爽やかさとしっかりとした余韻を両立
サントリーの「白州」といえば、世界的にその名を知られた国産シングルモルトウイスキーである。その白州の原酒樽で熟成させることでつくりあげたマスターズドリーム〈白州原酒樽熟成〉が、この5月に登場。5000本限定で抽選販売が行われる(申込方法は記事最下段を参照)。サントリーは2016年から、シングルモルトウイスキー「山崎」の原酒樽で熟成させたマスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉を数量限定で提供・販売しているが、白州原酒樽熟成はそれに続く挑戦だった。
「山崎原酒樽熟成で目指したのは、重厚な熟成香と圧倒的な余韻。一口で心地よい充実感を得られるような厚みのある味わいです。一方、今年の白州原酒樽熟成で目指したのは、驚くほど爽快な飲み口。「爽やかな熟成香と爽快な余韻」の実現を目指してスタートしました。
味わいのコンセプトをそう振り返るのは、サントリービール商品開発研究部の岡島高穂さん。2018年、入社4年目にして山崎原酒樽熟成の開発担当へと抜てきされ、その経験を基に白州原酒樽熟成の開発チームに中心メンバーとして参画。ビールへの熱意あふれる若手醸造家だ。
「もともとビールの余韻を最大限生かしたいという考えから木樽熟成にたどり着いたのですが、木樽は一つ一つ個性が異なり、また熟成中は日々品質が変わっていくため、どのタイミングで熟成を止めるかという判断がとても難しいんです。加えて白州原酒樽熟成の場合は、しっかりとした余韻と爽快感という、ある意味対極に位置する味わいをいかにしてうまく両立させるかという部分に苦心しました。最終的に目指す味わいを思い描いた上で、ベースとなるビールの味わいを微調整したり、熟成工程を試行錯誤したりしながら、理想に近づけていきました」
木樽熟成というのは、現在のようにビールづくりの大半が自動化・機械化される前から行われていた製法である。温故知新と言うべきか、マスターズドリームの醸造家たちがさらに心が震えるようなビールを目指してたどり着いたのが旧来の製法というのも興味深い。
素材、製法、設備のあらゆる面でやり抜いた
この木樽熟成はまた、バランスのとれた味わいに仕上げるのが難しいという。単にビールをウイスキーの原酒樽で寝かせれば良いというわけではない。前出の岡島さんはその理由をこう話す。
「木樽熟成によってビールの余韻が強まるとお伝えしましたが、ベースとなるビールの味わいが弱いとその余韻に負けてしまうんです。最終的にバランスの取れたおいしいものに仕上げるには、ビールの味わいもしっかりしていなければなりません。木樽熟成とビールの良さを高いレベルで融合させるというか。その意味では、“多重奏で、濃密。”な味わいのマスターズドリームがあったからつくれたのが木樽熟成だと言えますね」
木樽熟成のベースとなったマスターズドリームとは、サントリーの醸造家たちが本気でうまいと思う味わいを追い求めて到達した、まさに醸造家たちの夢のビールと言えるもの。その味わいを決定づけた要素が大きく3つある。
まずは、ピルスナービールの本場チェコで伝統的に用いられている「ダイヤモンド麦芽」を使用していることだ。これは上質で深いコクを持つ希少な麦芽であるが、非常に硬い構造を持つためその魅力を引き出すのが難しい。それを実現するために採用されたのが2つ目の特徴、「トリプルデコクション製法」である。この製法は、仕込釜で麦汁を煮出すデコクションという工程を3度繰り返すもの。手間と時間を惜しまないこの製法により、ダイヤモンド麦芽の魅力を最大限に引き出している。
そして最後が、高い熱伝導率を有する銅を使って麦汁を炊く「銅炊き仕込」である。厚みのある味わいや香ばしさを引き出すために、サントリーの醸造家たちは銅釜で仕込む伝統的な製法に着目。それを現代的に刷新した「銅製循環型ケトル」を導入したという。それから醸造の試行錯誤を重ねた末、マスターズドリームは2015年にデビューを果たした。
「マスターズドリームの開発では、サントリーの醸造家がおいしさのためにとことんこだわるという姿勢を大事にしていました。後年、私がマスターズドリームの醸造を担当するようになった時にそのこだわりを強く感じ、私たちも同じように一切の妥協をせずにビールづくりを行っています。どんなビールでもそのスタンスは変わりませんが、それを徹底的に貫いたものがマスターズドリームだと思いますね」
醸造家たちが本気でうまいと思う味わいのために、素材にこだわり抜き、必要な設備を導入し、そして製造面でも手間暇を惜しまない。特筆すべきは、企業と社員が一体となり、生産性を度外視して理想を追求したものづくりである。
現代のビジネスではもちろんマーケティングを無視できないし、ユーザーの声を傾聴することも必要だが、ものづくりの原点へとたどれば、そこにはつくり手が本気でいいと思うものをつくるという想いがあるはずだ。それはどんなジャンルの製品であろうと、どんな規模の企業であろうと、そして今昔の時代を問わず変わらない普遍の真理である。マスターズドリームはその製造法だけでなく、そうしたものづくりの根源的な部分での“温故知新”も示唆しているようである。
狙いの味わいに必要なうまみだけを残す
マスターズドリームはまた、ものづくりの好循環を生んだ。一つの夢を実現した醸造家たちは止まることなく次の挑戦へと突き進む。その一つの成果が冒頭の木樽熟成であり、さらにもう一つが今年4月に発売された「無濾過」製法で仕上げたマスターズドリームである。
「現在のほとんどのビールづくりは最終工程で濾過を行います。それにより清澄化され洗練された味わいに仕上がります。ただ今回は、やわらかな口当たりやうまみをしっかりと残したいという味のイメージがあり、その実現のために無濾過に挑戦することになりました。この無濾過製法も、現代のような濾過設備ができる前に行われていた昔の製法です。醸造や設備に関して開発部署と生産工場とで議論しながら進めていきました」
この無濾過という製法も一筋縄ではいかない。濾過をしないことに伴う味わいの変化を調整するために、例えば口当たりのやわらかさに対してホップの配合や投入タイミングなど、醸造工程全体で試行錯誤を重ねることで、マスターズドリームの無濾過の味わいを実現した。そしてこの無濾過も、マスターズドリームという“財産”があればこそ挑戦できるビールだった。
「マスターズドリームが大事にしているのは、苦味、コク、甘味、香りなどが織り成す多重奏で濃密な味わいです。それを無濾過で仕上げたことで、よりやわらかい口当たり、より充実感が得られる上質な味わいになったと思います。そもそもビールというのは、日々の生活に豊かさを与えられるものだと思っていて。ビールを飲んでいて笑顔じゃない人っていませんよね。日常のちょっとした贅沢だったり、一日の終わりの自分へのご褒美のような感覚で飲んでいただけたら本望ですね」
醸造家の夢の具現であるマスターズドリームと、伝統的製法を現代の技術でブラッシュアップした無濾過製法。そのシナジーがどんな味わいを生み出すのかはぜひその鼻口で確かめてみてほしいが、一つだけ言えるのは、これほどまでにつくり手の熱量を感じる製品はそう多くないということだ。心を充足するような満足感だけでなく、明日へのモチベーションを高めてくれそうなストーリーが、このビールにはある。
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