DXの推進やデータ活用が企業の競争力を決めると言われるようになって久しい。しかし日本では、DXを実現している企業とそうでない企業の二極化が際立っている。さらに新型コロナウイルス感染拡大によるテレワークの普及で企業のデジタル化が進んだ一方、貴重な「顧客データ」の獲得・活用に新たな危機が生じているという。日本企業は、今後DXおよびデータ活用にいかに取り組んでいくべきか。経済産業省の2020年「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」座長として日本のDX戦略を検討し、同省の『DXレポート』『DXレポート2』の作成をリードした南山大学理工学部教授の青山幹雄氏に話を聞いた。

DXで後れを取った日本企業が直面するリスク

新型コロナウイルスの影響によって、わずか2カ月の間に2年分のDXが実現した──。2020年4月、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏はそう語った。確かに日本でも従来では考えられないスピードでIT化が進展している。しかし実は、IT化=DXではない。

「日本でいうIT化は、主に業務の自動化や効率化によるコストダウンを目的としたものでした。一方、DXはデジタル技術とデータを活用しながら新たなサービスや付加価値を生み出すことを主眼としており、その本質は事業変革にあります。このDXで世界に後れを取っているのが日本の現状です」

南山大学の青山幹雄教授はそう語る。世界的ビジネススクールであるIMD(スイス)が公表した世界デジタル競争力ランキングの2020年度版で、日本は前年の23位から27位へ順位を落とし、同じアジアの香港、韓国、台湾、中国からさらに引き離された。なかでも「ビッグデータの活用と分析」「企業における対応の機敏さ」などは調査対象国63カ国中で最下位となっている。

「DXはどんな業界にも入り込み、産業構造を破壊的に変えていきます。ECによる流通変革もその一例。DXに対応できなければ、日本企業は世界から取り残されていくでしょう」

2018年、経済産業省が発表した『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』では、既存システムの分断や老朽化で十分なデータ活用ができない場合、デジタル競争力の低下、セキュリティリスクやシステム維持コストの上昇などにより、2025年以降、日本に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性が指摘されている。

データ軽視を脱し、効果的なデータ活用でDXを推進

日本企業の将来に暗い影を投げかける「DXの遅れ」。その大きな原因の一つに、青山氏は「データの価値に対する認識の甘さ」を挙げる。

「米国ではデータが競争力の源泉となることを経営者がよく理解し、データ活用への投資を続けてきました。しかし、ものづくりを重視してきた日本では、データという目に見えないものの価値を理解できない経営者がまだまだ多くいます」

DXの主眼が新たな価値・サービスの創造であることを考えれば、名刺などを入り口とする「顧客データ」がとりわけ重要であることに異論はないだろう。青山氏も「DXの中心はデータを活用した顧客接点の強化とその課題解決」と語っており、顧客データの獲得・活用はこれからの企業の生命線だ。しかし名刺情報の専有や、オンライン商談の普及による顧客データ獲得機会の減少といった課題への対応が遅れている企業も多い。

「まず商談で担当者が交換した名刺のデータを企業としてどう扱うかといった問題があります。商談は本来、企業対企業のものですから、そこで受け取った名刺も企業が獲得したデータとして蓄積すべきです。しかし日本では、データが軽視されていることもあってか、多くの場合、実際に名刺交換した担当者個人によって顧客データが専有されています」

この顧客データが社内で共有されれば、担当者の異動や転職に備えられるのはもちろん、顧客への接触も最適な社員が行うなど、組織として戦略的な動きを取ることができる。

「過去に各社員が訪問した履歴やその際の反応、また相手の異動履歴などが分かれば、見込み顧客に対するより効果的なアプローチが可能です。個人が専有していたら部分的にしか生かせなかった顧客データを、企業全体で共有すればデータ活用の全体最適が実現する。各種データによるシナジー効果も期待できるでしょう」

一方、昨今の急速なテレワークの普及により、オンラインによるミーティングや商談が増えた結果、名刺交換という顧客データ獲得の機会そのものが大きく減少している点も懸念されている。昨年9月にSansan株式会社が実施した調査でも、4人に1人が顧客データの蓄積・管理・活用に課題を感じていることが明らかになった。さらに問題なのは、この顧客データ獲得機会の減少の影響が顕在化するには時間がかかるため、現段階ではこの問題に気づいてさえいない人が多い点だ。「顧客データ危機」ともいえる状況に、企業はどう向き合うべきなのだろうか。

「やはり何より顧客データの重要性を再認識し、その価値を正しく理解することに尽きると思います。DXの本質は事業変革と言いましたが、それに伴ってデータに対する意識も変えられるかが、日本企業の未来を左右するといえるかもしれません」

