SMBCグループは、2020年4月に「SMBCグループ サステナビリティ宣言」を打ち出し、重点課題に掲げた「環境」「コミュニティ」「次世代」への取り組みを加速させている。その一環として長年支援しているのが、脚本家・倉本聰氏主宰の「富良野自然塾」だ。先ごろ、同グループCEO・太田純氏と倉本氏の特別対談が実現。同グループのWebサイト上でも発信されている2人の対談のポイントを改めて整理しながら、サステナビリティの実現について考えてみる。
左:(おおた・じゅん)1958年生まれ。三井住友フィナンシャルグループ取締役執行役社長、グループCEO。82年に旧住友銀行に入行。2009年三井住友銀行執行役員、17年三井住友フィナンシャルグループ取締役執行役副社長などを経て、19年より現職。
右:(くらもと・そう)1935年生まれ。脚本家・演出家として、代表的なテレビドラマシリーズ「北の国から」をはじめ、数々の名作を生み出す。また84年~2010年には自ら立ち上げた「富良野塾」で後進の育成に励んだほか、06年には環境教育活動を行う「富良野自然塾」を開校。

地球は子孫から借りているもの
きれいにして返すのが当たり前

災害大国といわれ、毎年のように多くの自然災害に見舞われる日本。昨年から今年にかけては新型コロナウイルスの猛威にもあうなど、多様な災害による被害は年々深刻度を増している。こうした状況を倉本氏は「地球が怒っている」と指摘。その真意とは──。

【太田】近年、地震や集中豪雨などの大規模な災害が毎年のように発生しています。ただ、これらを「想定外」とすることには違和感があります。今回の新型コロナウイルスの感染拡大も、やはり地球の隅々まで人間が行き渡っていることが要因の一つではないでしょうか。つまり「想定外ではなく必然であった」と。倉本先生はよく「地球が怒っている」という言い方をされますが、最近の災害についてどのようにお考えですか?

【倉本】やはり文明が進みすぎている気がしますね。それが海水温の上昇につながり、結果さまざまな風水害の原因になっているのではないでしょうか。このような問題について論じるとき、例えば学者や政治家などは「海水温が1~2℃上昇」と他人事のように話すのですが、人間なら体温が2℃上昇すれば大変ですよね。それと同じで海も今高熱を出しているんじゃないかと。そのような状況を自分自身に置き換えずに考えていることが、環境問題をより悪化させているように思います。

【太田】富良野自然塾には、「地球は子孫から借りているもの」という言葉が書かれた石碑がありますね。

【倉本】これはネイティブ・アメリカンの言葉なんです。彼らにはそもそも「土地を所有する」という概念がありません。その代わりに、トラップラインという自分やその一族が罠をかけていいとされる土地があります。この土地をより豊かにして子孫に引き継いでいくという伝統が、「地球は子孫からの借りもの」という思想に結びついているのでしょう。

【太田】借りているということは、返さなくてはならない。しかも、もし借りているものを汚してしまったら、きれいにして返すのが当たり前です。世界はようやくこの当たり前のことの大切さに気づき、その思想が徐々に広がり始めているように思います。

次世代の環境意識を醸成する理想的なコミュニティとは

環境問題を自分事化し、当たり前のことを当たり前に行うのがサステナビリティ実現の条件──。2人の話からはそんなことが読み取れる。このような環境意識を醸成するため、SMBCグループが「環境」に並ぶ重点課題に掲げているのが「コミュニティ」と「次世代」だ。倉本氏が主宰する「富良野自然塾」では、人と人とのつながりから生まれる「コミュニティ」で、よりよい社会の担い手となる「次世代」が育まれているという。

【倉本】かつて子どもたちの養育係は祖父母でした。お父さんとお母さんは子どもを預けて働きにいく。すると祖父母のほうが知恵や経験があるからいい子に育つ。今はこの家族制度という一番根本的なコミュニティが失われてしまったように感じます。

【太田】私たちSMBCグループが支援させていただいている富良野自然塾も、次世代の育成という役割を持ったコミュニティの一つですよね。

「富良野自然塾」では、人と人のつながりを生むコミュニティで、次世代の環境意識が育まれている。

【倉本】あの場所にあったゴルフ場が閉じるという話を聞き、そこを以前の森に戻そうと考えて創設しました。SMBCグループには2006年のスタート時からずっと応援していただいて、おかげさまでこれまでに8万本近くの木を植え、今やゴルフ場だった形跡はなくなりました。

【太田】森を切り拓いて造成されたゴルフ場をもう一度森に返そうという発想には驚かされましたが、これこそ子孫から借りているものを元の形にして返すという発想なんですよね。倉本先生はこの自然塾の前にも、若手の俳優志望者などを養成する富良野塾も立ち上げ、2010年に閉じられています。そこにはどんな思いがあったのでしょう?

【倉本】自分の体力の問題と、あとは無感動な若者が増えたことが大きいです。これはやはり偏差値教育の弊害だと思います。みんな覚えることはできますが、自分のものを生み出さない。想像力がどんどん落ちていったように感じました。

【太田】わかるような気がします。ただ、企業に就職してくる最近の若者は、決して捨てたものではないです。確かに出世欲や野心、お金への意識などは私たちの時代に比べて低く感じますが、その分、自分が仕事を通じてどう社会に貢献するかという意識は強く持っています。環境意識も高く、進んでボランティア活動に参加する若者も少なくありません。次世代に必要なこの意識を企業というコミュニティでどう育てていくかが、環境問題にも少なからず関わってくる気がします。

【倉本】そういった点を含めて、環境問題への取り組みは実に長い時間がかかるものですよね。自然塾の活動そのものですが、コツコツやり続けることが何より大切。SMBCグループには、今植えたばかりの木が巨樹になるまで、世代が代わっても末永くご支援いただけますようよろしくお願いします。

【太田】私たちも小さなことを積み重ねて、きれいな地球を子孫に返していきたい考えです。先生の思想やお言葉に集う仲間も含め、社会全体を巻き込みながらみんなで盛り上げていきたいと考えています。

地球環境への思いを共有する仲間の輪やコミュニティを広げ、さらにそのコミュニティで次世代の環境意識を育む。サステナビリティの実現には、こうしたサイクルと長い時間が必要だ。SMBCグループの先達たちが1600年代より現代でいうサステナビリティの考え方を経営に取り入れ、以来日本におけるサステナビリティ実現の旗振り役を担ってきたという歴史がある。企業におけるサステナビリティの在り方を考えるなら、SMBCグループの今後の取り組みに注目していて損はないだろう。