、若い世代や子育て当事者は勇気づけられます。日本生命でも、自分のパソコンなどにペンギンプロジェクトのステッカーを貼る経営層が増えており、社内の子育て層から『応援されていると感じて励みになる』という声をよく聞きます。もし皆さんが子育ての壁や不安がない社会を共に作る仲間に加わってくださったら、私たちもうれしく思います」