「事業創造ファーム」として、共創事業と自社事業の企画、開発、運営を行う株式会社dotD。デジタルの重要性が増す昨今、新規のデジタル事業が存続し続けるポイントは何か。そして、官庁や大企業と同社が連携して進めるデジタル事業の未来とは。代表取締役の小野田久視さんに聞いた。

デジタルの力で日本の産業力の活性化に貢献したい

――御社が掲げる「事業創造ファーム」の役割と、提供している価値について教えてください。

「事業創造ファーム」とは、ひと言で言えば「新規事業づくり屋」です。当社は自社と共創の2軸で、主にB2C向けのプラットフォーム事業や大企業との共同事業立ち上げ、企業の新規事業支援などを行っています。

企業が事業を継続していくには、常に新しい産業や価値を生み出していく必要があります。しかし日本には、新規事業の立ち上げまでをサポートするコンサルティングファームやITベンダーはあっても、自社や他社との共同で新事業を生み出し、それをアップデートし続けることを主軸にしている会社はほとんどありません。

加えて、1990年代前半には国際経営開発研究所が発表する「世界競争力ランキング」で、世界63カ国中トップに君臨し続けていた日本の国際競争力が、2010年以降は30位前後と低い位置に低迷していること、そして「デジタル競争力」で大きな遅れが目立つことにも危機感を抱いていました。

こうした背景を受け、2018年10月、事業創造における多種多様なプロフェッショナルのメンバーを取りそろえた「事業創造ファーム」として立ち上げたのが、dotDです。デジタルの力で日本の産業力活性化に貢献すべく、世の中に必要とされる新しい価値創造に挑戦しています。

小野田 久視(おのだ・ひさし)
株式会社dotD 代表取締役CEO
1975年愛知県豊橋市出身。2003年に日本オラクルに入社し新規事業開発などを担当。2016年にSAPジャパンの立ち上げに参画。2018年、在職中に株式会社dotDを設立。自社事業と共創事業の2軸でデジタル事業を通してさまざまな課題に取り組んでいる。

――2023年2月にローンチした、クラウド型事業創造プラットフォーム「dotHatch」も社会課題解決に寄与しています。サービス概要と特長をあらためて教えてください。

「dotHatch」は、新規事業の“多産多死”から成功確率を上げるクラウドサービスです。サービス名は、当社の社名「dotD」と「hatch=孵化させる(hatch out)」を掛け合わせて創りました。

私たちはこれまで、「新規事業を創ってもうまくいかない」という企業担当者の悩みを多く聞いてきました。一般的に、新規事業は1000のうち3つしか成功しないといわれているので、実はうまくいかないのが当たり前なのです。しかし、「どうせうまくいかないから」と新規事業創造をやめてしまえば、その会社はいずれ、社会から取り残されてしまいます。つまり、事業を継続していくためには、新規事業の“多産多死”を受け入れ、成功確率を上げていくしかないのです。

そこで私たちは、これまでに行ってきた大企業との共創事業や自社の新規事業立ち上げ時のノウハウをギュッと凝縮したものを、一定の成功パターンやアプローチ方法としてパッケージ化し、サービス提供し始めました。これが「dotHatch」です。

――新規事業は失敗を恐れないことも大切ですが、できるだけ失敗の確率を減らすコツは何でしょうか。

大きく分けて3つあり、「プロセス」「KPI管理」「ヒト・モノ・カネ資源の最適化」です。「dotHatch」では、成功確率を上げるために、この3つの新規事業の状況を可視化しています。新規事業を創り上げる上で仮説の誤りを見つけた場合や、想定通りに進行しない、投資対効果に見合わないなどのケースが発生した場合には、事業のピボット(方向転換)と撤退のタイミングもサポートし、失敗の確率を減らしています。

