機械化が進んでも人にしかできないことがある
今年のサントリーは例年に増してトピックが多く、にぎやかだ。春先の4月には「ザ・プレミアム・モルツの最高峰」と銘打った「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム〈無濾過〉」を新発売し、その2カ月後の6月には、マスターズドリームをシングルモルトウイスキー「白州」の木樽で熟成させた「マスターズドリーム〈白州原酒樽熟成〉」を発表。そしてこの11月末には、同じく木樽熟成シリーズの「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」の抽選販売がスタートする。
この山崎原酒樽熟成が初めて登場したのは2016年のこと。サントリーの醸造家の夢の具現であるマスターズドリームというビールがあり、世界に誇るシングルモルトウイスキーの山崎があるサントリーだからこそ到達した新地平だった。生産にかなり手間ひまを要することから本数限定での抽選販売という形式をとってきたが、2016年の登場以来、毎年大好評で直近2年の抽選倍率は10倍以上という人気ぶりだ。
「ありがたいことに、すごく期待してくださっているお客様が多くいらっしゃいます。その期待に応えるだけではなく、それを超えようという気持ちで今年の開発に当たりました」
そう話すのは、サントリー ビールカンパニー生産研究本部商品開発研究部の岡島高穂さん。2018年から山崎原酒樽熟成の開発を手がけ、この春、初登場した白州原酒樽熟成の開発も担当した若手の醸造家だ。
「白州原酒樽熟成の開発を経験して、ビールのおいしさというのは本当に幅広いものだとあらためて実感しました。同じ木樽熟成という製法なのですが、全く違ったおいしさを表現することができます。山崎原酒樽熟成の特長は、重厚な熟成香と満ちあふれる余韻です。今年の開発でもその味わいをしっかりとキープしながら、さらにおいしいものへとブラッシュアップするために、重厚さがありながらもさらに飲み進めたくなる味わいを目指しました。結果的に、しっかりとしたおいしさが感じられながらも、もう1杯飲みたくなるような味わいに仕上がったと思います」
さらに、今年2022年はわれわれ消費者にとって朗報がある。これまで2000本だった抽選販売本数が5000本へと格段に増えたことだ。
「木樽熟成というのは、熟成が短すぎても駄目ですし、逆に長すぎても思い通りの味になりません。そのタイミングの見極めはすべて私たち醸造家が行っています。今のビールづくりは機械化されている部分も多いのですが、特にこの山崎原酒樽熟成や白州原酒樽熟成は人間の感性でつくり上げている部分が多くあります。確かに大変な作業なのですが、それだけやりがいがありますし、手をかけるからこその面白みもあります。技術的な進化により味覚センサーなども開発されていますが、ビールづくりにおいて最も大切なのは人間の五感、官能評価だと思っています。それは、いくら技術が発達しても変わらない部分です」
挑戦の積み重ねが新しい地平を開く
山崎原酒樽熟成で目指した味わいをさらりと言ってのける岡島さんだが、よくよく聞くと「重厚な味わい」と「もう1杯飲み進めたくなる味わい」は相反する要素に思える。
「おっしゃるとおり、何かを立たせようとすると別のものが感じにくくなるという難しさがあります。理想とするのは、ビールの苦味や甘味、うまみ、そして香りも含めて、それらが折り重なって層のように感じられる味わい。飲み始めから飲み終わりまでそれらが流れるようにバランス良く感じられることで、ビールとしてのおいしさがもっと高まるはずだという考えです。それを実現するためには、原料の選定から仕込み、発酵、熟成まですべての工程でパーフェクトでなければなりません。その点ではマスターズドリームというベースのビールがなければ実現できない味わいだと思います」
マスターズドリームは、サントリーの醸造家が生産効率を抜きにして理想の味わいを追求して到達した、醸造家の夢のビールである。「多重奏で、濃密。」な味わいを特徴とするが、そこに至るには「生産効率を抜きにした」という表現にウソのないサントリーのものづくりの姿勢がある。
まず、原料となる麦芽には、ピルスナービールの本場チェコとその周辺国で収穫・製麦される伝統的品種「ダイヤモンド麦芽」を使用している。これは上質で深いコクを持つ希少な麦芽であるが、非常に硬い構造を持つためその魅力を引き出すのが難しい。そのコクを引き出すために採用されたのがもう一つの特徴、「トリプルデコクション製法」である。この製法は、仕込釜で麦汁を煮出すデコクションという工程を3度繰り返すもの。手間と時間を惜しまないこの製法により、ダイヤモンド麦芽特有のコクを最大限に引き出している。
そして最後の特徴が、銅製の仕込釜による「銅炊き仕込」。高い熱伝導率を持つ銅を使って麦汁を炊くことにより、厚みのある味わいや香ばしさを引き出している。銅釜による仕込みは今ではほとんど見られなくなったビールの伝統的な製法。それをサントリーの知見により革新させた「銅製循環型ケトル」を、マスターズドリームの開発のために導入したという。新設備の導入など、よほどの意気込みがなければできることではない。醸造家の、そして企業の本気が見えてくる。
ビールの世界にプレミアムビールという市場を切り開いたザ・プレミアム・モルツに始まり、醸造家の夢のビールであるマスターズドリーム、そして山崎原酒樽熟成や白州原酒樽熟成に至るまで、なぜサントリーはこれほどまでに新しいおいしさを創出できるのか。素朴な疑問に前出の岡島さんはこう答える。
「サントリーでビールに携わっている人間は皆、ビールが大好きなんですよね。ビールのおいしさや、ビールが持っている力を届けたいという気持ちが強いですし、それによってお客様の豊かな生活に貢献したいという思いがあります。だから、新しいおいしさに挑戦することも、会社からやらされているわけではなくて、自ら進んでやりたいという考え方になるのかなと思います」
無濾過ならではの新しいおいしさを提供
「好きが高じて」「好きこそものの上手なれ」などという言葉も浮かぶほど、ビールの新しいおいしさを追い求めることがライフワークのようになっているサントリーの醸造家たち。その一つの頂点的な存在が山崎原酒樽熟成だとすれば、もう一つの頂点といえるのがマスターズドリーム〈無濾過〉である。
「この無濾過という製法は、現代のような濾過設備ができる前に行われていた製法です。現在のビールづくりは最終工程で濾過を行うことがほとんどです。それにより清澄化され洗練された味わいに仕上がり、液色もきれいなビールになりますが、今回目指したのはやわらかな口当たりやうま味をしっかり残した味わい。そのために無濾過という製法に現代の技術を駆使して挑みました」
この無濾過という製法も一筋縄ではいかない。濾過をしないことに伴う味わいの変化を調整しながら、狙いの味わいを実現するための無濾過製法を編み出した。
「今年の4月に発売を開始して、お客様から多くの好評の声を頂きました。無濾過だからこそ出せた濃密な味わいや口当たりのやわらかさがきちんと伝わって、それもビールのおいしさだと感じていただけたのは率直にうれしいです。幅広いビールのおいしさをまた一つ伝えられたのかなと思います」
すでにある味わいに近づけるのは人間でなくてもできるかもしれないが、新しいおいしさを標榜してそれを評価するのは他ならぬ人間の五感である。「どれほど技術が進化しても最も大切なのは醸造家の官能評価」という岡島さんの言葉通り、ビールへの熱意高き人がいてこそマスターズドリームの進化があると言えそうだ。
応募期間:2022年10月4日(火)~2022年10月24日(月)
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