ライフスタイルに合わせ
家庭でエネルギーをつくる

──私たちの活動を支えるエネルギーの供給の構造が大きく変化して、まだ半世紀ほどしか経っていないのですね。

河口 そうなんです。わずか50年ほど前までの私たちは、自分に必要なエネルギーは、できる限り自分の身の回りにある資源からつくり出そうとしていました。今でも地方に行くと、お風呂を薪で焚いている家があります。それは自然が豊かな生活だからできることで、都会では無理だと思われるかもしれませんが、現在は太陽光発電システムや住宅用蓄電池など、技術の力によって自宅でエネルギーをつくり、それを活用することができるわけです。

「再生可能エネルギーを1次産業と考える」というのは、もちろん昔の生活に戻ろうという意味ではありません。そうした新たな視点のなかに、これからのエネルギーとの付き合い方のヒントがあるのではないか、という考えを提示しているのです。

──そうした発想の転換に関連して、「家庭菜園の感覚でつくるエネルギー」というお話もされています。

河口 野菜は農家がつくったものを買ってきて食べる。そう決めつけるのではなく、ものによっては自分の手で育てようと、家庭菜園に取り組む人が増えています。もちろん、それだけで必要な野菜をすべてまかなうのは難しいでしょうが、たとえ一部でも、自分で食べる野菜を自分でつくるというのは楽しいでしょう。

エネルギーも同じです。それぞれのライフスタイルに合わせて、家庭で楽しみながらできる範囲でエネルギーをつくっていけば、これまで社会的には非常に小さかった家庭による発電のシェアも少しずつふくらむはずです。

また、私たちの生活に必要なのは実は電気そのものではなく、熱源や動力源であることを考えれば、電気の代わりに直接太陽熱でお湯を沸かすといった発想も必要でしょう。

エネルギーの問題を
他人事にしてはいけない

──ご自身は、何かエネルギーについて取り組んでいることはありますか。

河口 私の実家では、2000年頃から太陽光発電システムと太陽熱温水器を取り付けています。当時はまだ少数派でしたが、取り付けてみるとその効果は一目瞭然。「今、これだけ発電しているんだ」とか、「冷蔵庫しか動いていないから、かなり売電できている」ということに関心ももつようになります。

エネルギーについての議論を始めると、オール・オア・ナッシングの話になりがちですが、各家庭、個人ができることを無理のない範囲で行うことが大事です。1番問題なのは、他人事、他人任せにしてしまうことでしょう。

──自分の家でエネルギーをつくり出すことの楽しさを実感すれば、自然と日々の行動も変わってきますね。

河口 やはり自宅でつくったエネルギーは大切にするので、「無駄遣いはもったいない」という気持ちもいっそう強まるでしょう。持続可能な社会の構築にあたって、家庭部門は重要な位置を占めます。企業人も家に帰れば家庭人なわけですから、家庭が変わることは産業界が変わることにもつながります。

私たち1人ひとりがエネルギーについての意識を変えていけば、社会の新しい未来を開くこともできるでしょう。先ほどもご説明したように、高度成長期からのわずか50年で、エネルギーのあり方は大きく変化しました。だとすれば、これからの努力しだいで、再びエネルギーのあり方を変えることも可能なはずなのです。「現状」という固定観念に縛られることなく、しっかりと自分の意志をもち、最適なエネルギーとの付き合い方を考えてみてはいかがでしょう。