現場での試行錯誤が、学生の思考力、行動力を鍛えていく

工学部、環境情報学部、スポーツ健康科学部の3学部8学科(※)を有する工科系総合大学の福井工業大学。2022年4月に「まちづくりデザインセンター」を開設し、持続可能な社会の構築に向けた取り組みを進めている。産官学連携の拠点ともなる同センターには、地元の企業、自治体などから多くの相談が寄せられているという。センター長の三寺潤教授に、設立の背景や狙い、今後のビジョンなどを聞いた。

※2023年4月より、工学部、環境学部、経営情報学部、スポーツ健康科学部の4学部8学科に再編。

多様な専門知を横断的に組み合わせることができる

「福井工業大学ではこれまで、限界集落の再生プロジェクトや産業振興・防災・環境保護に貢献する宇宙関連プロジェクトなど、地域と連携して多様な課題の解決に取り組んできました。その経験を生かしながら、『ヒト』づくりを通じた『モノ』や『コト』のデザインの創出によって、地域の発展、社会の未来に貢献したいと考えています」

三寺 潤(みてら・じゅん)
福井工業大学 学長補佐
環境情報学部デザイン学科 教授
まちづくりデザインセンター センター長
2006年福井大学大学院工学研究科システム設計工学博士課程修了。16年4月福井工業大学環境情報学部デザイン学科准教授。18年4月より同教授。公益社団法人日本都市計画学会などに所属。博士(工学)。

センター設立の狙いについて、三寺教授はこう語る。ここでいう「デザイン」とは意匠や図案の制作のことだけを言っているのではない。

「デザインの使命は、創意工夫によって社会や人々のニーズに応えること。アートとは異なります。本学には県内唯一のデザイン学科があり、その他、建築、土木、環境、経営、情報などさまざまな研究領域のシーズが蓄積されています。それらを外部に対して可視化し、地域社会の課題とつないでいきたい。各分野の知見を横断的に組み合わせ、これまでにない価値を生み出せるのが私たちの強みだと思っています」

そうした実績の一つが、環境食品応用化学科の笠井利浩教授による「雨水利用」のプロジェクトだ。

「近年、豪雨による都市型洪水や災害時の水の確保が課題となっています。このプロジェクトでは、防災の観点からの雨水利用、環境教育プログラムの実践、またAIやIoT技術を用いたスマート雨水タンクの開発などを行っており、まさに多様な知見が生かされています」

コンパクトな大学ならではの一体感ある“文理融合”の取り組み、そして現場での活動をスピーディーに実践できる機動力が特徴だ。長崎県の離島では、学生が島で雨水による生活を送りながら、雨水活用システム設置や小中学生向け環境教育プログラムの実施サポートを担当。雨水から作った「あまみずドリンク」のパッケージやPR映像の制作にはデザイン学科の近藤晶准教授が共同研究者として加わっている。

「環境関連のフェアなどで取り組み内容を発表したり、『あまみずドリンク』を提供したりすると大きな反響があり、『学生が社会課題と向き合い、懸命に努力する姿に心を打たれた』『発信内容は必ず誰かに伝わる』などの感想が寄せられています」

持続可能な社会の構築に貢献する福井工業大学の取り組み
環境食品応用化学科の笠井研究室とデザイン学科の近藤研究室は環境省などが後援の「ロハスフェスタ」で国内初、雨水で作った「あまみずドリンク」を発売。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「STI for SDGs」アワード優秀賞受賞、国内唯一の完全雨水生活を営む島での「赤島活性化プロジェクト」で設置の給水システムを紹介。
建築土木工学科の吉村研究室は、鯖江商工会議所と協働して「鯖江市東陽中学校 さばポタ自転車遠足」の実施を支援。生徒が地域の魅力や特徴に気付き、SDGsへの関心を深めることに貢献した。
デザイン学科の三寺教授、村井陽平准教授、学生有志は、えちぜん鉄道三国駅前の大型マップを制作した。写真は、三寺教授と村井研究室の坂東凜汰朗さん。

失敗を経験することで学生は強くなる

その他にも、地域の課題と向き合った複数のプロジェクトがある。

「鯖江市では商工会議所との協働で、住民が市内を自転車で散歩(ポタリング)しながら地元の文化や歴史、交通環境などに関する気づきを共有する『さばポタdeさばれぽ』という活動を建築土木工学科の吉村朋矩准教授が実施しています。これは中学校の校外学習にも採用され、生徒が授業で学んだSDGsを自分事として捉える機会になっています」

また坂井市では、観光まちづくりを目的とした自治体、企業、地域住民の活動に参画。学生が4年にわたり代替わりしながら活動を引き継ぎ、現場に何度も足を運んで対話を重ね、駅前の広域案内看板や街頭サインのデザイン、ワークショップの運営補助を行ってきた。

「どんな取り組みでも、信頼を得るには先方の状況を踏まえ、ロジックをしっかり組み立てながら、共感できる表現でこちらの思いを伝えていく必要があります。また、現場からは『この要素も入れてほしい』『それはできない』といった厳しいフィードバックを受けることもある。学生はそうした実践の場で試行錯誤を重ねながら必死に考えます。ハードな経験ですが、その経験をすることで学生は強くなるのです」

主体的な思考力、行動力が鍛えられる他、学外で世代を超えたコミュニケーションを繰り返すことで発信力も向上するという。

まちづくりデザインセンターでは、引き続きさまざまなプロジェクトに取り組みながら、課題解決、人材育成の双方を進めていく考えだ。

「センターを開設して、多くの企業が『SDGs対応の必要性は感じてはいるが、何をしたらいいか分からない』と悩んでいることを実感しました。当センターとしては各専門分野の知見や技術を掛け合わせて具体的な提案を行うとともに、共同プロジェクトも立ち上げていきたい。また、地域のハブとして企業と自治体や企業同士をつなげる役割も果たしていけたらと考えています」と三寺教授は言う。

地域課題の解決、SDGsの達成には多様な主体の連携が欠かせない。福井工業大学を起点とした取り組みが社会にどんな価値をもたらすのか。これからも楽しみだ。