経験がなく、リソースは限られ、時間的な余裕もない──。新規事業担当者の前に立ちはだかる壁は厚い。いつ、何をすれば乗り越えることができるのか。その水先案内人となってくれるのが「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」のアクセラレーターたちだ。SSAPのプログラム開発を担当する沼田洋平氏は「3カ月で成果を可視化し、最短距離での事業化を目指します」と言う。

ソニーが豊富なノウハウを活用して整備した自社内起業用の仕組みを、新規事業支援サービスとして社外にも展開しているのが「SSAP」である。2018年の社外向けサービス提供のスタート以降、加速度的に実績を伸ばし続けている。

「2021年8月末時点で社外へのサービス提供実績は18業種に対して120件以上。ソニーですからエレクトロニクス領域が対象だと思われがちですが、“あらゆる人に起業の機会を。”というスローガンの下、医療、食品、金融など、多様な業界の皆さまの新規事業をお手伝いしています」

SSAPでは毎月、定期的にサービス提供実績や支援メニューなどに関する説明会を開いている。沼田氏によると参加者の多くが、共通して次のような悩みを吐露するという。

「新規事業を立ち上げないといけないという焦りがあるものの、どうしたらいいのか分からない。この先もプロジェクトが存続できるのか危機感を募らせている。そんなお声をよくいただきます。そこで私たちは、まず3カ月で成果を可視化することをご提案しています。新規事業は担当者がどんなことをしているのか、社内からなかなか見えづらい領域だからです。例えば、新規事業立ち上げの準備に数年、サービスや製品をローンチして黒字化までにさらに数年。その間、肩身の狭い思いを強いられる方も少なくありません。事業計画を明確にまとめ上げたり、プロトタイプ開発を完了させたりと、短期間で目に見える成果を社内に示すことが大切です」

支援を担うアクセラレーターは企業内における新規事業開発を熟知しています
沼田洋平(ぬまた・ようへい)
ソニーグループ株式会社
Sony Startup Acceleration Program
アクセラレーター
ヤフー株式会社を経て、2016年にソニーグループ入社。SSAPでは事業展開のシナリオ構築から販路開拓までを手掛けた「MESHプロジェクト」をはじめ、豊富な新規事業開発の経験を有する。

同じ目線で寄り添いゴールまで伴走

なぜSSAPは強力なサポートが可能なのか。一つ目のポイントは「一気通貫で新規事業開発を支援できるサービスラインアップ」を持つことだ。

「まだアイデアすら定まっていない段階、走り始めたがサービス開発の部分で行き詰まっているなど、お客さまのスタートラインはさまざまです。SSAPは部分的な支援のみでなくアイデア創出から事業化まで、時間軸に沿って全てのフェーズに対応できる点が強み。これまでにソニーが経験してきた事業化のプロセスを徹底的に検証し、社外のお客さまにもお使いいただけるよう標準化しています」

二つ目は、その仕組みを動かすプロフェッショナル集団「アクセラレーター」の存在だ。ミッションは「ゴールに向かってしっかりとお客さまに伴走すること」だと沼田氏は強調する。

「どのような事業にしたいのですかと問うスタンスではなく、一緒に創っていきましょうという姿勢を大事にしています。そもそも新規事業の進め方が分からずに頼ってくださっているわけですから、分野別に支援を担当するアクセラレーターが中心となり、責任を持ってサポートするのは当然です。アクセラレーターはソニーの社員であり、ソニーは事業会社です。その事業会社で事業を創ってきたアクセラレーターは、大企業で新規事業を立ち上げることの難しさや、どこでつまずきやすいのか、どうすれば解決できるのかを熟知しています。お客さまと同じ目線で、悩みを共有しながら寄り添います」

三つ目は「事業化のプロセスを持続的な仕組みとして残す」。市場での展開は一つのゴールではあるが、単発で終わらせないことが「次」につながる。

「組織としてアイデアを吸い上げて評価できる体制、制度を構築できれば、支援なしでも新しい事業を生み出せるようになるはずです。仕組み化にたどり着いて初めて、本当に新規事業が成功したと言えるのではないでしょうか。SSAPは、そんな土台を築くためのお手伝いも得意としています」

成果が見え始めると社内の空気が変わる

「技術はあるがアイデアがない」状態から市場導入まで1年半で到達した京セラの子ども向け歯ブラシ「Possi」や、「製品を誰に向けて届けるか」といったビジネスモデル検討から事業化までを1年で実現したLIXILの電動オープナーシステム「DOAC」などの実績から、いかにスピーディーな支援が行われているかが分かるだろう。

「自社だけで取り組んでいたら、10倍以上の時間がかかっていたと思う。そんなことをおっしゃってくださるお客さまもいます。時間軸の短縮は企業にとって大きなメリットでしょう。新規事業の効果としてはもう一つ、成果が可視化され始めると、企業内の雰囲気がポジティブに変化していくことが挙げられると思います。特に大企業であるほど他の社員に刺激を与えたり、応援してくれる人が増えたりといった空気に転換していきやすい。これもソニーが何度も体現してきたことです」

沼田氏は言う。「最初に立てた仮説がユーザーのニーズと合致することはまれで、ピボットを繰り返し、支援の方針を転換することも多い。その時々の状況に応じて、アクセラレーターは3カ月後、6カ月後のカスタマーサクセスを第一に最善を尽くします。仮に思い描いた結果にならなかったとしても、事業開発に挑戦した経験からの学びは大きく、人材育成の面でも企業にとってかけがえのない財産になると、大企業のマネジメントの方々はよくおっしゃっています。私自身も新規事業において度々壁にぶち当たり、かけがえのない経験をしてきた一人。SSAPのプログラムは、われわれの経験とノウハウを体系化したものです。お困りごとを、ぜひお聞かせください」

ユーザーニーズを徹底検証、わずか1年で事業化

支援事例
株式会社LIXIL「DOAC」

LIXILの「DOAC(ドアック)」は、自宅の玄関ドアを取り替えることなく「自動ドア」に生まれ変わらせる電動オープナーシステム。製品のコンセプトは持っていたものの、ビジネスモデルについての検討が進んでいなかったことからSSAPに支援を依頼。2019年7月より、LIXILの新規事業担当者2名とSSAPを中心とする事業化プロジェクトがスタートした。「3カ月で可視化した成果」として事業計画を策定。アクセラレーターがビジネスモデルに対する考え方、計画のまとめ方などをトレーニングすると同時に、「机上の空論」を避けるためにエンドユーザーへのインタビューを実施。ニーズを徹底検証しつつ事業化を進め、2020年8月に「DOAC」の先行受注を開始。SSAPはウェブサイト、ムービーなど製品の特徴を打ち出すためのコミュニケーションデザインの支援を行った。

SSAPの各種説明会を開催中

●総合説明会
11月26日(金)15:00~16:30
●サービスメニュー説明会
11月29日(月)12:00~12:30