『PRESIDENT』編集長 八尾 研司
撮影=遠藤素子
『PRESIDENT』編集長 八尾 研司

――2021年7月から、『PRESIDENT』誌の編集長となりました。

『PRESIDENT』『プレジデントFamily』『PRESIDENT NEXT』などの編集部を経て、2018年に新しくできたブランド事業部という部署で、雑誌ブランド活用したセミナーやウェビナー、ロイヤリティビジネス、企業様と一緒につくらせていただく制作物などを担当していました。編集部にいたころの経験をもとに仕事をしていたのですが、雑誌編集に戻ることになるとは思っていませんでした。

――現在の『PRESIDENT』をどう見ていますか。

ありがたいことに、ビジネス界では『PRESIDENT』の認知度は高く、ブランドビジネスの現場では、ご提案の内容、担当者の力量を超えてご評価いただけます。そのブランド力はどこからくるのかといえば、1963年の創刊から積み重ねてきた実績にほかなりません。雑誌そのもののパワーはもちろんのこと、読者のパワー、クライアント様のパワーが大きいと思います。質の高いお客様に認められてきた、その積み重ねこそが今日のプレジデントブランドです。

出版不況のなか、ビジネス誌販売部数ナンバーワン(*)をキープできていますが、読者層は上の年代へと広がっています。私たちの編集部の課題は、質の高い読者をさらに増やしていけるか、そして、長く愛していただけるかどうか、ここに尽きます。

*日本ABC協会 印刷版販売部数(ビジネス・マネー誌カテゴリ)より

――質の高い読者、とは具体的にどのような方ですか。

『PRESIDENT』の企画は、「売れた特集」から考えるのではなく、「読者のニーズ」「読者の本音」から考えます。それを徹底するために、読者像を持たなければいけません。その点、私にはハッキリとした像があります。

ブランド事業部時代は、お客様にとても恵まれました。志高く、難しい事業に携わられ、それだけに悩みも人一倍多い30代から50代のリーダーとの出会いがたくさんありました。逃げずに高い壁と向き合うその姿こそ、私がイメージする理想の読者です。彼らの悩みは、きっと多くのリーダーの悩みでもある。ならば、彼らのために雑誌をつくったらいいじゃないか、もっと言えば、一緒につくれないか、という思いです。

――一緒につくる、とはどういうことですか。

読者のニーズを根っこからつかむには、ビジネスリーダーの悩みをどこまで深く知っているか、が勝負になります。「私たちのほうがあなたの悩みをわかっていますよ」くらいの状況でなくてはならない。編集者が足を使ってリサーチするだけでなく、今秋にも「PRESIDENTリーダー100人委員会」というグループを創設し、コミュニケーションを取っていく予定です。

グループのメンバーには、何に悩み、何に苦しんでいるのか、インタビューやアンケートをさせていただくほか、誌面に登場いただいたり、企画を一緒に考えてもらったりしながら、今日的なリーダーの課題を浮き彫りし、その解決法を誌面で提案していきます。誤解を恐れずに言えば、一緒に『PRESIDENT』をつくっていくイメージです。

――PRESIDENTの誌面は、どう変わっていきますか。

これまで以上に、企業人に登場いただくことになると思います。『PRESIDENT』の特色の1つに、「人を通じて描くこと」「人の心を描くこと」があります。最高益達成や商品の大ヒットをそのままニュースにするのではなく、その裏で誰が汗を流し、どんな苦労があったのか、乗り越えるために取ったリスクは何か、何を得て何を失ったのか、そもそもどんなモチベーションを持っていたのか、まで伝えたい。

「もっとうまく進めるには何を学ぶべきだったのか」「もっと味方を増やすには、どうすればよかったのか」などと次の企画に展開していくのが、私たちらしいやり方です。特別な方法ではなく、もともとの『PRESIDENT』のやり方です。「プレジデントウェイ」と呼べるものをあらためて築き、磨き上げていきます。

1号だけ飛びきり売れるものをつくることはできるかもしれませんが、イメージ通りの誌面をつくり、長く愛されるものにするのは難しいことです。時間のかかる仕事でしょう。まずは編集部の意思統一を図り、よいチームにし、精力的に動き、リーダーのためのパワフルな誌面をつくっていきたいと考えています。