日本を元気にしたいと、博報堂の企業成長をクリエイティブするユニット「TEKO」と「プレジデント」がパートナーシップを組んだ。2社が共同で企業のリアルな課題に向き合い、変革のスピードアップ、成長のジャンプアップをサポートする新プロジェクト『Accelerate NIPPON.(アクセラレート ニッポン)』。プロジェクトの責任者が変革を成功させる原動力は何かを語った。

厳しい環境を悲観せず、チャンスととらえる

【大澤】日本ではあらゆる業種がコモディティ化して、働き手が不足、消費人口も減っています。これまで企業はこうした日本の構造的問題の対応に苦慮してきましたが、そこに新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけています。ビジネスリーダーはこれまでのやり方では立ち行かないと感じていますが、どう変わればいいかわからず悩んでいるところでしょう。

【鈴木】グローバル化だとか少子高齢化だとか、コロナだとか、企業が直面する課題はいろいろありますが、考えようによっては、それはチャンスともいえます。

今年1月に私どもは名経営者から直接薫陶を受ける「PRESIDENT 経営者カレッジ」というプロジェクトを立ち上げたのですが、そのキックオフイベントでセブン‐イレブン創業者の鈴木敏文さんに登壇していただきました。会場に集まったのは中小企業の経営者です。

そこで、「コンビニマーケットは飽和状態と言われていますが、どのように思われますか?」と質問を受けた鈴木さんのお答えが忘れられません。

鈴木さんは「私には質問の意味がわかりません。飽和状態というのは売れないから言うのでしょうね。だったら売れるものを提供すればいいじゃないですか」とそれだけ(笑)。売れないのは社会や環境のせいじゃない、全部自分たちに原因がある、と言い訳をしない。すごいなと感心しました。

鈴木勝彦(すずき・かつひこ)
プレジデント社編集本部長兼ブランド事業本部長。
1991年プレジデント社入社。『プレジデント』編集部、2006年『プレジデント ファミリー』創刊編集長を経て、2012~2019年『プレジデント』編集長を務める。

中小企業が抱える共通の悩み

【大澤】日本はマクロに経済を追っていくと暗い話しかありませんからね。でも、どんなに困難な状況でも強さを発揮する企業と淘汰されてしまう企業がある。今、時代の転換期にあって、経営や事業を立て直し、逆風に立ち向かおうとする企業も増えています。そんな企業の後押しをしたいというのが今回の「Accelerate NIPPON.」というプロジェクトです。

【鈴木】日本は会社の数で言えば99.7%が中小企業で、大企業は1%にも満たない。従業員の数で言えばビジネスパーソンの7割が中小企業で働いています。「プレジデント」の読者も大企業で働く人ばかりでありません。

逆風に立ち向かおうとする中小企業では、大企業のように戦力がそろっていないことが障壁になるケースが多いですよね。技術力はあるのに営業機能が心もとないとか、新しい分野に出ていきたくても社内に知見がないとか、人材の問題が大きい。

【大澤】自社だけでは解決できない部門があるとか、社風が企業ではなく家業になってしまっているとか。企業が大きく成長するためには、その壁を乗り越えなくてはいけないのですが、そこが一番難しい。

【鈴木】中小企業の多くは一般的に営業力、発信力、交渉力が弱いと言われています。

【大澤】PRも難しいですよね。「広報の方いらっしゃいますか」とお尋ねすると、「広報? さて何のことでしょうか?」とご返事いただくこともあります。

企業の成長に使えるクリエイティブのアイデア

【鈴木】企業活動を世間に伝える役割を社内に持っていないところがほとんどでしょう。どんなに小さな企業にも必ずいいところがある。でも、自分たちがもつ強みが今の時代にどのように役立つのか、客観的に認識することは難しいものです。その点、「TEKO」のメンバーはスペシャリストですね。

TEKOが手掛けた「株式会社ポテトかいつか」のクリエイティブ。「ポテトかいつか」は1967年にさつまいも専門卸売業として茨城県に創業、現在はオリジナルブランド「紅天使」を原料にした商品を販売している。さつまいものおいしさを伝えようと「ほくほく山」ブランドを開発、展開している。

【大澤】商品のいいところを見つけて、その魅力を世の中の人たちに短いフレーズや簡潔な映像で伝え、それを買っていただけるように「人を動かす」のが僕らの仕事です。

実は企業の成長も、社員や、営業相手、投資家など、人が動くことによってはじめて達成するわけです。ならば、人を動かすのが本職である僕らのクリエイティブのスキルを活かして、企業の成長をお手伝いできるのではないか、と2017年に「TEKO」というユニットを立ち上げました。「企業の成長にクリエイティブのアイデアを使ってください」ということですね。

