ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(以下BAT)は、120年近い歴史を持つ世界の消費財ビジネスにおけるリーディングカンパニーだ。その日本法人であるブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンは、グループの企業戦略「A Better Tomorrow™(より良い明日)」を実現する一環として、健康リスク低減の可能性が期待できる製品の拡充を積極的に進めている。同社のジェームズ山中社長に、その具体的な取り組みやかける思いなどを聞いた。

ますます高まる健康への意識に応え、多様な選択肢を

――日本の消費者の特性から聞かせてください。

【山中】皆さん、健康に対する意識が高いことに加え、「周囲の人たちへの配慮も重視する」。そうした文化が深く根付いているように感じます。そのため、紙巻たばこから燃焼させずに電気で熱する加熱式たばこへの切り替えが世界のなかでも進んでいます。当社の加熱式たばこ「glo™」が日本法人全体の売り上げに占める割合はすでに約30%となっており、BATグループ内で最高。まさに、日本における消費者の特性と、「glo™」の“紙巻たばこのような煙が出ず、匂いが少なく、健康リスク低減の可能性が期待できる”という特徴の親和性がこうした結果を生んでいると考えています。

日本人は「自分への害」よりも、「周りの人への害」に配慮する人が多い

――企業戦略「A Better Tomorrow™」をどのような施策で実現していきますか。

【山中】お客様のニーズや嗜好は多様ですから、できるだけ多くの選択肢を用意して、好みに合った製品を選んでいただける環境をつくっていく。これは、変わることのない一つの前提です。そのなかで今後、私がとりわけ重要だと考えているのが、加熱式たばこへの移行を促進していくことです。健康への意識がますます高まり、社会的な要請も強まるなか、この取り組みは必要不可欠。現在の流れをさらに加速させたいと思っています。

ただそのためには、単に製品のラインアップを拡充するだけでは足りず、加熱式たばこの特徴やメリットを具体的に伝えていかなければなりません。消費者の皆さんとのより緊密なコミュニケーションが求められると考えています。

例えば、BATグループではさまざまな研究や調査に基づいて、加熱式たばこなどの非燃焼製品が健康リスク低減に資するものであると科学的エビデンスをもって提示できるよう準備を進めています。そうした取り組みも含めて、私たちの活動、製品をより多くの人に正しく知っていただくことが「A Better Tomorrow™」の実現を後押しします。そのための施策の一つとして、今年4月に設立したのが新組織「加熱式たばこ促進部門」です。

アジャイル方式の採用によって社員の視野が広がっている

ジェームズ 山中
ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン
代表執行役員 社長 兼 北アジア地域 エリアディレクター

1967年米国カリフォルニア州生まれ。ロンドン・ビジネス・スクール卒業。2003年ブリティッシュ・アメリカン・タバコのシニア戦略アナリストに就任。その後、ドイツ 戦略ヘッド、アジア太平洋地域 戦略・プログラムマネジャー、北ヨーロッパ地域 エリアディレクターなどを務め、2019年より現職。

――「加熱式たばこ促進部門」の特徴はどんなところにありますか。

【山中】デジタル社会のなかで、製品のマーケティングを進めるには、eコマースやオンライン広告、SNSを通じたアピールなどを強化していく必要があります。そこで何より求められるのが“スピード感”。店舗での販売の場合、販路や製品を変更するには計画から実行まで相応の時間がかかりますが、eコマースなら翌日からすぐ実行可能です。また、自分たちが取った施策が効果を上げたかどうかもすぐに判明します。

そうした環境では、マーケティング、IT、法務、販促クリエイティブなど、すべての関係者がコンタクトを取り合いながら、日々、適切な施策を打っていくことが欠かせません。そのため、「加熱式たばこ促進部門」は専門分野を横断した形で結成され、BATグループ全体で初めてアジャイル方式を採用しました。

ただ、アジャイル方式に関してはその本質が理解されないまま、言葉だけが一人歩きしている部分もあるため、運用には注意も必要だと考えています。この方式では、個々の裁量権を高め、それぞれが決断できる環境をつくることがまず重要。そうして状況の変化に素早く対応していくことで力を発揮します。さらに、各自が自分の仕事だけをこなせばいいという姿勢では成果を出すのは難しく、メンバー全員が目標を共有し、協働していくことが欠かせません。アジャイル方式は、従来の縦割り組織では難しかったことを実行する一つの手段と捉えています。

――「加熱式たばこ促進部門」設立の効果は出てきていますか。

【山中】ある企画を考え、実行し、市場のフィードバックを得て、それを新たな取り組みに生かしていく――。そのサイクルを回すスピードが、やはり以前より明らかに速まりました。必要な機能をこの部門に集めたことで、チーム一体となった臨機応変な対応が取れるようになった結果です。

実際、社員からも、部門の壁を超えて一つのチームとして活動することで、「全体像をしっかりと把握しながらプロジェクトを進められる」という声が多く聞かれます。メンバーが、例えばブランドマネジメント、eコマース設計といったそれぞれの担当業務の“全体のなかでの位置づけ”を理解し、目標の達成に向けて力を合わせていける。経営者として事業を展開するうえでも、社員個人のスキルアップ、キャリアアップを考えるうえでも、これはとてもうれしいことです。

健康リスク低減に関する科学的な研究にも注力

――健康リスク低減の可能性を秘めた製品の拡充に向けて、ほかにどんな取り組みを行っていますか。

【山中】たばこのより豊かな味わいを目指した研究、次世代製品の開発、新たな販売戦略の導入など、さまざまな取り組みを進めています。なかでも研究・開発においては、BATグループ全体で1500人以上の科学者・エンジニアを擁し、加熱式たばこ「glo™」、歯茎と頬の間に挟んで楽しむオーラルたばこ「VELO」、そのほか各種次世代たばこの開発を推進し、あわせて基礎研究、毒性調査、臨床試験も推進しています。

紙巻たばこからの切り替えが進む加熱式たばこ「glo™」。

そしてもちろん、健康リスク低減に関する科学的な研究にも力を注いでいます。この分野については単に社内での研究を進めていくだけでなく、外部機関による裏付けが大事になります。そこで第三者機関の検証や専門家による査読のある科学ジャーナルの認定を得ることも含め、外部評価を受けられるよう、企業努力を続けています。

――多様な取り組みをマネジメントするに当たって、経営トップとして大事にしていることを教えてください。

【山中】事業や市場の状況を的確に把握するのはもちろん、そうした情報をもとに「次に何が起こるか」を常に意識するようにしています。そのうえで、データが揃い切らない段階でも、必要であれば決断することを心掛けています。

そして、社員に対しては、適切な場所に適切な人材を配置できているか、それぞれが必要な情報やサポートを受け取り、安心して仕事に取り組めているか。そうした点に気を配っています。また、プロジェクトの結果が出たとき、「成果はチームのもの」であることも明確に伝えるようにしています。そうして築いた信頼関係が、社員一人一人のプロアクティブな行動の基盤になると思うからです。

――最後に、今後の抱負についてお聞かせください。

【山中】繰り返しになりますが、「A Better Tomorrow™」を実現するため、健康リスクに配慮した多くの選択肢を用意し、消費者にそのことを伝え、理解していただく努力を重ねていきます。あわせて、自然環境への負荷低減をはじめとするESG関連の取り組みを充実させていくことも今の時代の企業の使命だと認識しています。社会にポジティブなインパクトを与え、社員がいっそう誇りを感じられるような組織にしていきたいと考えています。