長引く新型コロナ禍により、住宅に対する志向も変化してきているという。ポストコロナ時代に向けての住まいづくりは、どのような点に着目すればよいのだろうか。住宅ジャーナリストの山本久美子さんに伺った。

駅近マンションから戸建てへコロナ禍で住宅志向が変化

新型コロナ禍は、住宅に対する消費者意識に、どのような影響を与えているのでしょう。リクルートが行っている調査など(※)から、それを読み解くことができます。

最も大きな変化は、通勤の便利さにあまりこだわらなくなってきていることです。コロナ禍以前は「駅近」物件を求める方が多く、それも駅から徒歩3分から5分のマンションを希望する傾向が強く表れていました。

山本久美子(やまもと・くみこ)
住宅ジャーナリスト
早稲田大学卒業。リクルートにて『週刊住宅情報』『都心に住む』などの副編集長を歴任。現在は、住宅メディアへの執筆やセミナーなどの講演にて活躍中。「SUUMOジャーナル」「All About(最新住宅キーワード ガイド)」などのサイトで連載記事を執筆。宅地建物取引士、マンション管理士、ファイナンシャルプランナーの資格を有す。

ところがコロナ禍以降は、駅から多少離れても、戸建てがいいという志向に変わってきました。リモートワークが普及し、出社が週に2~3日で済むのなら、通勤の利便性より広さが欲しい、気兼ねなく子供を外で遊ばせられる郊外でもいいということですね。

家に広さを求めるのは、仕事をする空間を確保する意図もありますが、自宅で過ごす時間が増えたことで、より快適でゆとりのある暮らしを志向するようになってきています。

住まいで重視する機能でも「換気」や「遮音性」「省エネ性」「通信環境」などが多く挙げられています。これも在宅時間が長くなったことで、重要度が再認識されたかたちです。

マンションと戸建て、どちらがいいかと尋ねると、もともと戸建て志向の方が多かったのですが、コロナ禍を経てマンションから戸建て住宅へシフトする傾向が一段と強まっています。

※『住宅購入・建築検討者』調査(2020年)、新築分譲マンション・一戸建て商品ニーズ調査(2021年)

家族の過ごし方を整理。間取りよりも「どう暮らすか」

一般に、部屋数や間取りから家づくりを考えるケースが多いようです。けれども、大切なのは、思う暮らしを実現できるかどうか。器から暮らしを描くのではなく、家族の暮らし方から器の在り方を考える方が、より理想に近づけます。

まず、普段家族の一人一人が1日をどのように過ごしているかを整理してみましょう。夫婦の在宅時間帯、あるいは在宅ワークの時間帯、家事に費やす時間、家族団らんの時間、子供に親が関わる時間など、さまざまな場面があります。それらを共有して、新しい家に何を望むかを話し合っていくようにするのがよいと思います。

例えば先に触れたリモートワークのスペースも、夫は個室を求める傾向が強いのですが、妻にとっては個室がよいとは限りません。仕事の合間に家事をこなし、子供にも目が届くようにしたいなら、リビング・ダイニングと一体のオープンなワークスペースの方が機能的です。あるいは、仕事だけではなく、家族が誰でも使えるワークスペースとした事例もあります。

最近ではウッドデッキやベランダなどを利用したアウトドアリビングやサンルーム、洗濯物の部屋干しスペースなどのニーズも高くなっています。「誰の空間か」より「何をする空間か」という発想の家づくりは、最近よく見られます。

関心度の高い省エネ性は設備よりも基本性能に着目を

家づくりでは「断熱性」や「遮音性」「耐震・耐火性」「換気」などの住宅性能にも、目が向けられるようになりました。住まいの快適さや安全性に、住宅の基本性能が深く関わるからです。

その基本性能の中でも関心が高いのが「省エネ性」です。地球温暖化対策として、国や自治体が住宅の省エネ化を推し進め、補助金制度を拡充していることが背景にあると思います。

国は、2030年度以降の新築住宅をZEH(Net Zero Energy House)水準の省エネ住宅にすること、同年度までに新築戸建住宅の6割に太陽光発電が設備されていることを目指すとしています。また東京都は、新築住宅への太陽光発電設備の義務化も検討しています。

ZEHは、発電や省エネ設備、高断熱などにより、使う電力より生み出すエネルギーの方が多いか同等の住宅をいいます。ZEH水準の推奨に伴い、住宅性能表示に従来の省エネ住宅基準(断熱等性能・等級4、一次エネルギー消費量・等級4)を上回り、ZEH水準に相当する上位の等級(断熱等性能・等級5、一次エネルギー消費量・等級6)が新設されています。

国は、太陽光発電の設備が効果的でない場合でも、住宅の基本構造で省エネ性を高めることを求めています。そうした施策により今後は、住宅の省エネ性能は上がっていくと考えられます。

太陽光発電設備や、夜間にその電力を使うための蓄電池や蓄電設備など、省エネ設備を装備していくと、場合によっては数百万円ものコストがかかることがあります。どこまでの省エネ性を求めて設備を装備するかは、予算との兼ね合いになりますが、省エネに対する考え方や建物そのものの基本的な省エネ性能は、できるだけ高くすることを考えた方がよいと思います。

リフォーム派? 住み替え派? ライフステージを考える

家づくりでは、将来のことも考えておかなければなりません。子供の誕生や入園・入学を機に住宅を取得する方が多いのですが、子供の成長段階、子供が独立した後、夫婦二人になったときに家をどうするかです。

最近は、リフォーム技術がかなり向上したので、最初に取得した家を、リフォームしながら長く住み続ける方が多く見られます。このようなリフォーム派の場合は、将来どのような家の造り替えを希望するのかを、あらかじめ想定しておくとリフォームしやすい家になります。

一方、30代の若い世代では、ライフステージの変化に合わせて家を住み替える、あるいはそのようにしたいと志向する方も増えています。もし、将来の住み替えも考慮して家を建てるならば、望ましいのは中古でも高く売れる家、すなわち資産価値の下がり幅が小さい家にすることです。

先の「省エネ性」で述べましたが、国が2030年度以降の新築住宅をZEH水準にするとしていますから、これに適合するレベルの家にしておくと、将来の住み替えの際に有利だと予想されます。

暮らし方に優先順位をつけてプロに相談。新たな発見も!

家族それぞれが快適に自分らしく暮らせる家。皆で話し合い、ある程度のイメージが出来上がったら、それをかたちにしていくのはプロの仕事です。

とはいえ、予算もありますから、何から何まで希望がかなえられるものでもありません。望む暮らし、そのために欲しい空間や機能に優先順位をつけておくことも重要です。一番大切にしたいことは何かを考えておきましょう。

それから建築士やハウスメーカーの設計担当者などに相談することになりますが、家族が一番望む暮らし方、そして家族それぞれの「こうしたい」が明確な方が、家づくりのプロも提案しやすいものです。想像もしていなかった空間づくりや、設備の工夫などを提案してもらえることもよくあります。それも家づくりの大きな楽しみです。