会議やセミナー(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive tour)、国際会議や総会(Convention)、そして展示会やイベント(Exhibition/Event)。これらMICEの開催場所として、知る人ぞ知る見逃せないスポットがある。東京都内の多彩な「ユニークベニュー」だ。ユニークベニューとは、歴史的建造物や文化施設、公的空間といった特別感を演出できる場所のこと。今回、その活用を推進する東京観光財団コンベンション事業部次長兼誘致事業課長の藤村博信氏と、海外企業による日本への報奨旅行や会議を企画・手配する企業の代表であり、東京都MICE連携推進協議会ユニークベニュー部会の委員も務めるゲライント・ホルト氏にユニークベニューでビジネスイベントを行う意義や魅力について聞いた。

多様な“東京”のイメージに応える施設がそろっている

――東京のユニークベニューの現状から教えてください。

【藤村】東京観光財団では、東京という都市の魅力を体感できるユニークベニューとして、現在およそ70カ所を専用ウェブサイト「TOKYO Unique Venues」で紹介しています。伝統と革新が融合した街らしく、寺社仏閣や日本庭園、美術館、展望台など、さまざまな施設がそろっています。これまでにも多くの企業や公的機関によりレセプション、製品発表会、会議をはじめ、幅広いビジネスイベントに利用されています。

専用ウェブサイト「TOKYO Unique Venues」では、東京のユニークベニュー施設を一覧できる。これまでの活用事例なども掲載されている。

【ホルト】東京の特徴の一つは、その“懐の深さ”です。住んでいると気づきにくいのですが、例えばロンドンやパリなど海外の諸都市に比べても東京は都市圏が大きく、多様なエリアが存在している。歴史と斬新さを一所で感じることができます。それだけに外国人にとっての“東京”のイメージもさまざまで、最先端のテクノロジーを思い浮かべる人もいれば、歴史や文化に関心を持つ人もいます。そのいずれにも対応するバリエーション豊かなユニークベニューが整備されている都市は、世界でもまれだと言えるでしょう。

他では味わえない感動や喜びを提供できる

――企業などがユニークベニューを活用するメリットには、どんなものがありますか。

【藤村】東京や日本文化のイメージがあふれる空間・時間の中で、通常のMICE施設では味わえない感動や喜びを参加者に提供できるのが最大の利点です。主催者はユニークベニューを通して、自社のブランドメッセージやビジョンを発信していくことが可能になります。

藤村博信(ふじむら・ひろのぶ)
公益財団法人 東京観光財団 コンベンション事業部次長兼誘致事業課長

【ホルト】各会場の持つ個性や雰囲気を生かしながら、参加された方の“体験”の価値を立体的に高めていけるのが、ユニークベニューの強みです。以前、清澄庭園でフランス人のゲストに向け、句会のイベントを企画して好評をいただいたことがありました。もちろん、俳句自体は世界のどこでも楽しめるものですが、本場の日本で経験できればそこに一つ新たな価値が加わります。さらに、由緒ある庭園で、美しい光景を眺めながら句を詠んだとなれば、独自の価値が幾重にも掛け合わされ、忘れがたい体験になるでしょう。

ゲライント・ホルト
THE J TEAM株式会社 代表取締役
東京都MICE連携推進協議会 ユニークベニュー部会 委員

【藤村】空間の魅力によってイベントの価値が高まったわけですね。例えば華やかな朱の色合いが目を引く神田明神も、日本らしさが感じられる会場として海外の方から人気。境内も隣接のホールも使用でき、ケータリングもできるなど受け入れ体制も整っていて、主催者の方の評価も非常に高いユニークベニューです。

利用者の目線に立った充実のサポートも

――ユニークベニューの利用を考えているMICE主催者などに向けたイベントを実施していると伺いました。

【藤村】はい、ユニークベニュー活用のヒントを得ていただくことを目的に、歴史のある邸宅や博物館でパーティー、会議などを想定したショーケースイベントを行っています。具体的にどんな形で使えるかを実際に感じられるのが大きなポイントです。