例えば、Instagramは今でこそ写真・動画共有SNSとして知られていますが、元々は旅行した先にGPSでピンを立て、そこに写真を付随させるという、旅行用SNSサービスでした。しかし、写真加工サービスのみが利用されていたため、写真SNSサービスとしてピボットしたことで、爆発的なヒットにつながりました。もし同社が旅行用SNSサービスとしての仮説や事業計画に固執していたら、現在のInstagramはなかったでしょう。このように、途中で「違うな」と感じたら、躊躇せずに何十回でもピボットを繰り返すことこそ、失敗確率を減らすコツだと私たちは考えています。

dotHatchの画面イメージ。KPIの進捗や仮設検証フェーズなど、新規事業の現在地が一目でわかる。

国の新規デジタル事業を共に推進し、大きなインパクトを与えていく

――御社はデジタル庁や経済産業省など、国が推進するデジタル施策にもメイン事業者として関わっています。

日本の国際競争力を上げていくために企業の成長は欠かせませんが、日本ではまだ、アメリカのように、新しい産業や事業を生み出すスタートアップ企業への「ヒト・モノ・カネ」が集まらないのが現状です。デジタル庁や経済産業省といった国の中央省庁の新規デジタル事業を共に推進することで、日本の産業に大きなインパクトを与えていきたいと考えています。

当社はデジタル庁の事業の一つである“デジタルマーケットプレイス”の立ち上げをご一緒させていただいており、新しいIT調達の仕組みを通じた行政のデジタル化とイノベーション推進を行っています。あるプロジェクトでは、これまで24カ月かかっていたスケジュールを6カ月に短縮。費用も10分の1に抑え、工程や経費大幅カットの実現に大きく貢献しました。

また、当社の新規事業の一つである「dotD CFP Calculator」は、経済産業省が取り組む「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)」の一つ「低炭素投資促進機構(GIO)」の補助事業としても採択されています。日本のカーボンニュートラルを強力に推し進めていると自負しています。

――「dotHatch」のローンチ以前から御社が大手民間企業と共同で進めてきたさまざまな事業も、ここ1~2年で急速に広がっているそうですね。

「dotHatch」のベースとなっているトヨタグループの大手自動車部品メーカーである株式会社東海理化様と一緒に始めた、自動車の鍵をデジタル化したカーシェアリングのプラットフォームは、現在、リース会社をも巻き込んだ新たな事業へと発展しています。カーシェアリング事業の拡張はもちろん、脱炭素社会の実現に寄与する新たなサービスとしても、大きな期待が寄せられています。

さらに、今年中には大手通信事業者様との新規プラットフォームも立ち上げる予定です。新たなマーケットプレイスを世の中に生み出すことで、人々のより快適で便利な世の中に貢献していきたいと考えています。

多くの失敗を重ねながら、ワクワクする未来を創っていく

――5周年を迎え、今後の展望や目標を教えてください。

「dotHatch」自体はまだローンチしたばかりですが、東海理化様との共同事業のように、これまで当社が関わってきた事業にはすべて「dotHatch」の原型がベースにあります。こうした事業も含めると、かなりのノウハウが蓄積されていますので、これらのデータを活用することで、さらに各企業や事業に適した失敗率の少ない事業立ち上げができるのではないかと考えています。

さらに、この先は企業へのカーボンニュートラルがより強く求められるようになることが予想されます。具体的には、下町の小さなネジ工場にまで、自社のCFP(カーボンフットプリント)の表示が求められる時代が来るかもしれません。そうなる前に、例えば年商100億円以下の会社には当社の「dotHatch」を無償で提供するなど、当社ならではの社会課題解決策を模索しているところです。

また、デジタル庁や経済産業省など国の中枢省庁支援と並行して、日本の産業を下支えしている中小企業のデジタル支援に注力することで、日本のデジタル事業全体の推進にも寄与できればと考えています。

社会全体に「挑戦」の可能性を広げ、人々が「後悔」しない未来を創っていく。これはまさに、当社のミッション・ビジョンの実現に他なりません。この先もより多くの失敗を重ねながら、国や他企業様と共に、ワクワクする未来を一緒に創っていけたらと思っています。