暑さに負けて生活のリズムを乱し、体調を崩してしまった──。この時期、そんなビジネスパーソンも多いことだろう。「胃腸の健康が、仕事や生活を充実させるカギを握っています」というのは、松生クリニックの松生恒夫院長。「胃腸のエキスパート」に、その真意を聞いた。

トラブルが増加中!
いまどきの胃腸事情

──医院を訪れる方々は、どのような胃腸の悩みを抱えているのでしょうか。
松生恒夫●まついけ・つねお
松生クリニック院長 医学博士1955年生まれ。80年東京慈恵会医科大学卒業。同大学第三病院内科助手、松島病院大腸肛門病センター診療部長を経て、2004年に東京都立川市に松生クリニックを開業。これまでに4万件以上の大腸内視鏡検査を施行。

冷たいモノの摂り過ぎといった暴飲暴食などを要因に、胃の不調を訴える方が増えるのは9月に入ってから。大量に汗をかいて水分不足になることから、実は夏場は真冬と並んで「便秘」で悩む方が多い季節なのです。私の医院で開設している「便秘外来」に来院されるのは女性の方が多いものの、近年はIT関連をはじめ「座りっぱなしの仕事」をしている働き盛りの男性も目立つようになってきました。しかも、症状がかなり悪化してからというのが特徴です。

国内でもますます増加傾向にある大腸がんについては、女性のがん死の1位、男性の3位。30代女性と40代男性の発症が増えています。また、原因不明の潰瘍性大腸炎にかかっている人も全国で約11万人にのぼり、こちらも増加傾向。ビジネスパーソンの胃腸に関する悩みは、かなり深刻な状況といえるでしょう。

そもそも「腸」とは小腸と大腸からなり、小腸は主に消化・吸収、大腸は水分の吸収の一部と排泄の役割があります。あまり知られていないことですが、腸には人体の約6割もの免疫機能が集中しており、脳からの命令を受けなくても自身の判断で動くことができます。また、神経細胞の多さは臓器の中でも脳に次いで第2位。そのため「腸は第2の脳」とも呼ばれています。だからこそ、意識的な「腸マネジメント」が重要なのです。

「地中海型和食生活」
という選択肢

──予防や改善のためには、どんなことから始めればよいのでしょうか。

病気の発症原因には「環境因子」と「素質因子」の2つの要素があります。健康維持で大切なのは、まず環境因子である「食習慣」の見直し。特に1970年以降の大腸がんの増加は、肉や乳製品を多く摂るようになった「食生活の変化」が原因の1つといわれています。これは、古くから日本人が採り入れてきた食物繊維や植物性乳酸菌等の減少も意味しています。

味噌や醤油、漬物などに含まれる植物性乳酸菌は「生きて」小腸に届き、免疫機能を高め、大腸内で善玉菌の割合を増加させることで腸内をきれいにしてくれます。日本人の伝統食は、科学的にも健康の観点からも、非常に理にかなったものなのです。

そこで私がお勧めしているのは、「地中海型和食生活」です。これは伝統的な和食をベースにし、エキストラバージンオイルなど地中海式の優れた面を取り入れた食習慣。エキストラバージンオイルは、オレイン酸やポリフェノールなど4つの抗酸化物質を豊富に含み、大腸の腸管を刺激する排便促進効果があります。

この食生活では、穀物、果物、豆類、オリーブオイルなどを毎日摂取します。例えばオリーブオイルは、マーガリン代わりにパンに付けてもいいですし、納豆のタレと一緒に入れても味がマイルドになります。また、「もずく酢」に入れてもおいしいですから、ぜひお試しください。