2021年11月17日、『PRESIDENT』発のイベント「PRESIDENT祭2022 不確実な時代の企業変革とリーダーシップ」が都内会場(千代田区、イイノホール)とオンラインで開催された。
現在、新型コロナウイルスの突然のパンデミックが世界の不確実性をあらわにし、社会は大きな変革を迫られている。今年のPRESIDENT祭では、危機を乗り越えて企業経営を成功に導いた名経営者らが登壇。時代の変化を読み解き、組織を率いていくためのリーダシップの在り方を説いた。
昨年に引き続き、会場では座席数を減らしてソーシャルディスタンスを確保する一方で、オンライン配信も実施。貴重な機会を逃すまいと全国の企業経営者や幹部が参加し、不確実性が増す時代の中で困難を乗り越えたリーダーたちの言葉から、かじ取りのヒントを探った。
本記事では、熱気あふれる会場と講演の様子をお伝えする。
【基調講演】組織の力を引き出すリーダーシップ〜EQ、異見、感動〜
ソニーグループ シニアアドバイザー 平井 一夫氏 ✕ 早稲田大学大学院 経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール 教授 入山 章栄氏
基調講演では、巨額の赤字に陥っていたソニーを復活に導いた平井一夫氏が登壇。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授と対談し、巨大企業の再生にどのように向き合ったのかを語った。
平井氏は社長就任後から現場と対話を重ね、社員らの声を集めてきたと明かし、「トップの考えとは違う“異見”でも、正しい意見やアイデアであれば採用される――そう社員が信じ、忌憚なく発言できる環境をつくることが大事です」と強調。その上で「トップに必要なのはEQ(心の知能指数)だと確信しています。IQはチームの総合力で補える。リーダーの役割は現場と信頼関係を築き、会社のミッション・ビジョン・バリュー、あるいはパーパスを明確にし、社員らにその言葉が腹落ちするまで、とことん伝え続けることに他なりません」と力を込めた。入山教授は「今の日本企業に足りていないのは、まさにその部分です。リーダーが示すビジョンが曖昧だと、変革を始めても途中で息切れをしてしまうでしょう。社員やステークホルダーらがトップの言葉に腹落ちし、目線を一つにした組織は変化の激しい時代にも成長しています」と話した。
【講演①】夢みる力が『気』をつくる
九州旅客鉄道株式会社 代表取締役会長執行役員 唐池 恒二氏
トップの情熱を浸透させ、夢を実現していく――それを体現してきたのが、JR九州会長の唐池恒二氏だ。国鉄からの民営化直後は赤字経営だった同社だが、新規事業の開拓に成功し、九州新幹線の開業という夢を実現。さらに唐池氏は「次の夢が必要だ」と考え、社長就任直後に「世界一の豪華寝台列車を作る」としてクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」の構想を打ち出した。
課題は山積していたが、インダストリアルデザイナーの水戸岡鋭治氏による車両設計、陶芸家の十四代・酒井田柿右衛門氏の遺作をはじめとする超一流のインテリア、ベテランのクルーをそろえ、「世界一」にふさわしい寝台列車が実現した。唐池氏は「夢の持つ力が、社員や職人を動かしました。ななつ星には、関わった人々の『気』がこもっています。人を感動させ、事業を成功に導くには、この『気』が不可欠です」と語った。
【講演②】マーケティング経営と企業変革
ケイアンドカンパニー株式会社 代表取締役社長 高岡 浩三氏
続いて、マーケターの高岡浩三氏が登壇。大胆な経営戦略や人事によってネスレ日本に変革をもたらした高岡氏は「イノベーションを起こす上で最も難しいのは、顧客自身も認識できていない『新しい問題』を見つけ出すこと。
変化の本質を見極め、新たな問題を探り当てるのが、21世紀型マーケティングです」と述べ、実例としてネスレ日本の戦略を紹介した。高岡氏は「一杯のコーヒーを淹れる手間」が新たな問題になっていると想定し、自社のインスタントコーヒー専用のマシンを原価で販売する戦略を断行。その結果、マシンの拡大に伴い主力のインスタントコーヒーは50%の値上げに成功。会社の売り上げ、利益共に飛躍的に高まった。
「社長の仕事の99%は戦略立案です。マーケティング思考で経営戦略を描き、それを推進することが、リーダーの仕事に他なりません」と断言する。
【講演③】組織を変えるリーダーの頭と心の整え方
脳科学者・医学博士 認知科学者 中野 信子氏
人望が厚く未来を見通す能力に長けた「理想のリーダー」にどうすれば近づけるのか。脳科学者の中野信子氏は「リーダーは決して聖人君子ではありません」と述べ、組織をまとめるリーダーの“裏の条件”を示した。
中野氏は「人の脳は複雑な思考を嫌います。難しい課題について考えることをやめ、従いたがっているのです。だからこそ決断の重荷を代わりに引き受け、適切さはどうあれ、分かりやすい解決策を示す人が好ましく思われます」として、人格者であることはリーダーの条件ではないと説明。「誰かに従いたいという本能を自然に誘導し、会社の価値やチームの強さを分かりやすく短い言葉で語れる人間は優れたリーダーと評価されるでしょう」と話した。さらに、人間は相手の外見や性別によって振る舞いを変えることにも触れ、「どう見られるかを常に意識し、あたかも聖人君子のように振る舞えるかどうかも重要です」との考えを示した。
不確実性が増す社会において、企業の在り方や成長戦略は決して一様ではない。今回のPRESIDENT祭はさまざまな観点からリーダー論が語られる貴重な場となった。
協賛:日本たばこ産業、ボルテックス、Ridgelinez
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