【ホルト】ユニークベニューの選定では、場所としての魅力に加え、環境やキャパシティ、立地がイベントの目的に合っているか、来賓にどのようなサービスを提供できるかといった点も無視できませんので、それが事前に分かるような取り組みは大変ありがたいです。

【藤村】おかげさまで、ショーケースイベントに参加された方からは、施設の使い勝手や飲食の提供方法がよく分かり、おもてなしの参考にもなったという声をいただいています。一方、開催した施設の方からも、「訪れた方に喜んでいただけるポイントなどが分かった」「自分たちの新しい価値を発見できた」「高いPR効果が感じられる」といった意見をいただいています。今年度は、東京国際クルーズターミナルおよびスモールワールズでの開催も予定しています。

――主催者の方に向けたサポートにはどのようなものがありますか。

【藤村】東京観光財団では、ユニークベニューの利用を検討する企業などに向け、各種お問い合わせへの対応や、施設の紹介、イベントプランの提案、開催に至るまでの調整などを一貫して行う「ワンストップ総合支援窓口」を設けています。

【ホルト】私はMICEの企画・手配に向け、支援窓口を利用する立場でもあります。かつて、東京観光財団さんの協力を得て、日本を舞台にした当時話題の映画を思わせるアトラクションなどを用意した際には、海外の参加者の方に「滞在中一番の思い出になった」と喜んでいただきました。柔軟な対応には、毎回、助けられています。

【藤村】そう言っていただけるとうれしいですね。希望の会場や行いたい催しの内容が決まっているケースから、良い場所を探しているといったケースまで、ご相談くださる方の状況もさまざまです。最近はリアルとオンラインのハイブリッド開催などについても相談にも乗り、外部のサプライヤーの方との調整などもサポートしています。

思い描いていたイメージを超える体験を

――最後に、東京の「ユニークベニュー」に関心を持つ人へそれぞれから一言お願いします。

【ホルト】MICEの開催では、主催者の希望をどう形にしていくかが重要なポイント。その点、東京では、継続的な取り組みによってユニークベニューの拡充が進んでいます。私も今まで、いろいろな場所で、さまざまなイベントを開催してきましたが、思い描いたアイデアをより実現しやすい環境が着実に整備されていると感じます。

【藤村】大きな魅力を持ちながら、その存在が知られていないようなスポットを紹介していくのも私たちの役割です。今後もより多彩なニーズに応えられるよう、アンテナを高くして新しいスポットを開拓し、施設との連携もさらに強化して、支援体制を充実させていきたい。その結果、「非日常感を体験し、東京を満喫できた」「思い描いていた東京のイメージを超える体験ができた」と参加者の方に喜んでいただければと考えています。

【ホルト】SNSが普及した今の時代、人々は自分ならではの物語、つまり“ストーリー”を大切にするようになっています。ビジネスイベントにも、そうした心に響くストーリーや人に伝えたくなるような“WOW”(驚き)がますます求められるようになっていると感じます。特別な時間や空間は、その実現を後押しする確かな力を持っており、ユニークベニューの重要性は今後いっそう高まっていくに違いありません。

こんな施設も利用できる ―「東京ユニークベニュー」の例―

東京国際クルーズターミナル

延床面積約1万9000m2の4階建てで、ほとんどの什器が可動式のため、さまざまなイベントに対応。屋外デッキの利用も可能だ。

神田明神

江戸の香りを残す場所ならではのユニークなイベントを開催できる。境内には、木の温もりが感じられる神田明神文化交流館「EDOCCO」も用意されている。

スモールワールズ

世界最大級の屋内型ミニチュア・テーマパーク。精巧な技術と先端のテクノロジーが融合した動くミニチュアの世界が非日常感を演出する。

旧前田家本邸洋館

1920年代後半に加賀の大大名、前田利為が建設。かつて外交団や皇族を招いて晩餐会などが行われた歴史ある華族の邸宅は、レセプションやパーティーも開催可能。

AoyamaTreehouse

赤坂御用地を望む閑静な環境に立地する法人・個人向けの会員制施設。マインドフィットネスやチームビルディングに適したビジネスプログラムも提供されている。