コロナ禍を契機にテレワークなど多様な働き方が広がっている。首都圏から地方に本社を移転、あるいは地方で本社機能を拡充する複数拠点化の動きもある。企業誘致において積極的な施策を打ち出す福島県は、全国トップクラスの支援制度のメニューを整備。良好なアクセス、即戦力になる人材、手厚い支援制度の三位一体で幅広い業種の企業が地方移転できるようサポートしている。

アクセス・人材・支援制度でリードする福島県

コロナ禍の影響もあり企業の目はさまざまな地域に向けられるようになり、「本社機能」を置くエリアの選択肢は広がった。移転に伴うサポートの充実度、大都市圏との位置関係、立地後に見込まれる効果などを総合的に考えると、ビジネスを具体的にイメージしやすい候補地として「福島県」が浮かび上がる。

まず、優位性を発揮するのが「良好なアクセス」だ。福島県から首都圏までは200キロ圏内。東北新幹線を使えば、郡山~東京間は75分ほど。県内には、東北自動車道、常磐自動車道、磐越自動車道の3本の高速道路が走っており、2021年4月には、東日本大震災と原子力発電所事故からの復興を象徴するインフラの一つである東北中央自動車道(相馬~福島間)が全線開通。東北自動車道と常磐自動車道に接続されたことで輸送時間が短縮され、物流効率化による企業の販路拡大や事業開拓が期待されている。また、福島空港や小名浜港、相馬港からは国内外とのアクセスも可能となっており、陸路・空路・海路のいずれの交通基盤も充実している。

「即戦力となる人材」も魅力的だ。福島県は東北6県・北関東3県の中で最も多い6323名(2019年度学校基本調査)の工業科学生を擁していることに加え、県内各地の学校、機関で即戦力となる人材育成を行っている。輩出される人材は「真面目で粘り強い」と福島県に立地した企業から高い評価を受けている。

こうした環境や実績をけん引役に、ものづくりの領域にとどまらず多様な規模、業種の企業が、自社の重要な機能を福島県に移す流れが強まりつつある。2011年以降で828社が福島県に工場を新増設した(2022年12月時点)。福島県は特に「再生可能エネルギー・水素関連産業」「医療関連産業」「ロボット関連産業」「航空宇宙関連産業」等の成長産業を重点分野とし、新産業の創出に取り組んでいる。こうした移転を決断する後押しとなっているのは、同県が「全国トップクラスの手厚さ」と胸を張る優遇制度だ。

従業員の転居費用を1人当たり最大100万円補助

国や福島県は、企業立地補助金による企業の本社機能を移転・拡充する支援制度を整備している。国の「地方拠点強化税制」により、オフィス減税、雇用促進税制、地方税の課税免除または不均一課税など税制の優遇措置を受けることができる。

地方拠点強化税制は、令和4年度税制改正によって税制優遇の対象範囲の拡大や要件の緩和が行われ、従来よりも優遇のメリットが向上した。福島県では、この動きに対応するべく、地域再生計画「福島県地方活力向上地域特定業務施設整備促進プロジェクト」の計画期間を令和11年3月末まで延長。新たに整備された工業団地など産業集積を進めている地域を中心に指定地域を大幅に追加した。

これに加えて、「福島県本社機能移転促進事業費補助金」を独自に設けている。整備した「本社機能」で働くために、県外から福島県へ従業員が赴任する際に発生する「企業が負担する引っ越しの経費」に対して補助金が交付される。補助率は3分の2、従業員1人当たり最大で100万円が補助される。1社当たりの年間の補助限度額は500万円で人数制限などは設定されていない。

対象となる「本社機能」とは、調査・企画部門、情報処理部門、研究開発部門、国際事業部門、情報サービス事業部門、その他管理業務部門の「複数の事業所に対する業務または全社的な業務を行う事務所」「研究開発において重要な役割を担う研究所」「人材育成において重要な役割を担う研修所」を指す。事業者は、福島県に「地方活力向上地域等特定業務施設整備計画」を申請し、認定を受けておく必要がある。

では、「国の税制優遇制度+福島県の補助金」を活用したモデルケースを見てみよう。まず、本社機能移転は「移転型」と「拡充型」の2つに分類される。「移転型」は「東京23区に本社機能を置く企業」が福島県に本社機能を移転するケース、「拡充型」は「東京23区外に本社機能を置く企業」が福島県で本社機能を拡充するケースなどが該当する。例えば、新社屋の建設などに4億円の設備投資を行い、オフィス減税による税額控除(移転型は7%、拡充型は4%)を活用したとする。この場合の減税額は、移転型では2800万円、拡充型では1600万円となる。

さらに、新規雇用や転勤によって、整備した本社機能部門で働く雇用者が増加した場合、その増加数に応じて雇用促進税制による税額控除を受けられる。転勤に伴って従業員が福島県に赴任した場合は、1人当たり最大100万円、1社当たりでは最大500万円の引っ越し費用の補助金が交付される。

幅広い業種のさまざまな設備投資に対応

注目したいのは、この福島県独自の補助金制度は、幅広い業種のさまざまな形態の整備投資に対応している点だ。

・工場などの生産拠点の新設や増設に伴い、本社機能を有する事務所を整備する。
・オフィスビルの一室をレンタルし、本社機能を有する事務所を整備する。
・既存の事務所の執務室以外のスペース(会議室やショールームなど)にオフィス環境を整備し、本社機能を有する執務室に用途を変更する。

上記のいずれのケースでも本社機能移転に該当し、支援制度を活用できる可能性がある。なお、これから福島県に本社機能を移転する企業だけでなく、すでに進出している企業も制度を活用できる。

優れた交通アクセス、優れた人材、充実した支援制度と多くのポテンシャルを有する福島県。この地を基点とするビジネス推進は、企業にとって、SDGs(持続可能な開発目標)を意識した事業活動が求められる現在の潮流にも合致する。さらなる飛躍はもとより、従業員の働きがいやエンゲージメントの向上、地域への貢献、進むべき方向を示す多くのヒントが、福島県にはある。

※「地方拠点強化税制」の内容は令和4年度時点のものです。