笠井浩司さん
地球環境問題への取り組みとして、国よりも早い2020年5月に2050年度CO2排出量「実質ゼロ」を掲げた東日本旅客鉄道。すでに「水素社会の実現」「省エネ」「創エネ」といった多様な領域で具体的な取り組みが進められており、およそ30年後の目標達成までのレールはしっかり敷いてあるようだ。

地球温暖化防止のために脱炭素社会へ。水素社会の実現に向けた取り組みと創エネを推進

──貴社の環境やサステナビリティに対する方針についてお聞かせください。

【笠井】JR東日本グループでは、2018年に策定したグループ経営ビジョン「変革2027」において「ESG経営の実践」を掲げ、当社グループが事業を通じて社会的な課題の解決や地域社会の発展に貢献することによって、当社グループの持続的な成長および「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成を目指しています。2020年には、それまでの「エコロジー推進委員会」を、社長を委員長とする「サステナビリティ戦略委員会」に改めて設置。地球環境問題等の社会課題の解決に向けた基本方針等を定め、ESG経営を推進しています。

笠井浩司さん
総合企画本部
経営企画部
次長
笠井浩司さん

Environment(環境)の重点課題「脱炭素社会の実現」「資源循環社会の実現」「生物多様性の保全」のうち、特に「脱炭素社会の実現」については、2020年5月に環境長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ2050」を策定。2050年度のCO2排出量「実質ゼロ」へ向け、「水素社会の実現」「省エネ・創エネの推進」「新技術の活用」等に取り組んでいます。

このうちCO2排出量ゼロを目指す上でキーとなる「水素社会の実現」に向けては、水素をエネルギー源とした燃料電池鉄道車両を開発しており、2022年より鶴見線、南武線および南武支線での実証試験を予定しています。また、東京駅丸の内南口~「WATERS takeshiba」を運行する燃料電池バス(無料)を導入したほか、高輪ゲートウェイ駅の隣接地に水素ステーションを開設。さらに福島県内の駅で使う電力の一部に水素を活用するための定置式燃料電池の設置と、同県内の事業用自動車の燃料電池自動車への切り替えを計画するなど、水素の需要拡大を促進する取り組みに力を入れています。

水素バス
水素バス(写真=JR東日本提供)

──「省エネ・創エネ」に関しても、取り組みを進めていると伺いました。

【笠井】当社は自営の発電所を保有しているため、エネルギーを「つくる」~「使う」までのすべてのフェーズをトータルで考えられる点に強みがあります。火力発電所と水力発電所があり、最近では、川崎火力発電所1号機の更新工事が完了しています。更新前に比べCO2排出係数が約40%改善しましたが、水素発電の導入も検討しています。また、駅の照明のLED化は2030年度までに全数(40万台以上)を実施し、駅の空調設備の高効率化も推進します。

再生可能エネルギーの利用によるCO2排出量削減を図っていきますが、自ら利用する分は自ら整備します。他社ですでに整備したものを利用することでは、国内の再生可能エネルギー総量自体は増えず、世の中のCO2排出量削減にはつながりません。ですから、自ら整備した上で利用していきます。JR東日本エネルギー開発(株)とともに、風力・太陽光などの再生可能エネルギーの発電所を2030年度までに70万kW整備し、当社の東北エリアの電力使用におけるCO2排出量ゼロ並びに当社全体のCO2排出量の2013年比50%削減を目指します。

ゼロカーボン・チャレンジ2050イメージ
2050年度の鉄道事業におけるCO2排出量「実質ゼロ」を目指す「ゼロカーボン・チャレンジ2050」(写真=JR東日本提供)
信濃川水力発電所(千手発電所)空撮
信濃川水力発電所(千手発電所)(写真=JR東日本提供)

自然と人類の共生のあり方を示した3作品が入選

──「環境フォト・コンテスト」の募集テーマは「自然との共生」。

【笠井】はるか遠い時代から自然と人類は共にあり、私たち人類は恩恵をこうむってきました。一方で、ときに自然は脅威となり、激しい一面を見せることもあります。あらためて「自然と共生する」とはどのようなことか、これからの最適なあり方とは何か。応募された方の写真に込めたメッセージが、多くの人の気づきや行動につながると考えて設定したテーマです。

2021年優秀賞受賞写真
2021年優秀賞「ここにもどってきてね!」小澤 宏さん
2021年佳作受賞写真
2021年佳作「秋を楽しむ」尾崎 進さん
2021年佳作受賞写真
2021年佳作「真冬の風と陽を浴びて」西山昌敏さん

2020年開催の「環境フォト・コンテスト2021」優秀賞は、青空の下、山から流れる澄んだ川で鮎の放流を楽しむご家族を写した作品です。鮎の放流は、命の尊さ、鮎を取り巻く自然の大切さ、人類と自然が関わることの重要性について学ぶことができます。画題の「ここにもどってきてね!」という子供の声が聞こえてきそうです。また、佳作の「秋を楽しむ」は、自然とともに生きる子供たちのこの場面をずっと見続けていたい。そんな思いを抱く作品です。同じく佳作の「真冬の風と陽を浴びて」は大根の白と海の青のコントラストが綺麗なだけでなく、人類が自然から多くの恩恵を受けていることに気づかされます。

──最後に貴社の今後の抱負と読者へのメッセージをお願いします。

【笠井】鉄道は、飛行機や自動車に比べると、エネルギー効率が高く、CO2排出量も相対的に少ない環境にやさしい乗り物です。ただ、昨今のコロナ禍による利用率の減少や、自動車の環境性能の向上など、鉄道を取り巻く環境は日々変化しています。将来にわたって環境優位性を保ち続けるために、今後もESG経営を推進し、脱炭素社会の実現に向けた取り組みをリードしていきます。