実は今、TikTokが災害や防災の情報を得られる新たな場として注目を集めている。その優位性はどこにあるのか──。TikTokでも配信を行う「ウェザーニュースLiVE」の気象キャスターである檜山沙耶氏とTikTokの今井佑氏が語り合った。

視聴者からのコメントも貴重な情報になる

【檜山】TikTokは私もユーザーの一人で、趣味の動画などを楽しんでいます。2020年10月からは「ウェザーニュースLiVE」の配信でもお世話になっています。

檜山沙耶(ひやま・さや)
ウェザーニュース 気象キャスター
大学卒業後に会計事務所を経て2018年にウェザーニューズ入社。現在、「ウェザーニュースLiVE」で気象キャスターとして出演。気象レポートを通して、視聴者の生活に役立つ情報を伝えている。

【今井】以前から地震などが発生した際、それとは無関係にバズっている動画のコメント欄で地震の情報交換を行うユーザーが見られました。そこに潜在的なニーズを感じたのが配信を始めたきっかけです。おかげさまで今は、最新の気象情報や災害情報を24時間365日伝えられる体制ができました。一人当たりの平均視聴時間も着実に伸び、情報交換の場としての認知も高まっています。

【檜山】新たな手段でこれまでアプローチできていなかった層に情報を届けられるのは私たちとしてもうれしいことです。そして、今年2月には地震速報通知との連携も始まりました。

【今井】はい。国内で震度5弱以上の地震が観測されるとTikTokユーザーに「ウェザーニュースLiVE」に遷移できるプッシュ通知を行うもので、地震による被害の軽減、迅速な情報伝達が目的です。

【檜山】災害時は情報が錯綜さくそうするため、正確な情報をいち早く入手することが大事ですよね。緊急時の冷静な対応や呼び掛けは、まさに被害軽減のため、私たちが心掛けていることです。

日本で震度5弱以上の地震が観測されると、国内のTikTokユーザーのスマートフォン上に、「ウェザーニュースLiVE」に遷移できるプッシュ通知が表示される。
プッシュ通知をタップすると、TikToK上で24時間365日配信を行う気象情報生放送番組「ウェザーニュースLiVE」に移動。より詳しい正確な情報を入手できる。
 

【今井】これまで地震の際、TikTok上での「ウェザーニュースLiVE」の平均視聴回数は一日約15万回でした。それが、通知システムの導入で今年3月の岩手県沖の地震では約36万回となり、非常に多くの人に情報を届けられました。

【檜山】プッシュ通知は効果的でしたね。「ウェザーニュースLiVE」の一つの特徴は双方向性で、現地の視聴者の方から寄せられる多数の状況の報告などは私たちにとっても貴重な情報です。「他の方のコメントで少し落ち着いた」といった反応もあり、キャスターとしては生の声を素早く精査して、拾い上げていくことも大切にしています。

【今井】そうしてもらえると、テレビなどがない環境でもすぐにリアルな情報を得られますね。TikTokでは2020年8月から国内外の大手メディアと連携してニュースを届ける「#TikTokでニュース」も開始しています。中には100万超のフォロワーを持つアカウントもあり、台風や津波、土砂災害の情報発信でも力を発揮しています。わずか4分でテレビ放送を加工した動画を配信している放送局もあります。

【檜山】動画ですから映像、音声、文字と情報の密度が高く、発信元の信頼性も高い。それを手元のスマホで、いつでも見られるのは便利ですね。

テレビ朝日のニュース情報サイト「テレ朝news」のTikTok公式アカウント。100万超のフォロワーを持ち、気象や災害の情報ほか、最新のニュース、話題の動画なども視聴できる。

気象庁の緊急記者会見もライブ配信で視聴可能

【今井】加えて、TikTokでは防災の観点から、被災自治体、各種メディア、気象・防災クリエイターなどによる啓発動画の配信も行っています。昨年、今年の3月11日には「#防災いまできること」としてメディア横断の情報発信を実施し、例えば福島県の浪江町にもご協力いただきました。

今井 佑(いまい・ゆう)
TikTok
Global Business Development
Head of News Content
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、NTTドコモ入社。その後、東京大学大学院学際情報学府、日本経済新聞社、スマートニュースを経て、2019年より現職。TikTokにおけるニュース配信事業を立ち上げる。

【檜山】災害時に適切な行動を取るには、平時から具体的な情報に触れておくことが重要ですよね。私も防災士の資格を取り、自身の「食料のローリングストック」の話などをして、視聴者の方が“自分ごと”として意識するきっかけをつくれればと思っています。

【今井】大事なことだと思います。関心の薄い層に情報を届ける上で、TikTok独自のレコメンドシステムも有効だと考えています。これはフォロワーがゼロでも投稿した動画が一定数のユーザーに表示され、反応が良ければより多くの人に届けられる仕組みです。

【檜山】ウェザーニュースでも防災情報の発信に注力していますが、若い人の興味を引くのはなかなか難しいです。そうした仕組みで命や財産を守るための情報を伝えられるのは有意義ですね。

【今井】後はコミュニケーションの方法を工夫して、興味を持ってもらうことですね。かつて「TikTokバズり予報」というウェザーニュースさんとの連携企画で、気象の指数に合わせた生活に役立つ情報を動画で紹介していました。その他、「#tiktok教室」などの形で多数の学びのコンテンツも掲載しています。

【檜山】TikTokの動画というと、若い子がダンスをしているイメージがある方もいると思いますが、今はニュースや教育系をはじめビジネスパーソンがちょっとした時間に視聴して、情報の入り口として使える多彩な情報がありますね。

【今井】そこで重要なのはコンテンツの力、そして信頼感です。私たちは、大規模災害発生時の気象庁の緊急記者会見を「TikTok LIVE」にて同時配信する取り組みも行っています。また、省庁やNPOと連携した自殺防止の施策やいじめ問題に関するイベントなど、さまざまな形で役に立つ情報の提供に努めています。

【檜山】私も日頃、正確性をもって楽しめる配信をお届けしながら視聴者の方とつながり、いざというときに「この人の言うことなら」と思っていただけるよう心掛けていますので、信頼関係の大切さはとてもよく分かります。

【今井】自然災害が多い日本では防災は重要な社会課題であり、政策課題です。今後も省庁や自治体、そして各種メディアやNPOとも協力し、「災害や防災の情報ならTikTok」と言われるようにしたいです。ウェザーニュースさんとも、地震だけでなく、津波や噴火のときもすぐつながるようにしていきたいと考えていますので、今後ともよろしくお願いします。