日本最大の石油・天然ガス開発企業としてグローバルに事業を展開する国際石油開発帝石(4月より新社名・INPEX)。世界で活発化する気候変動問題への対策強化、他方で高まるエネルギー需要。経営戦略の変革が求められる中、同社は今年1月に「今後の事業展開~2050ネットゼロカーボン社会に向けて~」を公表した。その柱として設定したのが「5つの事業分野」である。上田隆之社長の視線の先にはどんな未来があるのか──。

※ 2021年4月1日付で国際石油開発帝石株式会社から社名を変更

上田隆之(うえだ・たかゆき)
1980年東京大学法学部卒業、通商産業省(現経済産業省)入省。87年ワシントン州立大学法律学修士。資源エネルギー庁長官、経済産業審議官などを歴任し、2016年に退官。国際石油開発帝石非常勤特別参与、副社長を経て18年より現職。

石油や天然ガスの化石燃料は当分の間はなお重要なエネルギーとしてアジアを中心に使われていくことになりますが、一方で、これらの開発・生産などから生じるCO2(二酸化炭素)を削減し、エネルギー転換の時代における会社の未来をどう切り開いていくのか。こうした難題に答え、今後の当社の基本戦略を示したのが「今後の事業展開~2050ネットゼロカーボン社会に向けて~」です。

まず、パリ協定の枠組みに則した目標として、2050年に「CO2排出絶対量ネットゼロ」を目指すことにしました。その達成に向けた取り組みの柱である「水素事業の展開」「カーボンリサイクルの推進と新分野事業の開拓」「上流事業のCO2低減(CCUS推進)」「再生可能エネルギーの強化と重点化」「森林保全の推進」の5事業において、社会の期待に応える強力なソリューションを確立したいと考えています。

来る水素社会に向けて、天然ガス事業との親和性が高い水素事業を推進します。当社の天然ガスを水素とCO2に分離。この天然ガス由来の「ブルー水素」を使った発電事業や水素ステーションへの供給など、水素の製造から利用までの一気通貫プロジェクトを構想中です。すでに新潟県柏崎市で実証試験のための準備に着手しており、2022年のプラント工事着工を見込んでいます。

この事業で特徴的なのは、水素製造で発生するCO2を削減することでカーボンフリーな水素を製造する点です。CO2を「CCS(二酸化炭素回収・貯留技術)」や「CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留技術)」によって、当社の持つ減退油ガス田に圧入・貯留し、さらにはCO2による圧力で地中に残った石油や天然ガスを押し出して残存資源の有効利用につなげます。天然ガスを原料としたクリーンなブルー水素は当社の天然ガスの開発・生産事業のいわば進化系ともいえるもので、当社が上流事業で培ってきた技術、保有する生産インフラを最大限に活用できるので競争力のある事業となるものと考えています。天然ガスは、現在は「燃料」ですが、水素社会においては「原料」としての役割を担うことになります。

CO2をさらに有効活用 注目はメタネーション技術

また、「カーボンリサイクル」にも力を入れます。一つは天然ガスから分離されたCO2と水素で都市ガスの主成分であるメタンを合成する「メタネーション」技術の開発を加速。新潟県長岡市にある当社の越路原プラント敷地内の試験設備が稼働中で、2021年度内に基盤技術開発が完了、段階的に設備能力をスケールアップさせ、2030年ごろの商業化を見据えています。

そして、もう一つが太陽光による水素生成の有効性を検証する「人工光合成」です。豪州ダーウィン市にソーラー水素製造パネルを設置。光触媒によって、水からカーボンフリーの水素を生成します。今年1月に検証がスタートし、同12月まで続ける計画です。

石油・天然ガスは今後も重要なエネルギー資源として需要が見込まれることから、上流事業は引き続き当社の基盤事業です。しかし、上流事業においてもCO2の削減を通じて、よりクリーンなエネルギーの安定供給を行っていくことが求められます。1980年代から研究してきたCCS・CCUS技術を活用し豪州イクシスLNG(液化天然ガス)プロジェクトなどにおけるCO2を削減し、クリーンなLNGをお客さまにお届けしたいと考えています。

グループが一体となって変革を成し遂げる

日本の地熱資源量は世界第3位といわれており、ポテンシャルは非常に高いと見られます。私たちの上流事業における物理探査や掘削技術の豊富なノウハウが地熱発電事業に応用できます。また、今後国内で大規模な開発が見込まれる洋上風力発電事業では、当社が豪州で操業する天然ガスプロジェクトでの海上浮体設備の設計から操業までの知見が活かせます。地熱発電や洋上風力などの再生可能エネルギーについても、上流事業とのシナジーを活かして、取り組みを強化します。

また、気候変動対応活動として豪州でのユーカリの植林・管理などのプロジェクトに加え、「REDD+(レッドプラス)」を中心とするインドネシアなどの森林保全プロジェクトを支援。CO2吸収、生物多様性の維持、地域社会の生活基盤の整備などを積極的にバックアップします。森林事業支援により得られたカーボンクレジットを活用し「カーボンニュートラルLNG」をお届けできるものと考えています。

今年4月の「INPEX」への社名変更は、「グループ一体となってエネルギートランスフォーメーションのパイオニアを目指す」という意思表示でもあります。2050年に向けて地球に対する責任を、しっかりと果たしたいと思います。