難関中学の入試問題で頻出される作家の一人としても知られる朝比奈あすかさん。2021年に上梓した『翼の翼』(光文社)では、ひとり息子の中学受験に熱中する母親を描き、話題となった。発売中の『プレジデントファミリー2022〈春号〉』では、朝比奈さんが自身の子育てについて語るインタビューを掲載。こちらでは、小説執筆の裏話について語ってもらった――。

中学受験に熱中するのは真面目なお母さん

——中学受験を経験した親、受験に関心がある人の間で『翼の翼』はとてもリアリティのある小説だと評判になっています。

朝比奈あすかさん
朝比奈あすかさん(撮影=干川 修)

【朝比奈あすかさん(以下、朝比奈)】周りの友人たちからも「読んだよ」という感想をもらっています。主人公である母親の円佳(まどか)は息子に塾で一番上のクラスに入るようプレッシャーを与え続けたり、息子がケアレスミスをするとなじったりするので、嫌悪感を抱かれるんじゃないかなという懸念もありました。

でも、感想を聞くと、「自分も円佳と同じことをするかもしれない」と共感してくださる声も多くて。もともと円佳は翼の安全のために会社を辞めたほど根が真面目で、翼が何よりも大事な存在だからこそ成功させたいと考え、中学受験にのめり込んでいきます。その姿を通して、中学受験は子どものためにするものなのに、なぜ時にそれが子どもの心を傷つけるものになってしまうのかということを描こうと思いました。

——現在、中学受験をさせようと考える親は増える一方のように見えますね。

【朝比奈】私が経験した6年前よりさらに低年齢化し、特に首都圏や都市部では就学前から塾に通わせる親御さんも多いと聞きます。少子化が進む一方で、教育関係の情報は溢れ、昔に比べさまざまな選択が可視化されていますね。高校受験は大変だとか、大学附属校の方がのびのびできるなどと聞けば、子どものことを思うからこそ「損をさせてはいけない」「人生の選択を見誤らないようにしよう」と焦ってしまうのでは。