「TEKO」を始めてからは、それまでご縁のなかった中小規模の企業さんとの仕事が増えました。なかでも“全国企業化”を目指す中堅中小企業を私たちは「ネクストメジャー」と呼んでいまして、実に個性的で魅力的。大いなる可能性を秘めています。

そこで自分たちだけでやるよりも、人を動かすノウハウを持ったプレジデントさんと一緒にやったほうが、もっと効果的ではないかと思うようになりました。

大澤智規(おおさわ・とものり)
博報堂Growth Creative Studio「TEKO」エグゼクティブクリエイティブディレクター。
1996年博報堂入社。自動車・飲料・流通・保険などのプロモーションプラニングに従事。クリエイティブディレクターとして多数の企業のマーケティング、コミュニケーションを担当。2017年にTEKOを発足、リーダーとして企業成長に携わる。

客観的な第三者だからこそ見える長所

【鈴木】長年ビジネス雑誌を編集していますと、変革のヒントはどこか遠いところにあるのではなく、足元にあるんだとよく気づかされます。ただ、足元にあるがゆえに見えづらい。

『プレジデント』には大企業の成功ストーリーを描く「企業の活路」という不定期連載があって、もう20年も続いています。この数年で印象的なものをひとつ上げますと、3年前に東京海上ホールディングスを取り上げました。タイトルは「『何のために働くか』を幹部が学ぶ東北・被災地研修」。海外M&Aをどのように進めているかをルポしたもので、グループの幹部を世界中から東北被災地に呼び、大震災の経験を振り返って「保険とは何か」を突き詰め、研修によって共有しているというストーリーでした。東京海上は次の成長のために、自分たちの足元を見つめ直していたわけです。

規模の大小を問わず、それぞれの企業には独自のカルチャーがあり、風土があり、特徴がある。それを原動力にして企業の活路が開かれるのだと思っています。

企業の成功ストーリーを描く「企業の活路」は20年続く人気企画。

クリエイティブ×ドキュメンタリーの力

【大澤】他のビジネス誌に比べると『プレジデント』は、人間にフォーカスした記事づくりですよね。改革に取り組む企業の記事でも、結果の分析や数字よりも、改革を決断した企業の背景だとか、携わった人間の個性が伝わってくる。

【鈴木】古い話ですが、1977年に当時の社長・本多光夫が「人間は人間に一番興味がある」といって『プレジデント』をリニューアルして部数を躍進させた経緯があります。そのカルチャーが今でもわれわれの雑誌づくり、コンテンツづくりに生きています。

【大澤】やっぱり人間は人間に興味があり、それがドキュメンタリーの強さだと感じます。「Accelerate NIPPON.」では、ぜひそこを生かしていただきたいです。

『プレジデント』が取材するドキュメンタリーの世界と、われわれがつくるコピーや映像などクリエイティブの世界とでは、手法は全く違いますが、客観的な第三者の目線だからわかるというのは一緒ですね。

TEKOが手掛けた「ヒトトヒトホールディングス株式会社」のクリエィティブ。「ヒトトヒトホールディングス」は、ビル警備やイベント運営を行ってきた「ニッソーホールティングス」が2020年4月に社名変更。新社名は「人ができることは全てやる」という企業のDNAを言語化するところから生まれた。

変革に挑戦しようという中堅企業に対し、私たち「TEKO」は新しいビジネスやサービスの立案はもちろん、新体制の求心力づくり、社員を鼓舞するメッセージの発信、納得させるプレゼン術など、人を動かし、成長につながるクリエイティブなアイデアを提供します。

さらに「プレジデント」が「改革がなぜ必要だったのか?」「なぜその決断にいたったのか?」など、企業の背景やリーダーの心の葛藤をドキュメンタリーとして発信する。変革に込めた思いに「人」は共感します。多くの人と感情を共有することで、さらに変革のスピードを加速させ、成長をサポートしましょう。

【鈴木】意欲のある「ネクストメジャー」の成長を後押しすることで、日本経済の活性化のお手伝いができるとすれば、ビジネス誌の編集者冥利につきますね。

TEKOのクリエイティブとプレジデントのドキュメンタリーの力を企業変革の原動力に。

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