多くの方々の意識に呼びかける手段として期待
──第27回コンテスト(環境フォト・コンテスト2021)で初めて参加されました。
【田沼】旭硝子財団の活動の目的は「人類が真の豊かさを享受できる社会および文明の創造に貢献する」ことです。多くの方々の意識に呼びかけることができる手段、そう感じたことが「環境フォト・コンテスト」への参加を決めた大きな理由でした。応募者は「環境」を表現する題材を探し、自分なりの思いを持って一枚の写真として切り取る。発表された入賞作品に触れることで、他者の思いも感じ取る。こうして相互の理解を深めながら、身の回りにある自然環境のかけがえのなさ、美しさを再発見していただければと考えたのです。
募集テーマを決める際に、2019年のブループラネット賞受賞者である環境科学者・地理学者のエリック・ランバン教授による「美しい自然に接すると、私たちは家に帰ったような幸福感が得られます」という言葉が思い浮かびました。人間は植物、動物、水、土など多様な要素からなる生態系で暮らしています。自然との関わりの中で、みなさんが幸福感に満たされる瞬間を教えてください。募集テーマ「自然の中にある幸福」には、そんな思いを込めました。
──旭硝子財団賞の入賞作品「幸明の谷戸」がグランプリに選出されました。
【田沼】まず、全国から寄せられた多数の応募作品を見て、「自然の中にある幸福」というテーマの捉え方や撮影技法が本当にさまざまであることに感心させられました。「幸明の谷戸」は、身近な自然の一つである里山を舞台に何気ない一瞬が刻まれています。初冬の木漏れ日がつくる光芒は、紅葉や小道を散歩する犬を照らすスポットライトのよう。犬の毛並みからは日差しの温もりまでが感じられます。当財団のメッセージを表現した作品がグランプリを受賞できたことは喜ばしいと同時に、初めての参加だったのでとても驚きました。
優秀賞「友達」からは小動物と遊ぶお子さんのワクワク感、佳作の「春に触れて」からは満開の桜のピンクや菜の花の黄色など豊かな色彩に囲まれた女の子の弾む気持ち、佳作「達成感!開放感!至福の時!」からは、青空のもとの山頂で味わう達成感。各入賞作品から、自然の中のさまざまな「幸福」のあり方が伝わってきました。
研究助成や人材育成、顕彰活動を通じて持続可能な社会へ
──どのような社会の実現を目指していますか。
【田沼】当財団が目指す「人類が真の豊かさを享受できる社会および文明」は「持続可能な社会」であるとも言えます。その実現には、社会を支える技術や思想、人材が必要。そこで次の時代を切り拓く科学技術に関する研究などへの助成、優れた人材への奨学助成、地球環境問題の解決に貢献した個人や組織に対する顕彰などを行っています。
中心的な取り組みの一つが、1992年に創設した地球環境国際賞「ブループラネット賞」です。地球環境の保全・再生に向けた理念の構築、科学的理解の促進、対策などの活動に顕著な功績のあった個人や組織の業績を称え、広く発信しています。「持続可能な社会をつくるため、人類はどんな行動を起こすべきか」という問いに確かな展望を示したいとの思いから始まりました。
目標達成には世界の人々が環境問題への共通認識を持ち、協調関係を育むことが必要です。そこで毎年、環境問題に関わる世界の有識者を対象に、地球環境問題と人類の存続に関するアンケートを実施。回答者が抱く危機感を「環境危機時計®」という時計の針で表示する「環境危機時刻」を発表しています。また、子どもに向けてブループラネット賞受賞者の業績を紹介するコミックや、一般に向けて研究助成先などの最新情報を紹介するウェブマガジン「af Magazine」なども発行しています。
──今後の活動に対する思いをお聞かせください。
【田沼】環境問題を解決するには、この問題に関わる人々がそれぞれの立場から取り組みを進めていくことが大切です。すでに世界では多くの方が、それぞれの立場からこの問題と向き合い活動を続けています。当財団が個人や組織の活動の価値を広く伝えることで、より大きなムーブメントに発展していく後押しができればと考えています。
人々の環境問題への意識を高める活動にもいっそう力を注いでいきます。「環境フォト・コンテスト」も、そうした活動の一つ。さらに多くの方々の意識向上を促しながら、当財団の活動についても知っていただけると嬉しいですね。コロナ禍が落ち着いたら、学会や展示会といった場で受賞作品を展示し、私たちの活動に関心を持ってもらうきっかけとしても活用できたらと思っています。