 

オンライン商談件数や顧客データ管理に関する昨年5月の「緊急事態宣言」前後の比較。宣言前に比べ、オンライン商談件数は約2.5倍増となったが、名刺交換枚数は3割減。また、26.6%もの人が宣言後に顧客データ管理に課題を感じるようになっている。
出典:Sansan株式会社「企業の商談・人脈・顧客データに関する意識・実態調査(2020年)」

優れた技術・サービスの活用でDXの遅れを取り戻す

昨年12月に発表された経済産業省の『DXレポート2(中間取りまとめ)』によれば、コロナ禍によりDXを実現した先進企業とそれ以外の二極化が進んでいるという。今からDXの遅れを取り戻したい企業がすべきことは何だろうか。

「『DXレポート2』では、中長期、短期、直近の三つの視点から取るべき施策を紹介しています。なかでも企業が直ちに取り組むべきとしたのが、DXを認知・理解することと、各種製品・サービスの活用という一歩を踏み出すことの2点。後者については『業務環境のオンライン化』『業務プロセスのデジタル化』『従業員の安全・健康管理のデジタル化』『顧客接点のデジタル化』の4つを挙げています」

法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」もその一つの手段といえるだろう。社員が交換した名刺をデータ化し、相手の異動情報や先方への接触履歴などとともに全社で共有。オンライン商談でも、対面時と同様かそれ以上にスムーズかつ有益な名刺交換を行える「オンライン名刺」機能も搭載している。また、獲得した顧客データを社内共有する際には、相手のパーソナルな事柄も含めて、商談時の情報などを追加入力することも可能。単なる名刺管理にとどまらない、「顧客接点のデジタル化」を実現できる。

「優れた技術を組み合わせて活用することもDXへの近道です。このようなサービスは、顧客データの全体最適を実現する上で有効な手段になるでしょう。また、名刺から相手の氏名や連絡先などのデータだけを抜き取ると、どうしても情報が無味乾燥になりがちですが、そこに情報を付け加えて社内共有できるというのもいいですね。個人的にはこの点を今後より強化してほしいです。経済産業省でも導入されていると知って驚きましたが、DXの浸透・加速を考える組織ですから意義のあることだと思います」

参考文献:経済産業省『DXレポート2(中間取りまとめ)』。タイアップ広告制作グループが同レポートの一部を抜粋・編集して図版化。

コロナ禍を「しのぐ」ではなく、「変革する」契機に

『DXレポート2』でも「企業文化を変える」ことの重要性が指摘されているとおり、データ活用やDXを進めるには社員一人一人の意識改革が不可欠。しかし日本企業では、この変革に対して後ろ向きな声も少なくない。

「デジタルツールの導入で、自分の仕事がなくなるかもしれないと危惧する方もいるでしょう。しかし省力化が主な狙いだったIT化と異なり、DXの狙いは付加価値の向上。データを生かしてこれまでになかったサービスが生まれることにより、自分自身のさらなる最適化も期待できるわけです」

ここで青山氏が身近な例として挙げたのが配車アプリだ。

青山幹雄(あおやま・みきお)
南山大学理工学部 ソフトウェア工学科 教授
1980年、岡山大学大学院工学研究科修士課程修了、富士通株式会社入社。1986~88年、米国イリノイ大学客員研究員。1995年より新潟工科大学情報電子工学科教授、2001年より南山大学数理情報学部情報通信学科教授。2009年より現職。経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」座長を務める。

「日本ではタクシーを対象に運用されるこのアプリは、データを使ったマッチングによって運転手側は利用者を探す手間、利用者側は空車を探す手間が省けるようになり、双方の利便性が飛躍的に向上しました。これこそDXの理想的な形といえます」

Sansanも、その多彩な機能とセキュリティ対策が評価され、法人分野で8割超のシェアを獲得するほか、経済産業省、仙台市など行政組織への導入も進んでいる。コロナ禍で見落されがちな「顧客データ危機」に対応しながら、DXを推進する好例といえるだろう。

「コロナ禍で浮き彫りになったデータ活用の課題を、一時的な対応でしのごうとするか、本格的な変革の契機にするか。そこで企業の未来が変わります。課題が見えた今は、今までの不便をDXで解決していくチャンスでもある。経営者にはそんな前向きな姿勢で、改革を進めていってほしいですね」

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本記事でインタビューにご協力いただいた青山幹雄先生が、2021年5月13日に逝去されました。本記事広告は青山氏のご協力のもと、企業人の問題解決に資するコンテンツとして作成されました。ご生前のご厚情に深く感謝申し上げます。